第30話 勝確鉄板って?
王都の西の空に太陽が沈みかけている。アイシャさんと王都内を飛び回り、ゴブリンを倒して、怪我人の治療も行った。
不敬にも王都の中央にあるお城の尖塔に転移して、王都全体を索敵する。
「もうゴブリンはいないみたいですね」
「まあ、あんだけ倒せばな」
僕とアイシャさんで二、三百匹は倒した感がある。
「レスティーア様が首を長くして待ってそうですね」
「……いや、逆に早すぎて
◆◆◆
「は、早かったですね」
レスティーア様が待っているワーズナー伯爵の馬車へと戻ったのだが、アイシャさんの予想通りレスティーア様達は吃驚していた。馬車の中にいるワーズナー伯爵と伯爵夫人も驚いた顔をしている。
「まあ、アルスタだからな」
何ですか、僕が変人みたいな言い方は?
「いえ、アイシャさんがいてくれたお陰ですよ」
僕一人が変人扱いされてはいけないよね。実際、アイシャさんの活躍は目覚ましいものがあったのは事実だからね。
「って言うかさ、めっちゃ腹が減ってるんだけど、なんか食う物ある?」
お昼ご飯抜きでゴブリン討伐していたから、僕も腹ペコだ。
「こちらをどうぞ」
と伯爵夫人がクッキーが入っているバスケットを差し出してくれた。アイシャさんはガッツリと掴み、僕は一枚手に取る。
「美味しい!」
この一ヶ月、砂糖を使ったお菓子など食べてはいない。常闇のダンジョンに戻る前にお菓子も沢山買い込もうと心に誓った。
◆◆◆
僕達はワーズナー伯爵の馬車に乗せて貰い、王都の門を潜った。大通り沿いのお店はあちらこちらがゴブリンによって破壊されている。
「酷い状況ですね」
レスティーア様が街の惨状を見て悲しみを込めてそう呟いた。
ゴブリンの掃討が終わって間もない為か、衛士や冒険者以外は歩いている人はいない。まだ街の警備が続いている感じだ。
「ワーズナー伯爵、お城まで付き合わせてしまい、申し訳ない」
アイシャさんが伯爵に頭を下げる。
「いえ、王女殿下のお力添えができ、ハウゼン侯爵に良い土産話が出来ます」
ハウゼン侯爵は初めて聞く名前だな。まあ、僕はこの国の政治には関係ないから、貴族の名前は特に覚える必要はないかな。
馬車は道の途中で横たわるゴブリンの死骸などが邪魔をして、幾分ゆっくり目に走っていた為か、1キロも無い道のりを二十分程度かけて走りお城へと到着した。
馬車は厳重な警戒態勢にある城門の前で停まる。馬車の外側から扉が開き警護の騎士が一人、中に入ってきた。
「アイシャ様!」
入るやいなやアイシャさんに気付き驚きの声をあげた。
「王都内でのご活躍の件、城内でも噂になっておりますぞ」
アイシャさんに会えたのが余程嬉しいのか、馬車内にいるVIPの存在に気が付いていない。
「噂とは、どの様な噂ですか?」
騎士は掛けられた声の方を見てギョッとする。慌てて片膝をついて低頭した。
「お、王女殿下、し、失礼致しました」
他にも上位貴族のワーズナー伯爵がいるのだが、騎士は気づいていない感じだ。
「構わないわ。お話を聞かせてください」
「はい。王都に突如現れたゴブリンの群れ、その多くをアイシャ様と聖人様が撃退。更に聖人様は神の血を用いて多くの将兵や王都民をお救い下さったと、城内や避難所ではその話しで持ち切りです」
「まあ! やはりアルスタ様は聖人様だったのですね!」
なぜ僕が聖人様になっているんだ? 治療するだけで聖人様呼びされるなら、教会の神父さんや治癒魔法が使える人は、みんな聖人様、聖女様になってしまうよね。
「いやいや、僕はただ治療をしただけですよ。ですよね、アイシャさん」
「あれはただの治療とは言わないな。ハイポーションを上回る高級治癒薬を湯水の如く使って、お代も取らない。金貨にしたら数千枚近くの治療費を見返りも無しで使うヤツは、聖人様と呼ばれてもおかしくないと思うぞ」
「でも人の命には代えられませんよね?」
「……アルスタは聖人様確定でいいんじゃないか?」
少し呆れた顔でアイシャさんが僕を見る。
「レスティーア様は……」
駄目だ。レスティーア様は瞳をキラキラと輝かせて僕を見ている。
メッシーナさんも、ワーズナー伯爵も、伯爵夫人も、僕に何かを期待する様な視線を向けているし、話を持ち込んだ騎士は目が点だ。
「……僕は聖人じゃありませんよ?」
何なら小悪魔っ子のパシリですよ?
「いえ! アルスタ様は聖人様です! その胸の聖紋が何よりの証です!」
レスティーア様は、僕の胸に付けてある三対の白い羽のアクセサリーを指差して、何を根拠にか分からないけど、聖人様認定を下した。
「でもこれはルルエル様からの貰いものですよ?」
「貰いものでも、拾いものでも、聖紋がアルスタ様を所有者と認めたのです! アルスタ様は聖人様で間違いありません! 勝確鉄板間違いなしですッ!!」
勝確鉄板ってどこで覚えたんですか、そんな言葉? 意気揚々と僕を聖人様扱いするレスティーア様。
「聖人アルスタ様、お城に参りしょう!」
レスティーア様は僕の腕に抱きつくと、満面の笑みでそうおっしゃいましたとさ。
どうしてこうなった!?
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