第27話 ゴブリン襲来1
常闇のダンジョンがあるダルタニアス王朝の古代遺跡群を出て半日程度歩くと、田畑が広がる開けた土地の先に、高い城壁に囲まれた城郭都市が見えた。
「アルスタ様、あれが王都リデアです」
僕が生まれて初めて訪れる異国の王都。はっきり言ってワクワク感が止まらない。「さあ、参りましょう」と、レスティーア様が僕の手を取り、整備された街道を早足で歩き始めた。
さて、ここに至る道中は僕について色々と質問をされていた。
先ずは僕の身の上話。
続いてザートブルク王国で横行している能力至上主義による、無能な子供達の棄児の話。
更には、僕の家の伯爵家が常闇のダンジョンに子供を捨てる話。
そこで僕が生き残り、ルルエル様と出会った話。
「酷い話ですね」
と言ったのはメッシーナさん。
「でも、そのお陰であたし達は命拾いしている。こういうのを奇縁と言うのかね」
アイシャさんが笑いながら言うと、話しの流れからか、待ってましたとばかりに、常闇のダンジョンの五十階層から百階層までの事を聞いてきた。
五十階層の自然フィールド、六十階層の巨人ワールド、七十階層の極寒地獄と八十階層の灼熱地獄、九十階層の毒毒モンスター、百階層の三頭竜などの話をしてあげたら、とても喜んでくれた。
「今度、五十階層に連れて行きましょうか? とても綺麗な場所が有るんですよ」
などと話しをしたら、僕に抱きついてくるほどに、過激に喜んでくれた。またしても巨大メロン、ゴチです!
それからアイテムボックスについてだ。僕は三人分のアイテムボックスを作ろうとしたのだけど、レスティーア様達はアイテムボックスに物を入れる事が出来なかった。アイテムボックスは僕にしか使用できないって事が分かった。
レスティーア様達とは出会ってまだ1日だけど、この道中でだいぶ打ち解けた感じだ。
「王都に入ったら先ずは飯だな」
王都に着いたらみんなでランチを取ろうとアイシャさんが提案した。
「でも直ぐにお父様達に薬を……」
「飯は食える時に食っておくものだ。城に戻ったらバタバタするのは目に見えているからな」
王都でランチ。めちゃめちゃワクワクする。何しろ僕は強制引き籠もりだった訳で、自国の街でさえ歩いた事がない。王都に着いたら色々と見て回ろう! お酒はもちろんとして、食べ物や日用品、少しは武具も見てみたい。
日はまだ高い。王都見物をする時間は十分にある時間だ。
僕は胸を弾ませながら、あと少しの距離の王都を目指した。
◆◆◆
「凄い渋滞ですね? いつもこうなんですか?」
王都に続く道は、沢山の人が並んでいて、まだ1キロメートル近くを残して足が止まっ……らなかった。
「並ばないんですか?」
「はい。こちらは一般列です。王侯貴族用の門は別に有ります」
教えてくれたのはメッシーナさん。渋滞を横目に僕達は王侯貴族用の門を目指した。
「こっちも並んでいるのか? ちょっと聞いてくる」
王侯貴族用の門の前にも、豪華な馬車が並ぶ列が出来ているのが見える。普段はこんなに並んではいないのだろう。不審に思ったアイシャさんが一足先に列へと走っていった。
◆◆◆
「昨夜、市街に大量のゴブリンが現れたそうだ。掃討される迄は中には入れないって事だ」
戻ってきたアイシャさんがそう報告する。王都にゴブリンが出没する話はレスティーア様から聞いていた。その為に騎士団や冒険者達が駆り出されていて、レスティーア様達は三人で危険な常闇のダンジョンに入る事になってしまったのだ。
「では、待つしか有りませんね……」
レスティーア様が沈んだ声で答える。お昼ご飯も抜きにしてでも、お城にブラッド・ブルを持っていきたい気持ちを持つレスティーア様としては、ここで足止めされて意気消沈してしまうのは仕方がない。
「もう暫くしたら、きっと中に入れますよ」
メッシーナさんがレスティーア様を励ますが、その言葉に根拠がない事を分かっているレスティーア様は「そうですね」と苦笑いしか出来なかった。
「中の様子を探ってみましょう」
僕は魔力を多めに注ぎ込んだ索敵魔法を唱える。指向性を持たせ、前方120度ぐらいの角度内で距離にして約500メートルを索敵する。サーチするのは魔物と人間、それ以外は拾わない様に索敵した。
「……分かる範囲内だけでも、ゴブリンが二百匹近くはいます。戦っている人の数は百人ぐらいですね」
ざっくり王都の三分の一ぐらいを索敵できた。王都の騎士団、衛士、冒険者を含めてもこの範囲内で百人は少ない気がするけど、こんなもんなのかな?
「戦っている人が少ない気がするんですけど?」
「騎士団の半数が北の森の調査に行っている。それでも王都の騎士、衛士はニ、三百人はいる筈だ。夜通しの戦闘で削られたか?」
「それって、ヤバくないですか?」
「そうだな。あたしも騎士団を辞めたとはいえ、今の状況は看過できない。アルスタ、協力して貰えるか?」
「はい。お酒が買えなかったらルルエル様に怒られますから」
アイシャさんがニヤリと笑い、僕に握手を求める右手を出してきたので、その手を握った。
「助かるよ。アルスタがいれば、ゴブリンなど直ぐに殲滅出来そうだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。レスティーア様の護衛を私一人では無理ですよ〜」
急に決まった話にメッシーナさんが焦り顔だ。確かに王女様をメッシーナさん一人に預けるのは危険かもしれない。
「貴族の列の中にワーズナー伯爵家の馬車があった。ワーズナー伯爵であれば信用出来る御人だ。ここは伯爵に協力を仰ごう」
そうして、レスティーア王女の護衛をワーズナー伯爵にお願いして、僕とアイシャさんは貴族用の門へと走った。
門を警備する衛士はアイシャさんを知っていた事もあり、事情を話したアイシャさんと僕は王都の中に入る事が出来た。
「酷い有り様だな」
門を潜った先にある大通りには人っ子一人おらず、通り沿いに並ぶ沢山のお店はゴブリンの襲撃によって破壊されていた。
ガタッ
物音がしてそちらを見れば、荒らされた花屋の中からゴブリンが一匹出てきた。こちらに気が付いたゴブリンは躊躇する事なく、こちらに襲いかかってくる。
「空間固定!」
ゴブリンの足を止める。
「短転移!」
ゴブリンの後方に瞬間移動。
「アイテムボックス!」
右手の先に不可視のアイテムボックスを作り出し、ゴブリンの頭を狙う。アイテムボックスがこちらの空間から異空間に移動する際に発生する、空間消失現象によりゴブリンの頭が消失した。
「鮮やかだな、アルスタ」
「ハハ、僕にはこれしか無いですから」
「『これ』とか言うな。常闇の主だって倒せる魔法だろ。最強魔法だよ。ただあれだな」
ん? あれとは何だろう?
「『アイテムボックス』とか連呼してると、変な
確かにアイシャさんの言う事はもっともだ。今までは人目が無かったから気にもしていなかった。
「そうですね。ちょっと考えてみます」
そして、僕のアイテムボックスによる空間消失現象は、ディメンションブレイカーと改名された。
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