第24話 聖紋
「アルスタさんッ!」
僕とアイシャさんがお肉を食べていると、レスティーア様が慌てて脱衣所から飛び出してきた。
って!?
なんだ、このご褒美は!?
デザートかッ!?
だって、レスティーア様はうっっすい下着姿だよ?
少し濡れた肌に下着が張り付いて、可愛い膨らみにピンクの蕾が薄く見えてたり……。
「アルスタさんッ! あなたのそれは聖紋ですかッ!」
聖紋? レスティーア様が何を指して聖紋と言っているのか分からない。って言うか聖紋って何? って言うか下着姿がヤバ過ぎる! はっきり言って聖紋どころではない!
「えっと、何が聖紋なんでしょうか?」
それでも僕の中の紳士が『お姫さんよぉ、あんたぅっぱいが透けてるぜ』などと口には出さない。
「アルスタさんの胸にあるアクセサリーです!」
僕の胸に付けてある三対の白い羽のアクセサリー。御守り代わりにルルエル様から貰ったものだ。
「これですか?」
「はい。我が国に伝わる伝説の神物の一つ、聖紋です。これを見て下さい」
そう言ってレスティーア様が胸に手を当てた。手を当てた場所には、2つの小さな蕾がうっっすい下着から透けて見えている。つまりは僕に蕾をガン見しろと?
はい、喜んで!
とは僕の紳士は答える筈もない。
「あ、あの……ぼ、僕に何を見ろと?」
僕は火照る顔で、チラッとだけレスティーア様の胸元を見た。
「私の胸にある王家の…………」
レスティーア様が、赤く頬を染めた僕の視線の先、つまりは手を当てている自分の胸元を見た瞬間、頭から火山の噴火の様に火を吹いた。
「な、なんで、私、し、下着姿で……」
「レスティーア様ぁぁぁ」
脱衣所から慌てた顔のメッシーナさんが駆け寄ってくる。彼女は服は着ているが、急いで着たせいか、胸元のボタンが半分までしか止められていない。これはこれで、なかなかにグッドだよね。
「ふ、服を、服を着てください」
メッシーナさんが持つ神官が着る白いローブを、レスティーア様に頭からカポッと被せた。
ローブの中で、頭と手を上手く出せずに、レスティーア様がもがいている。その様子は見てて面白かったが、僕の視線はローブに施されている刺繍で止まる。
三対の白い羽の刺繍は、僕が持つアクセサリーと酷似している。って言うかそっくりだ。
レスティーア様の頭がローブからの抜け出しに成功し、続いて両手もニョキっと生えた。
「し、失礼しました」
真っ赤な顔でペコペコと平身低頭するレスティーア様。『いえいえ、こちらこそご馳走様でした』と僕は言いたい。しかし、紳士な僕が言ったのは――。
「頭を上げて下さい、レスティーア様。レスティーア様が仰っていたのは、その胸の刺繍の事ですよね?」
レスティーア様の顔はまだ少し赤い。そんな姿さえ美しく見えてしまう。
「はい! この刺繍は王家の紋章にして、原初の女神クロノエル様を象徴する三対の白い羽を表しています。そして、そのルーツは聖紋にあると聞いています」
原初の女神? ルルエル様は時空の女神様って言ってたよな? 同一の女神様で合っているのかな?
そして、ルルエル様から貰ったアクセサリーが聖紋? 常闇のダンジョンに古えの魔王が封印したっていうレアアイテムだから、確かにそれはあり得る話しだ。
「これは百階層でルルエル様から貰った品です。遥か昔の魔王が封印したアイテムだと言っていました」
「ルルエル様って誰だ?」
と、聞いてきたのはアイシャさんだ。
「ルルエル様は、百階層に閉じ込められている魔族の女の子です。今の魔王によって千年も昔から閉じ込められています」
七百年前に一度だけ外に出た事は伏せておく。先ほどの自己紹介でレスティーア様が名前を告げた時に気がついた。
レスティーア・ダルタニウス。ダルタニアス王朝の末裔にして最古の歴史を持つ王国の王女様。
ご先祖様の国が滅びた理由が、お酒の買い出しだったとか言えやしないよね、そんな事。
「魔族の女の子? 魔王に幽閉されてるとか、何やらかしたんだ?」
「ルルエル様は魔王に成りそこねたと言ってました。魔王の策に嵌りこのダンジョンに幽閉されたと聞いてます」
「って事は魔王クラスに強いって事か!?」
「そうですね。最下層の守護竜を瞬殺出来るぐらい強い人です」
「……化け物だな、そりゃ」
「でも、良い人ですよ。僕の命の恩人で、僕に魔法を教えてくれたのもルルエル様ですから」
「……そいつは、あたしなんかが戦ったら秒を待たずに死ねそうだな」
いえいえ、ぅっぱい対決ならアイシャさんの圧勝ですよ。完全勝利ですよ。
「その方がアルスタさんに聖紋を? なぜ魔族が?」
「それは、僕が無事に百階層に戻れる様にと、御守り代わりにくれました」
「「「百階層に戻る!?」」」
笑っちゃうぐらいに三人が綺麗にハモリ、驚いた顔で僕を見ている。
「はい。僕は買い物を頼まれていますので」
僕のその言葉で、アイシャさんの雰囲気が変わる。真面目な声で僕に聞いてきた。
「買い物ってなんだ? まさか人肉や魂とか言わないよな?」
「お酒ですよ? お酒が飲みたくて死にかけていた僕を助けてくれたんです」
「なんだそりゃ! アハハハ、それじゃあアルスタは、お酒の買い出しのために人外魔境の常闇のダンジョンを往復しようってのかい」
アイシャさんは一変して愉快に笑いだした。
「まあ、そうなりますね。ルートは概ね分かったので、戻りは多少は楽になると思います」
「多少は楽とか、どのレベルだよ。是非ともその話は聞きたいところだが――」
アイシャさんは僕の持つ聖紋を、瞳を輝かせて興味津々で見ているレスティーア様に気が付いたようで、常闇のダンジョンの話は後で聞かせろよ的な視線で僕を見た後に――。
「アルスタ、レスティーア様にその聖紋をよく見せて上げてくれないか」
「あっ、はい。レスティーア様、これを」
僕は胸から聖紋を外すと、ちゃぶ台の上に置いた。それを両手でそっと触れようとするレスティーア様。
「これが伝説の聖紋……。えっ!?」
触れようとした瞬間、レスティーア様の手が弾かれた様に跳ねた。何が起きたのか僕にも分からない。
「大丈夫ですか、レスティーア様!」
レスティーア様の隣に座っていたメッシーナさんが、レスティーア様の手を取り、怪我がないか直ぐに確認する。特に切り傷や擦り傷などは無い様に見える。
「大丈夫よ、メッシーナ。でも、なんで……」
レスティーア様が戸惑いを見せているそばから、アイシャさんが聖紋に触れようとしたが、同じ様に手が弾かれてしまった。
どういう事だろうかと、僕が聖紋に手を寄せるが、弾かれる事はなく普通に触る事ができた。
「なんかすみません。僕しか触れないみたいです」
「……そうみたいですね」
レスティーア様が少し残念そうな顔でそう言う。
しかし、ルルエル様は触れていたし、何か秘密がありそうだな。
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