第16話 三十階層にて

 五十九階のボス部屋にいたのは、やたらデカい古木のトレント。その流れからか、五十階層は密林と草原のオープンフィールドだった。


 出てきたモンスターは植物系モンスターや、野獣系モンスター、鳥獣系モンスター、昆虫系モンスターなどなど多彩だった。


 一番ヤバそうだったのは十匹以上で編隊を組んで飛んでいたグリフォンの群れだ。もちろん手出しはしなかったよ。


 緑の木々に覆われ、綺麗な川や美しい湖なども有り、風光明媚なエリアもあった。僕に薬草の知識が有れば、珍しい薬草も見つけられたかもしれない。


 また、この階層で倒した魔獣等は素材や食肉として良い値段で売れそうだ。グリフォンも結局数体は倒す事になり、これも良い値段で売れそうだ。


 五十階層は時間がある時にゆっくりと探索したい、興味深い階層だった。

 

 四十階層は迷宮型で、ボスモンスターはオーガキングに二体のオーガージェネラル。初めて複数体がいるボス部屋だった。下層だからかな?


 ボス部屋を出てからはオーガージェネラルやオーガーメイジ、オーガーソルジャーに普通のオーガが出てきた。


 三十階層も迷宮型だった。四十階層から地上迄は迷宮型が続くのかもしれない。


 三十九階のボスモンスターはオークキングとオークジェネラが2体、更にオークビショップにオークメイジ。


 先ずはヤバそうなオークメイジだな。


「短転移!」


 速攻で短転移して、右手に作ったアイテムボックスで一体を瞬殺する。続けて長く伸ばしたアイテムボックスを作り、もう一体のオークビショップの頭を消失させた。


 僕の方に巨大な斧を持って駆け寄る2体のオークジェネラル。


「大きい……」


 オークジェネラルはオークメイジより一回りデカく3メートル近い。


「空間固定!」


 先ずは後方の一体を空間固定で足元を固定し、前方のオークジェネラには短転移して新たに作ったアイテムボックスで頭を消失させる。


 更に後方で戸惑っているオークキングの背後に短転移で瞬間移動。


 掌底突きの様に右手をオークキングの後頭部に伸ばす。手の先にアイテムボックスを作り、オークキングの頭の中へとすり抜け入る。直後に空間消失現象でオークキングの頭が消失する。


 残る一体のオークジェネラルは、空間固定の魔法でまだ動けないでいた。


「アイテムボックス!」


 オークキングが崩れ落ちるその場所から、不可視の長いアイテムボックスを作り、オークジェネラルの頭を狙う。空間消失現象で頭を失ったオークジェネラルが倒れボス部屋の戦闘は終了した。


 百階層から出て一ヶ月経たないうちに、ルルエル様から貰った命の力と莫大な魔力、そして沢山のモンスターを討伐した経験が、僕を一端の魔法戦士にしてくれた。


 ルルエル様のお使いが終わった後に、伯爵家に戻れば父親も無能などと言わずに僕を認めてくれると思う。でも僕にはその気は無い。


 僕自身の伯爵家の思い出は追放を言い渡されてからの、ほんの数時間でしかなく、父親に能力を信じて貰えずに意識を手放したアルスタの気持ちを考えると戻る気にならない。


 倒したオーク達をアイテムボックスに収納する。オーク肉は伯爵家でもたまに食卓に並ぶ高級食材で、とても美味しいお肉だ。オーク肉なら絶対に買い取りをしてもらえるから、酒代の足しになるだろう。


 三十九階のボスの間を出て三十八階、七階、六階と登った。今まで魔物の雄叫びしか耳にして来なかったのだけど、明らかに違う声がダンジョン迷宮内で聞こえた。


「……人の声?」


 常闇のダンジョンは人が入る様なダンジョンではないと思い込んでいた。でもそれは伯爵家にある閉ざされた扉のイメージが強すぎたからだ。


 現実を見れば、この階層にはオークが出現する。高値で取り引きされるオーク肉を求めて、冒険者などが入って来ていてもおかしくない。


 僕は久しぶりに人に会えると喜び勇んで、声がする方に走って行ったのだけど……。


「レスティーア様、メッシーナはもう助からねえッ! あたしがコイツを抑えているうちに逃げてくれッ!」


 円形の少し広い場所で戦闘が行われていた。僕の側から見て、手前に2体のオークメイジ、その向こうに大きな斧を振るうオークジェネラルが一体、その足元近くには既に4体のオークの死体がある。


 オークジェネラルの巨大な斧を半分砕けたカイトシールドで受け止めているのは、赤い鎧を着た女騎士。既に満身創痍の様に見える。


 更にその後方の壁には、腹部を大きく切られ大量の血を流し横たわっている魔法使いの女性。


 その女性に回復魔法を唱えている長い金色の髪の女性神官がいた。


「早く逃げろッ! あたしも……クッあッ!!」


 オークジェネラルの巨大な斧が半分砕けていたカイトシールドを破壊し、女騎士が吹き飛ばされる。


 見ている場合じゃないッ!


「短転移ッ!」


 3メートル近い巨体のオークジェネラルの真上に瞬間移動をし魔法を放つ。


「アイテムボックスッ!」


 不可視のアイテムボックスがオークジェネラルの頭に伸びる。そして、空間消失現象でオークジェネラルの頭を消失させた。

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