第17話 謎の少年 【レスティside】

【レスティーア視点】 

 オークメイジの風の刃がメッシーナの腹部を大きく切り裂き、大量の血を流しながら彼女は石畳に倒れました。


「メッシーナッ!」


 前衛でオークジェネラルに盾を半分壊されながらも奮闘するアイシャさんから目を切り、メッシーナの元へ駆け寄ります。


 死


 半分近く切られたメッシーナの腹部からは内蔵までもが溢れ落ち、彼女の意識は既に有りませんでした。


「ハイヒール!」


 私は残された魔力を全て注ぎます。5年前から私の従者となり、十五歳になった今年、共に魔法学院に通う私の大親友のメッシーナを死なせたりはしません!


 しかし、私のハイヒールの回復力よりも、流れ出る血の量が多く、傷口が塞がりません。


 やだ、やだ、やだ!


 家族が呪毒により倒れ、その呪毒を治療する為の神物を求めて入った常闇のダンジョン。このダンジョンが危険な事は、入る前にアイシャさんから聞かされていました。


 神物など奇跡でも起きなければ見つからない秘宝です。そんな幻のアイテムを探す為に、私の親友が命を無くそうとしています。


「ハ、ハイヒール!」


 神様、メッシーナの傷口を塞いで下さい! しかし祈りは届かず、メッシーナの体は急激に冷たくなって行きます。


「レスティーア様ッ! メッシーナはもう助からねえッ! あたしがコイツを抑えているうちに逃げてくれッ!」


 アイシャさんが、残酷な現実を口にしました。そんなアイシャさんもオークジェネラルを前にして満身創痍で戦っています。


 そして――。


「早く逃げろッ! あたしも……クッあッ!!」


 オークジェネラルが、アイシャさんが持つ盾を巨大な斧で破壊し、アイシャさんが木の葉の様に宙に舞いました。


 お父様を、お母様を、お兄様を救う気持ちで入った常闇のダンジョン。しかし現実は私達の死によって終わろうとしています。


「アイシャさんッ!」


 宙に舞ったアイシャさんが石畳に落ち、鮮血が舞います。全ては私の浅はかさが招いた結果でした。


 私の心が、絶望の暗闇に閉ざされようとした時です。


「アイテムボックス!」


 男の子の声が聞こえました。見ればオークジェネラルの頭が無くなり、太い首から鮮血が飛び出ています。


 そして、宙空に浮かぶ黒い髪の少年。


「短転移」


 少年の姿が消えたかと思うと、私の目の前に少年が現れました。


「うっ、これはヤバい傷だ! アイテムボックス! ブラッド・ブルをリリース」


 少年が何かを唱えると、何も持っていない彼の手から赤い液体が大量に流れ出て、倒れているメッシーナにかけ始めました。


 ……これは血?


 メッシーナが流した血と彼がメッシーナにかけている赤い液体とで、石畳が真っ赤に染まっていきます。


 何が起きているのか理解が追いつきません。そして私はハッと思い、まだ倒していない2体のオークメイジを見ました。


 オークメイジの風の刃がまた飛んできたら…………あれ? オークメイジ2体も頭を無くして倒れていますね? 


 私はまた黒い髪の少年に目を戻しました。私が知らない間に、彼は戦闘を終わらせていたのです。


 この少年は何者ですか?


「ヨシッ! お姉さん、この人の意識が戻ったらこれを飲ませてあげて。短転移!」


 少年が腰に下げていた水筒を私に渡すと、少年が突然姿を消しました。


 えっ!?


 消えたと思った少年は、向こうで倒れているアイシャさんの所にいました。そしてまた、何も持っていない手から大量の赤い液体を出してアイシャさんにかけています。


「グハッ、ゴホッ、ゴホッ」


「メッシーナッ!」


 大きな傷を負って死にかけていたメッシーナが咳き込みながら、気管に溜まっていた血を口から吐き出しました。


 見ればメッシーナの腹部の傷は綺麗に治っています。


「メ、メッシーナ、これを飲んで下さい!」


 私は慌てて少年から渡された水筒を、意識が混濁しているメッシーナの口にあてがいます。メッシーナの口元から口に入らなかった赤い液体が流れます。


 やっぱり、この液体は血でしょうか?


 赤い液体を少し口に含んだメッシーナは、徐々に意識が回復し、少年の水筒の赤い液体を自らの手で持ち飲み始めました。


「……レスティーア……様……わたし……」


「メッシーナァァァッ!!」


 意識を戻したメッシーナに私は抱きつきました。


 よかった、よかった、メッシーナが生きててくれたッ!


「レ、レスティーア様ァァァ!!」


 メッシーナも私を強く抱きしめて、大粒の涙を流しています。


 よかった! 本当によかったよぉぉぉぉぉ!!



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