第14話 ディメンションルーム
「あ〜寒かった! あんな所で睡眠タイムなんて無理だよッ! 絶対凍死するってッ!」
ボス部屋がセーフティエリアだと思っていたけど、流石にあそこは無理だ。まだ八十階で物陰に隠れて寝た方がマシだ。
しかし、七十階層全体が氷や雪のエリアだとしたら、六十階層に到達するのは不可能に近い。いくらブラッド・ブルを飲み続けても、寒さで心が折れてしまう。
「何か対策を考えなくちゃだね」
一先ずアイテムボックスからトライヘッドドラゴンの肉片を取り出して、生活魔法の発火で炙り、口に頬張る。毎日食べているけど、相変わらず激美味いッ!
「……寒さに対する対策かぁ。防寒着とか無いし……。空間障壁で体を覆う? いや継続時間的に厳しいよね……」
ブラッド・ブルが有るから魔力切れを起こす心配は無いから、活動中は空間障壁で体を覆う事は出来そうだ。しかし、眠っている時は継続時間が切れたら解除されてしまう。
「何か使えそうな魔法はないかな……」
手持ちの魔法では極寒エリアを無事に通り抜けるのは厳しそうだ。かと言ってデスマーチをする気にはなれない。
ルルエル様から授かった魔法の知識に、異世界日本の記憶も使ってアイディアを捻り出す。
「……ディメンションルーム?」
異世界日本の小説に出てくる、異空間に人が入れる魔法だ。空想世界の魔法だけど何となく引っかかる。
「何事もチャレンジだよね」
僕の使うアイテムボックスは生きている物を中に入れる事は出来ない。しかし術者はどうなのだろうか? アイテムボックスに手を入れる事が出来るのだから……。
しかし、よくよく考える。
僕がアイテムボックスの中に入って、僕は生きていられるのか?
アイテムボックスの中は時間停止的な効果があり、トライヘッドドラゴンの肉が鮮度の良い状態をキープしている。
中に入った途端に時間停止したら、僕は一生中から出られなくなる。
危険過ぎるよね……。
よって僕はルルエル様の魔法知識を使い、アイテムボックスの術式を紐解く事にした。
アイテムボックスはロストマジックと呼ばれるだけあって複雑怪奇な術式をしているが、流石はルルエル様の魔法知識だ。術式を分解する事によっていくつかの効果因子に分ける事が出来た。
それから紆余曲折、トライ&エラーがあったが、僕は術者が異空間スペースに入れる魔法『ディメンションルーム』を作る事が出来た。
「ディメンションルーム!」
僕の目の前に、僕しか見えない扉が現れる。扉を開けると中は真っ白な空間だった。おっかなびっくりと僕は中に入る。
そして3秒後、僕はふらふらになりながら外に出た。
「き、気持ち悪い……」
ディメンションルームの中は真っ白な部屋で、真っ白過ぎて平衡感覚が無くなり、船酔いみたいに頭がクラクラして、気持ち悪くなった。
着色しよう……。
◆◆◆
「うひゃ~、めっちゃ寒いやん」
八十九階の扉を開けると、そこは蒼い氷河に囲まれた氷の世界だった。
「ってッ!」
いきなり上空から吹雪のブレスが僕に襲いかかってきた。
「油断禁物か」
防寒対策の空間障壁を
上空を見れば白い飛竜が考え無しにブレスを吹いていた。
「……まっ、いっか」
僕は飛竜を無視して、歩き始める。上空にいる飛竜に短転移を連発して倒す事も出来るかもしれないが、その戦闘にあまり意味はない。無駄な戦闘は避けるべきだ。
「うわっとッ!」
足元も氷で覆われていてめちゃくちゃ滑る。僕は短転移の魔法で、この氷床のエリアの移動を行う。
このエリアは氷属性の魔物ばかりだ。スノーワイバーン、ホワイトウルフ、イエティやスノーワームなどなど。
特に
ノーブラは反則ですッ!!
◆◆◆
そんなこんなで概ね1日歩き、まだ歩けそうだけど、僕は新しい魔法を使う事にした。
「ディメンションルーム!」
壁など無い空間に僕だけにしか見えない不可視の扉が現れる。
「では、早速中へ」
部屋は5メートル四方の部屋で、伯爵家の部屋と比べたら小さいけど、寝泊まりするだけなら十分な広さだ。
最初に入った時の真っ白な部屋では平衡感覚を失ったので、床は薄い茶色、壁面は薄い緑、天井は白と、空間魔法の一つ、イリュージョンの魔法を使ってカラーリングをした。
中は暖かい空気で満たされている。アイテムボックスを使って八十階層の暖かい空気を大量に取り込み、そのアイテムボックスを壁に内蔵させ、緩やかな風を送り出している。
また、気圧が上がり過ぎない様に、排気用のアイテムボックスも設置した。
「うん! これならゆっくりと寝れそうだ」
背中のバックパックを床に降ろし、早速横になる。布団やベッドが有ればなお良しなんだけど、流石にそれは高望みってもんだ。極寒の屋外で寝ないだけで百倍ましだ。
「…………おしっこ」
寒い屋外から暖かい部屋に入ったせいか、おしっこをしたくなった。でも、寒い外へ出るのは嫌だ。
「トイレを作ろう!」
ディメンションルーム内にもう一つの個室を作る。その部屋の中に異世界日本の記憶にあるトイレをイメージしてアイテムボックスが生成をする。
長いアイテムボックスを作った時に分かった事だけど、僕のアイテムボックスは四角以外に長四角や三角、そしてイメージを高める事で任意の形を作る事が出来る。
また、僕が今いるディメンションルームは、アイテムボックスと同じ次元になるので、視認する事が出来るし、物が素通りしたりする事はない。
「ヨシ、だいたいイメージ通りだ」
異世界日本風の着座型トイレが個室の真ん中に出来上がった。なぜ異世界トイレを作ったかと言えば、伯爵家の壺型トイレよりも、こちらの方が使い勝手が良さそうだったからだ。
便器の下方にアイテムボックスの収納口があるので、したものは全てアイテムボックスに収納される。
異世界日本のトイレは水で流れる仕様なんだけど、僕の使える水魔法は生活魔法のドリンクウォーターだけだから、都度魔法で水を出して流すしかない。
更に言えば異世界日本のトイレにはウォッシング機能があるみたいだけど、僕の魔法でそれは再現出来そうにない。
でもこれで十分!
僕はおしっこをしてから、暖かい部屋で安眠を
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