第13話 白銀バトル
「はい、喜んでッ!」
あれ?
薄ら青白いフロアで僕は自分の寝言にびっくりして目を覚ました。
夢の中でルルエル様が出てきて……何だったけ? 夢ってのは直ぐに忘れてしまうけど、多分早く酒を買って来いってところだろう。
「……まだ眠い」
五徹の後だけに幾らでも寝れそうだけど、夢の中のルルエル様の怒っている顔を思い出して体を起こす。
昨日のレッドドラゴン戦の事はあまり覚えていない。多分、眠気と疲れのせいだろうけど、僕が生きていて、僕の横に横たわる双頭竜が死んでいるのだから、僕が勝った事が状況から分かった。
双頭のレッドドラゴンをアイテムボックスに収納してからフロアの出口を探す。出口は奥の方にあり、宝箱やドロップアイテム的な物は見つからなかった。
過去の魔王が人を寄せ付けない様に作ったダンジョンだから、そういったご褒美的なアイテムとかは出ないダンジョンなのかな?
となると、九十九階で手に入れたクリスタルソードは何か意味があるのかもしれない。
何はともあれ、僕は出口に向かい扉を開けた。
「何だこりゃぁぁぁぁぁッ!」
そこには青い空が広がり、眼下には岩肌を剥き出しにした山々が見える。所々に飛行している竜種が見えるし、噴煙を上げている山もあった。
「ここってダンジョンの中だよね?」
自然豊かって訳ではないが、眼下の山間には緑が広がる場所も見える。ダンジョン内でこんな風景を見る事が出来るとは思ってもみなかった。
そして、振り向けば八十九階に至る扉と空しか見えない。つまりここは山頂であり八十八階に登る階段は見当たらない。
改めて眼下の山々を見る。ひい、ふう、みい……山は全部で九つ。つまり手前から山を順に登って行って、一番奥の山が八十階って事だな。
「んじゃ、行きますか!」
僕は今いる山を降り、手前の山の山頂を目指した。
◆◆◆
「思ったより楽だったな」
多分二日程度で八十階まで来た。なぜ多分二日なのかというと五徹した僕には時間的な感覚が分からなくなっている事と、この青空が広がるフィールドには夜が無かった事から、実質1日徹夜したぐらいの感覚で、この階まで来たからだ。
オープンフィールドなので、索敵と短転移を駆使して、戦闘はかなりの確率で回避できた。
出てきた魔物は5メートル級のファイヤードラゴンを筆頭に、サラマンダー、ヘルハウンド、ファイヤースライムなどの火属性モンスター達。
八十階層は九十階層の暗闇エリアみたいな精神を削られる様な場所もなく、強いて挙げるならマグマエリアがめちゃくちゃ暑かった事ぐらいだ。
「さて、黒、赤と来たから次は白、つまりアイスドラゴンやフロストドラゴンって感じなんだろうな」
百階層の守護竜トライヘッドドラゴンの三つの頭、黒、赤、白。これらの竜が下層階層の守護竜である事は一連の流れで想像がつく。
そう思いながら八十階に相当する山の麓にあった階段を登った。
◆◆◆
「寒い! 寒すぎるッ! 無理っしょッ!」
七十九階ボスの間は白銀の氷の世界だった。吐く息が氷り、息を吸うと肺が氷りそうになる。
フロアの中央には四足型の巨大な白い竜がいる。
しかし、こんな極寒での戦闘は無理だ。体が凍えて動く事も難しい。一度撤退と行きたい所だけど、ボス部屋は一度入ったらボスを倒すまで扉は開かない。
「先ずは暖を取らないと……」
この際、暖かければ何でも良いってぐらいに脳みそが凍えていた僕は、アイテムボックスから――。
「双頭竜のブレスをリリース!」
豪炎のブレスをアイテムボックスから放出した。
凄まじい熱量を持つ豪炎のブレス。ドラゴンが吐き出す様な勢いはないが、周囲の氷が解け水蒸気が立ち込める。
はっきり言って暑いッ!
しかし極寒よりなんぼもマシだ。
「索敵ッ!」
水蒸気で視界が
「ウガッ! た、短転移ッ!」
索敵魔法が巨大な魔力、白竜のブレスがこちらに来るのを捉え、慌てて短転移の魔法を唱えた。ブレスの方向から白竜の位置が特定できる。
白竜の左側面に一度短転移で瞬間移動する。なぜこの位置かというと適当に飛んだだけだ。短転移は見える場所にしか飛べないけど、少し前に見た場所でも飛ぶ事が出来る。
だから『あの辺り』って感じで瞬間移動をした。とは言え、ちょっと間違えれば地面の中や壁の中に転移してしまうので、あまり無理は出来ない。
立ち込める水蒸気の中、白い竜をかすかに視界に捉え、更に短転移を繰り返し、未だに氷のブレスを吐き続ける白竜の頭、直上に瞬間移動した。
「アイテムボックスッ!」
長く伸ばした不可視の長い箱が白竜の頭を貫通する。アイテムボックスに物理的障壁は、例えドラゴンの硬い鱗であろうと関係ない。
白竜は上空の僕に気付き、ブレスを止めて上を見上げる。不可視のアイテムボックスが、開いた竜の口に入る形となった。
そしてアイテムボックスがこちらの空間から異空間へと移動する。その際にこちらの空間を消失させる効果により、白竜の口から頭にかけて四角い穴が出来上がった。
生物の急所である脳を消失した白竜は、力なく首が項垂れ横倒しに倒れる。
「短転移ッ!」
白竜の上空にいた僕は短転移で石畳に降り立つ。
「やっぱ寒いッ!」
白竜をアイテムボックスに回収した僕は、逃げる様にして、入ってきた八十階に出る扉へと後戻りをした。
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