第12話 デスマーチハイ
「クゥぅぅぅ、ブラッド・ブルは最高だじぇ、イヘヘヒ」
九十九階を出て四日目。僕は九十三階まで上がり、九十二階に上がる階段を探して彷徨っていた。
体を休める場所もあまり見当たらず、今日で三徹目で四徹もほぼ確定的だ。
異世界日本の徹夜用ポーション『赤い・ブル』を文字って、ブラッド・ブルと命名したトライヘッドドラゴンの血を入れた水筒を、都度あおりながらダンジョンを進む。
ルルエル様が分け与えてくれた命の力が、いわゆるステータスを向上させてくれたから、三日三晩歩き続けられている。
「まだまだ、行けちゃうよねぇ! オーッ!」
多少テンションがハイになって来ているのは気のせいだろう。
青白く発光する石壁のダンジョンは変わらないのだが、所々に真っ暗闇のエリアがあって、その闇の中では索敵魔法が使えない。
索敵魔法が使えないと何が起きるかというと、魔物との遭遇戦だ。
この九十階層には5メートル級のブラックドラゴンを筆頭に、ブラックゴブリン、ブラックホーク、ブラックオーガ、ブラックトロル、ブラックギガント、ブラックジャイアントビー、ブラックジャイアントバタフライ、ブラックジャイアントスネーク、ブラックジャイアントスパイダーなどなど、どいつもこいつも毒爪や毒牙、毒ブレスなどの毒攻撃を持つ厄介な毒毒モンスターばかりだ。
まだまだ地上迄の道のりは長いのだから、可能な限り短転移や空間固定などを駆使して戦闘は避けたいのだけど、暗闇エリアだけは
「また暗闇エリアか……」
目の前の暗闇エリアの見つめて魔法を唱える。
「空間障壁シールド!」
この四日間で覚えた魔法が、空間障壁だった。物理的にどうなっているのか分からないけど、見えない壁を作る魔法で、敵の攻撃や毒ブレスなども通さない強固な壁だ。
「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」
空間障壁をシールド状にして暗闇エリアに突貫して行く。何せ真っ暗闇で何も見えないエリアだ。シールドバッシュで無闇矢鱈に吹き飛ばす程度の作戦しか思いつかなかった。
早速何かにぶつかった。反動で僕が後ずさる。
「フゴォォォッ!」
この叫びのはブラックトロルだ。暗闇の戦闘で超回復力のあるブラックトロルはめちゃくちゃ厄介な相手だ。短転移で逃げたいけど、短転移は見える場所という指定がある為、暗闇エリアでは使えない。
仕方なく少しづつ後退して暗闇エリアから抜け出した。その間にもブラックトロルの攻撃はあったけど、空間障壁が破られる事は無かった。
「トロルが三体とか、対策なしで遭遇したらフルボッコで殺されるって」
暗闇エリアから姿を現した三メートル級の巨人の魔物、ブラックトロルが三体。
愚痴を溢しながら空間障壁を解き、一番前のブラックトロルの頭に向けて、長く伸ばしたアイテムボックスを使い、空間消失現象でブサイクな頭を消し去った。
「短転移!」
二体のトロルの後方に瞬間移動する。
「アイテムボックス!」
右の一体の頭を速攻で消失させるが、その間に左の一体が振り向き、筋骨隆々の拳を振り上げ、僕を殴り付けようとしている。
「空間固定!」
トロルの振り上げた右拳を空間固定で縛り付ける。動かなくなった右拳に動揺の顔を浮かべるトロル。
「アイテムボックス!」
その隙を逃さずアイテムボックスの空間消失現象で頭を消失させた。
「ふひぃ〜、見える場所なら何とかなるんだけどなぁ」
こんな感じの戦闘が続くので、僕の歩みはなかなか進まない。水筒のブラッド・ブルを一口あおり、倒したブラックトロルをアイテムボックスに回収して、暗闇エリアを見る。
「ウヒィッ、もう一回行っちゃうぞォ、オッー!」
僕のテンションが少しハイになって来ているのは気のせいだろう。
◆◆◆
五徹目にして
「イヒヒ、殺っちゃうよォ、殺しちゃうよォ」
デスマーチハイになっている僕は、血走る目を大きく開き、階層ボスがいるであろう八十九階の裏口の扉を開く。
「かかって来いよ、オラァァァッ!」
テンションアゲアゲの僕。
青白く発光する石壁に囲まれた30メートル四方のフロア。その中央に二足型の巨大なレッドドラゴンがいる。
「ん? 頭が2つ?」
僕の意識がおかしいのかと思い、目を擦ってもう一度見るが、やはり頭が2つある。八十階層のボスモンスターは双頭竜だった。
2つの頭が僕に目掛けて豪炎のブレスを吹く。
「何それぇぇぇ、君たちワンパターンだよねぇ、全部吸っちゃうよぉ〜。アイテムボックスぅ!」
右手の前面にアイテムボックスを作り、ニ頭が放つ炎をアイテムボックスの中に収めていく。
ニ頭が同時にブレスを止めた。その瞬間に――。
「短転移!」
直進方向に5メートル瞬間移動をする。双頭竜は再びブレスの態勢に入る。
「短転移!」
右斜め前に5メートル瞬間移動。更に――。
「短転移!」
そこから右側の竜の頭の脇に瞬間移動をした。
「風穴開けちゃうよぉ! アイテムボックス!」
長く伸ばした不可視のアイテムボックスが2つの頭を横から貫く様に伸びると、アイテムボックスはこちらの次元から異空間に移動し、そのアイテムボックスがあった空間を消失させた。
「アイテムボックス!
アイテムボックス!」
アゲアゲテンションの僕は、更に二連続でアイテムボックスを作り、双頭竜の横っ面に計三つの風穴を空け、赤い双頭竜は動きを止めた。
10メートル近い高さから落下する途中、短転移で石畳の上に瞬間移動をする。
「余裕ショッ!」
勝利のポーズよろしく右腕を高々と振り上げた。
変な言動や勝利のポーズなどはデスマーチハイにつきご容赦頂き、僕はそのまま石畳の上に大の字になって爆睡モードに入るのだった。
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