第11話 そりゃそうだよな……

 ドラゴンステーキタイムが終わり、トライヘッドドラゴンをアイテムボックスに収納した。暫くは食いっぱぐれる事がないのは本当に嬉しい。


 「早よ、早よ、早よ行くのじゃ」とルルエル様に急かされ、僕は百階層の扉を開けた。


 扉から出ると直ぐに登り階段があり、その先には扉があった。


「そりゃそうだよな……」


 扉を開けて中に入れば百階層のフロアと同じくらいのフロアが有り、その中央には黒い竜が待ち構えていた。


 九十階層を後ろから攻略し始めれば、九十九階にいる階層ボスとの戦闘が初っ端にくる。考えてみれば至極当然だった。


 しかも黒い竜って……。


 階層ボスの黒竜は三つ首を除けばトライヘッドドラゴンと姿が似ている。流れからして毒のブレスを吐くドラゴンだと思っていいだろう。


 さっき、毒ブレスで死ぬほど苦しんだのだ。あのブレスは必ずアイテムボックスで回収しようと心に誓う。


 石畳が地震の様に揺れる振動と共に、その巨体が僕に近付いてくる。僕なんかアウトオブ眼中な雰囲気がぷんぷんするのは気の所為かな?


 始めてトライヘッドドラゴンと邂逅した時も、黒い頭の竜は無警戒に近付いてきた。詰まる所、ブラックドラゴンはオレ様最強とか思ってる系のドラゴンなのかもしれない。


 猛毒のブレスが他のドラゴンとかにも有効だったりしたら生物の頂点に立っていてもおかしくないし、九十九階を守護しているのだから、多分そうなのだろう。

 

 でもバカだ。僕が百階層から上がってきた意味が分かっていない。自分よりも強い竜が百階層にいる事を知らないのだろうか?


 あの時と同じ様に大きな口を開けて僕を飲み込もうと顔を近付けてくる。


「死ぬ」


 長く伸ばした不可視のアイテムボックスをその口の中に顕現させる。ブラックドラゴンからしたら、僕の魔法は不発した様に見えたかもしれない。しかし――。


 ドスン


 アイテムボックスの空間消失現象により、口から後頭部に向けて大きな穴があきブラックドラゴンの頭が石畳の上に落ちた。


 なるほど。トライヘッドドラゴンは魔核を破壊しないと死ななかったけれど、他の魔物は急所破壊で死ぬようだ。


 毒ブレスを警戒していたけど、九十九階のボスバトルは呆気なく終了した。


 ブラックドラゴンの死骸をアイテムボックスに収納して石畳に座り込む。ご飯はさっき食べたから後は――。


「ルルエル様には申し訳ないけど、寝かせて貰いますね」


 ルルエル様からのダンジョンの情報では、ボス部屋の魔物は24時間でリポップするとの事だ。つまり暫くの間この部屋はセーフティエリアって事になる。


 次の八十九階までは寝る場所を確保出来るかは分からない。だから寝られるうちに寝ておこうと思っていた。


 石畳の上に横になる。見た目は空っぽだけど、中にアイテムボックスが入っているバックパックを枕代わりにして頭を乗せた。

 

 さて寝るかと瞼を閉じようとした時に、フロアの隅にある物に気がついた。


「……宝箱?」


 山型に膨らんだ特徴的な形の箱は宝箱に見える。階層攻略報酬なのかな? 僕は起き上がり、宝箱に近づいた。


「……悩む」


 宝箱を開けたい衝動を抑え、腕組みしながら僕は悩んでいた。このダンジョンは元々、時空の女神クロノエル様を降臨させるアイテムを封印する為に、古代の魔王が作ったダンジョンだとルルエル様は言っていた。


 侵入者を殺す為に、トライヘッドドラゴンやブラックドラゴンなどを棲まわせている悪意に満ちたダンジョンだ。そんなダンジョンに有る宝箱が良心的であるとは思えないんだよなぁ。


 当然の事ながら、僕には鍵穴スキルや罠解除スキルなどは無い。このフロアの特性から言えば、毒ガスぐらい出て来てもおかしくない。


「ヨシッ、諦めよう!」


 僕にはルルエル様のお酒を買いに行くという、崇高な使命がある。百階層を出てすぐの九十九階でお陀仏しましたでは、ルルエル様に合わせる顔が無い。


 少し名残惜しく宝箱の天辺をポンと叩き、その場を去ろうとしたら、カチャって音がした。


 プッシュ式の宝箱だとォッ!?


「た、短転移ッ!」


 速攻で5メートル後方に転移してトラップに備える。


「…………」


 暫し待つがガスが吹き出たり、爆発したりなどはしなかった。


「……大丈夫なのか?」


 僕は用心しながら宝箱に近づく。さっきは宝箱発見に浮かれて気が付かなかったが、よくよく見て見ると宝箱の天板にルルエル様から貰ったアイテムと同じ三対の白い羽の柄がある。魔王がこんなデザインの宝箱を用意するとは思えない。ならば……。


「早速、クロノエル様のご利益なのかな?」


 宝箱の中を覗くと金と青の唐草模様で装飾されている白い鞘に収められた細身の剣が一振り入っていた。


「綺麗だ……」 


 僕は美しい剣を手に取り、鞘から刀身を抜く。


「……ガラス? いや、クリスタルかな?」


 その細身の刃先は透き通るガラスの様な素材で作られたいた。ダンジョンの青白い明かりが反射して宝石の様に輝いている。


「凄く綺麗な剣だ。……でも一発で砕け折れそうだよね」


 あまりにも芸術品過ぎるクリスタルの剣。使い道は分からないけど、腰に下げてみる。


「フフフ、なんかかっこいいぞ」


 鞘も含め見目麗しい剣を装備すると、僕も一端の剣士に見えなくもない。アルスタは多少は剣の訓練をしていたから、僕も剣を扱える筈だ。


 宝箱も無事に開ける事が出来た僕は安心して眠りについた。この後にデスマーチが待ち受けているとも知らずに……。



 

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