第10話 再びトライヘッドドラゴン
僕は短転移の魔法で三頭竜まで5メートルの位置に飛ぶ。僕の気配を感じトライヘッドドラゴンが目覚め、ゆっくりとその巨体を起こした。昼寝から目覚めたドラゴンは、3つの首を揺らし僕を睨んでいる。
全高約15メートル。やはりでかい。ゴクリと唾を飲み込み、短転移の魔法を発動させる。
右斜め前3メートル先に飛び、続いて左に3メートル飛ぶ。
僕の瞬間移動に多少の動揺を見せながらも、白い頭の竜が数百は有りそうな
もう一度、左に3メートルほど短転移で飛ぶと、トライヘッドドラゴンがゆっくりと重厚な動きで僕の方へと向きを変える。
「空間固定ッ!」
空間固定の魔法は約1メートルのエリア内に有る物体を空間座標上に固定する魔法で、約10秒間だが絶対固定をする。
トライヘッドドラゴンから見たら1メートルなど爪の先程度だが、足の指先が固定された事で少しバランスを崩した。
今がチャンスッ!
と思った矢先に黒い頭の竜が漆黒のブレスを吐く。高熱や冷気などではない黒い煙の様なブレスだ。
アイテムボックスに収納するか? しかし、今なら懐に飛び込める。
僕は勝つ事を優先してトライヘッドドラゴンの首元辺りに単転移の魔法で跳んだ。
黒い頭の竜のブレスで黒い煙が立ち込めている。それを吸った瞬間に目眩、吐き、嘔吐に見舞われた。
毒のブレスか!?
直ぐに息を止めるが気持ち悪くて体が痺れて動かない。致死量は分からないけど、少し吸っただけで体が痺れて動かなくなるとは、流石は守護竜のブレスだ。凶悪過ぎる。
だからって、今とどめを刺さなければ僕の死亡は確定だ。
「リミットブレイクッ!」
使うまいと思っていたリミットブレイク。しかし毒に侵された体を動かすには限界突破しかなかった。
僕の体はその間にも竜の首元から落下を始めている。限界突破でむりくり体を動かし魔法を放つ。
「アイテムボックス!」
幅は50cm程度だが、長さは5メートルほどある不可視の箱を顕現させる。トライヘッドドラゴンも不可視の箱を視認できていない。
三つ首の付け根のやや下から胴体に向けて伸ばしたアイテムボックス。不可視の箱には竜の外皮など関係ない。
そしてアイテムボックスがこちらの空間から異空間へと移動し、そのエリアにあった竜の血肉を消失させた。
「やったか!?」
石畳に着地しトライヘッドドラゴンを見上げる。あ! 異世界日本の記憶では『やったか』は言ってはいけないお約束だった……。
「お願い、死んで」
トライヘッドドラゴンの魔核を破壊出来ていれば僕の勝確。冷や汗を流しながら、祈る様に15 メートル上にある三つの頭を見つめる。
そして、その三つの頭が力なくふらつくと、僕のそばにあった巨大な前足が傾き始めた。
「た、短転移ッ!」
後方5メートルに転移で逃げる。
トライヘッドドラゴンは力なく横倒しに倒れ、轟音と振動を響かせ大量の埃が舞う。
そして、リミットブレイクのタイムアップで僕の体も膝から崩れる。毒により体から血が吹き出しそうな痛みが襲い、目眩、吐き気、頭痛、痙攣と酷い状態だ。
「ぐがぁぁぁぁぁぁッ! 死ぬぅぅぅぅ〜」
もがき苦しむ僕。
「仕方のないヤツじゃ」
苦しむ僕の傍らにルルエル様が来てしゃがみこんだ。黒い下着がスカートの中に見えているが、今はそんな余裕がない。
「ほれ、これを飲むのじゃ」
ルルエル様が何かが入っているコップを差し出した。震える手でそれを取り、口の中に流し込む。半分程は口から溢れたが――。
あれあれ?
激しい痛みや嘔吐感が立ち所に無くなっていった。
「な、何を飲んだんですか?」
「あやつの血じゃ」
あやつとはトライヘッドドラゴンの事だ。そちらを見れば僕が開けた穴から大量に血が流れ出ている。
「早よ回収した方がよいぞ。あやつの血は万能薬の原液の様な物じゃ。お主には必要じゃろう」
「万能薬ッ!?」
確かにあれほど酷かった毒の苦しみがパツイチで治る効果が有り、万能薬という事は傷や病気などにも効果が有るのだろう。
僕は新たにアイテムボックスを作り出して、流れ出ている血を回収した。更にトライヘッドドラゴンに手を当てて、「血の回収」と唱え、アイテムボックスに全ての血を回収した。
◆◆◆
やって来ました、お肉タイム!
僕は早速トライヘッドドラゴンのお肉を切り出そうと、開けた穴に手を入れたが……。
「……ルルエル様ぁぁぁ、肉を切り出す刃物が有りませぇ~ん」
僕はナイフなどは持ち合わせていない。お肉を切り出せない悲しみで涙がポロポロと出てくる。
「泣くでないわ。ほれ」
そう言って近付いてきたルルエル様は、赤い頭のドラゴンの牙を手刀でシュパっと切断し、僕に投げてくれた。
あれ? このドラゴンは聖剣でも掠り傷程度しか付かないって言ってたよね? ルルエル様の手刀、どんだけの切れ味だよッ!
僕は刃物にしてはちょっとゴツいドラゴンの牙を両手で握り、適当なサイズの肉をほじくり出した。
そのお肉を生活魔法の発火で炙る。発火は焼く程の火力が無かったが、お肉の表面が焦げる匂いと、お肉から出る油がジュウジュウと焼ける匂いがして、僕の腹ペコのお腹が限界突破した。もう待てませんッ!
レアな焼け加減だけどめちゃくちゃ美味いッ!! 肉だるまみたいな体格のくせに赤身が筋ばっていなく、程よい弾力に染み出してくる肉汁のコラボが、僕の口の中に旨味の楽園を作ってくれる!
アルスタの家は伯爵家だ。メイドの子とはいえ、それなりに美味しい料理を食べていた。そのアルスタの記憶を辿っても、こんなに美味しいお肉を食べた記憶は無い。
お肉うまッ!!
僕は久しぶりのまともで美味い食事を堪能した。
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