第7話 そこでじゃ!

 その後、ルルエル様は這々ほうほうの体でダンジョンへ戻り、魔王が常闇のダンジョンに、より強固な結界魔法を張った事で、ルルエル様はこのダンジョンから出られなくなってしまったとの事だった。


「そう、そこでじゃッ!」


「何が『そこで』なんですか?」


「妾の魔法をもってしても破壊出来ぬほど強固な壁を持つダンジョンに、お主は裏門から入ってきおった」


「裏門? そう言えば……」


 僕は辺りを見渡した。うっ! 青白く発光する石壁に囲まれた広いフロアーの中央で三本の首を起用に丸めて寝ている三頭竜がいる。僕が破壊した黒い頭は綺麗に治っていた。


 あれ?


 僕が入ってきた大きな扉が見当たらない。


「扉なら無いぞ」


「何でですか?」


「あの扉はこのダンジョンのカラクリじゃ。ラスボスを倒さんと現れんのじゃ」


「じゃあ三頭竜を?」


「いや、今は妾に書き換えられておる。妾と戦うか?」


「いえいえ、遠慮しておきます」


 小さな牙を光らせてニヤリと笑うルルエル様。ラスボスって三頭竜より強いからラスボスなんですよね? 三頭竜相手に殺された僕が敵うような相手ではない。そもそも戦い自体、三頭竜が初めてだったんだから。


「ところで裏門ってどういう意味ですか?」


 館からここまで一本道だった。裏門って事は正規のルートが有るって事だけど……。


「お主が入ってきたのは出口側じゃ。ほれ、あちらに扉が有るじゃろ。あれが入口側じゃ」


 ルルエル様が細く小さな指で指した方向には確かに扉があった。


「して、お主はどうやって裏門を開けたのじゃ」


「門の鍵穴っぽい付近を魔法で消したら扉が少し開きましたが……、それが何か?」


「うむ、そうじゃろうな。先ほど妾が言った言葉を思い出してみろ」


 えっと、色んな話をしてたからどれだろうか? 印象的なのは……。


「『誰がロリババアじゃ』、ですか」


「ちゃうわい、アホたれッ!」


 ペチンと頭をはたかれた。


「『妾の魔法をもってしても破壊出来ぬ強固な壁』と言ったじゃろ! 因みにあそこにおるトライヘッドドラゴンの鱗もアホの様に硬い。聖剣をもってしても掠り傷程度しかつかんぐらいにな。つまり、お主の魔法は破壊レベルにおいてのみ言えば世界最強クラスという事じゃ」


「僕の魔法が世界最強クラス……」


 偶然見つけたアイテムボックスの空間間移動による空間消失現象が、ルルエル様お墨付きの最強クラス魔法だったとは吃驚だ。


「そこで、『そこでじゃ』に話を戻すぞ」


 ルルエル様の可愛い顔が神妙になる。僕はゴクリと唾を飲み、「はい」と答えた。


「最強クラスの魔法を使えるお主に頼みたい事があるのじゃ」


「ルルエル様が僕にですか?」


 最強クラスの魔法を使って?


「うむ。妾はお主の命の恩人じゃ。分かるな」


「は、はい」


「よって妾はお主に命ずる! 地上に上がり――」


 ま、まさか魔王を倒せとかアベンジャーな事をしろかとは言わないですよねッ!?


 いったい僕に与えられる任務とは――。


「――酒を買うてきてくれえッ! それも美味い酒を沢山じゃあッ!!」


 静かな部屋に『沢山じゃあ、じゃあ、じゃあ……』とエコーが響く。

  

「…………はい」


 ……ただのパシリでした。


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