第2話 常闇のダンジョン
常闇のダンジョン。
ファーラング家の地下に広がると言われているダンジョンで、ファーラング家は先祖代々このダンジョンの守り人として、この地に居を構えている。
その歴史は古く、嘘か真か七百年前に滅びたダルタニアス王朝の頃から続いているらしい。
「……はあ」
僕は溜め息を吐きながら、青白く発光する石壁で作られたダンジョンの階段を、一人淋しく降りて行く。
父親に常闇のダンジョン行きを言い渡されて直ぐ、館の衛士二人に両腕を掴まれ、地下のダンジョン入口へと連れて行かされた。
途中、廊下ですれ違った兄ギントは「所詮はメイドの子だな。黒髪、黒目とかマジありえねぇし。じゃあな、死んで来いよ」とか、マジむかつく。
妹ミシルはというと「アルスタ兄さん、また会えるよね」と僕の為に涙を流してくれた。僕はミシルの頭を撫でて、「行ってくるよ」とだけ告げて別れた。
他にも話を聞きつけた、仲がよかった弟妹達が泣きながら見送ってくれた事に、心が痛みを感じたのは事実だ。
でもサヨナラは言わなかった。もし、このダンジョンに少しでも希望があるなら、来年ここに来るかもしれない彼らに希望を残しておきたかったから。
常闇のダンジョンに入る前に、予め用意されていたバックパックを渡される。そして、重い鉄扉で封印されているダンジョンの中へと押し込まれた。
◆◆◆
地下に下る階段はまだまだ続いている。
この先に何があるのか?
ヤバい魔物が棲んでいるとの噂はある。七百年前に悪魔がダンジョンから現れ、魔王軍をこの地に呼び寄せた。当時のダルタニアス王朝は魔王が放った極炎魔法によって滅びたと言う伝説が残されている。
しかし、その後はここから這い出てきた魔物はおらず、また、この階段を下った者は誰一人として帰ってはきてはいない。
1時間下り、2時間下り、それでも地下へと下る階段は続いている。
「ダンジョンって言うわりに魔物はいないんだな?」
辺りは静かなもので、僕の階段を下りる足音しか聞こえない。虫一匹の姿も見えない。地下に潜っている割には気温も安定している。
そして更に下り、延々と続く下り階段の途中で体力の限界がきた。石段に座り延々と続く階段の先を見つめ、「はあ〜」と溜め息をついて途方に暮れた。
バックパックの中に入っていた僅かな食べ物を取り出す。食べ物はパンが4つだけ。何なら1日で食べ終わる量だ。パンを半分だけちぎり、少しずつ口に入れる。水筒も1つ入っていたが、1リットルもないぐらいだから、大切に飲まないといけない。
「……今日はもう無理だな」
体力の限界だったせいか、体が重い。体を横にするには狭い石段の上で横になる。寝返りをうったら階段を転げ落ちるな、とか思いながらも僕は疲れのせいで直ぐに眠りに落ちた。
◆◆◆
目を覚ましたら知らない天井だった、などと言う事もなく、僕は青白く発光する石壁に挟まれた階段で目を覚ました。階段から落ちなかったアルスタの寝相の良さに感謝する。
そしてその日も、次の日も、次の次の日も階段を下りた。
途中、階段に横たわる白骨化した子供の遺体が幾つかあった。明日は我が身と思いながら階段を下り、パンの残りもあと半かけって所で下に広がるフロアが見えた。
「……マジですか?」
階段下には山となった白い骨がある。階段から転落死した子供達のものである。それを踏みつけたくない僕は、残り階段5段ぐらいの所から大きく飛び跳ねた。
フロアに降り立ち、後ろの白骨化した骸の山を見つめる。何年も、何百年も続けられてきた愚行の証だ。この長い下り階段を降りきる体力と気力を持ち合わせた子供がほとんどいなかった事が伺い知れる。
気を取り直して階段下に広がるフロアを眺める。青白く発光する石壁のお陰でフロアの全体が見渡せた。
フロアの広さは概ね10メートル四方で、あるのは壁にもたれて眠る白骨化した子供の遺体が数体と奥にある大きな扉だけだった。
「……結局ここにも魔物はいないのか」
ダンジョンは魔物の巣窟であると聞いていたけど、この常闇のダンジョンは勝手が違うようだ。まあ、魔物に出会ったら僕は秒で死ねるだろうけどね。
いずれにしろ、食べる物も半かけのパンが1つだけ。僕の命もそう長くはない。
フロアの奥に大きな扉が見える。くたびれた歩みでゆっくりと大きな扉に近づく。
ここまで生き残った兄姉達は、その扉の先にも進んでいるはずだ。それでも誰も帰ってきていないのだから、この扉の先にも希望はないのだろう。
それでも僕は大きな扉を開けて、暗い闇の中に一歩を踏み出し――――。
「たッぅわぁぁぁぁぁぁ」
一歩目のそこには何も無かった。暗闇の中の落とし穴。あるあるである。ブービートラップに引っ掛った僕は暗い暗い穴の中を落ちていく。
どんどん落ちていく。
まだまだ落ちていく。
今日はいつもより沢山落ちてますってぐらいに落ちていく。
体感的には数百メートルは落ちている感じだ。
死んだな。
常闇のダンジョンは深い深いひたすら深いダンジョンだった。
その衝撃は突然、バキバキバキバキと言う音と共に僕の体を襲った。
「ぐぎゃぎぃぎゃぁッ」
舌を噛みながらも叫び声を止める事が出来ない。
「あぎッぎゃッいぎッゃぁ」
バキバキバキバキと小枝の様な物が、僕の叫び声と共に、落下の衝撃で折れていく。その折れた切っ先が僕の頬を裂き、服を破り、足に刺さる。
生か死かなど考える余裕もなく、僕は沢山の痛みと強い衝撃で意識を手放した。
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