無能と呼ばれた伯爵子息 常闇のダンジョンに追放された少年は異国の地で聖人様として崇められるようです。いやいや、僕は聖人様じゃなくて、小悪魔っ子の使いパシリですッ!

花咲一樹

第1話 無能と呼ばれた伯爵子息

 何故このタイミングなんですかね? 


「無能な我が息子アルスタに告ぐ。常闇のダンジョンから無事に戻れたら、我が一族の末席に名を連ねる事を許してやる。直ちに出立せよッ!!」 


 怒りの形相で、俺の前から消えろクズがッ的にそう告げたのは、伯爵家当主にして父親であるカールトン・ファーラング。


 重厚で豪華なインテリアが並ぶファーラング伯爵家の執務室で、僕は突然アルスタの意識の中で覚醒した、と思えば父親に『出立せよ!』とか言われちゃってる。


 ファーラング家の地下には帰らずのダンジョンとも呼ばれる、誰一人帰ってきた者がいない『常闇のダンジョン』がある。ファーラング家では、無能力者はそのダンジョンに行く事が習わしとなっていた。そこに行けと父は言う。


 『常闇のダンジョン』に入る事は死を意味している。先行きの無い未来にアルスタの自我は崩壊し、壊れ、そして果てた。


 そんな自我を失ったアルスタの意識の中で、何故か分からないけど僕が目覚めた。覚醒した僕には異世界日本という国の記憶がある。これも謎現象だ。


 しかしだよ、ほぼ死を宣告されたこの状況で僕にどうしろと言うのよ?



◆◆◆



 それは今日けさの朝食を終えた後、伯爵家の離れに作られた『儀式の間』で、異母兄妹2人と挑んだ覚醒の儀での出来事だった。


 覚醒の儀とは十三歳になった子供が能力に目覚める儀式で、その能力は武芸や魔法、大工や鍛冶、料理や裁縫など多岐にわたる。


 覚醒の儀は平民であれば教会で行われ、貴族であれば神官を館に招き、教会を模した儀式の間で行われた。


 貴族がなぜ教会で行わないかというと、能力に目覚めない場合も有り、その場合は平民の前で貴族の面子が潰れる事に繋がるからだ。


 能力が目覚める確率は3人に1人。更に有能な能力に目覚める者は5人に1人という確率との事だ。


 そのため、能力主義の我が国の貴族家は子沢山な家が多く、我がファーラング伯爵家も僕の知る限りで18人の子供がいる。


 勿論すべてが正妻の子供ではない。側室の子もいれば愛人の子もいる。かくいう僕はメイドの子で、母親はアルスタが生まれて直ぐに流行り病で亡くなっている。


 さて、その覚醒の儀で何があったかというと、結果としては異母兄弟含め3人全員が能力に目覚めるという凄い結果になった。


 同い年の兄ギントは敏捷力上昇の能力に目覚め、同い年の妹ミシルは水魔法の能力に目覚めた。


 そしてアルスタはというと無属性魔法の能力を得たんだけど、無属性魔法とは何の魔法か分からない魔法を称している。そしてその多くが全く役に立たない事のほうが多い。


 例えば二つ上の兄ケルビンはクッキーを五等分する魔法を得た。五等分の花嫁さんなら最高だったが、クッキー限定の五等分では、全く役にたたない魔法だった。


 残念な能力を得たケルビンは父親に命じられ常闇のダンジョンに向かい、今なお帰ってきてはいない。


 子沢山の貴族家だが、成人する子供はどこの貴族家もそれほど多くない。能力主義の我が国の貴族家は、ファーラング家が常闇のダンジョンに子供を送るように、何らかの手段で無能な子供の口減らしをしているらしい。身元がバレないよう舌を抜いた子供を、奴隷商に売る貴族家もあるとか。


 ファーラング家の様に100%死ぬ確率のダンジョンに送られるのと、舌を抜かれて奴隷商に売られるのと、どちらが良いかと問われても、どちらも嫌だ。


 だからこそ、覚醒の儀で能力に目覚める事を信じて、アルスタは、アルスタの兄弟達は、この国の貴族の子供達は十三歳までの日々を送る。


 アルスタにとって伯爵家での生活は、他の兄弟と比べたらあまり良い境遇では無かった。当然、正妻や側室を母親に持つ兄弟からはバカにされる。


 これに関しては正妻や側室の子ではない兄弟は皆似た様なものだったが、アルスタが他の兄弟と明らかに違ったのは、黒髪、黒目だった事だ。


 父親は赤みがかった金髪、メイドだった母親は赤髪だったと聞いている。それでアルスタが黒髪となれば、誰の子だって事になり、それをネタに兄弟からはバカにされていた。


 そんなアルスタだが能力に目覚めた。それは凄く嬉しい事だったのだが、アルスタの能力は無属性魔法で、20cm角ぐらいの自分にしか見えない不可視の箱を作る魔法だった。それが何の役に立つ魔法なのかは分からない。


 それでも一縷の望みを託し、アルスタは父親に魔法が覚醒した事を報告した。


 しかし、アルスタは不可視の箱をお披露目するも、父親は見る事が出来ず、結果アルスタは我が身可愛さに能力が覚醒したと嘘をついたと思われたのだ。


 そして父親はアルスタに告げた……。「常闇のダンジョンに行け」と……。



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