12.騒ぎは収まる。あっけなく。


   12



 土中に潜伏していた集団変異体のもどきが、おどろおどろしい低い悲鳴を上げながら、わらわらと土の中から【シレイヌ村】に姿を現したものだから、それなりに、騒ぎは大きくなった。


 また、もどきの悲鳴の他にも、普通に村の人達が「きゃああああああ!」と叫び声を上げていて、まさに、阿鼻叫喚って感じであった。


 まあ、そりゃあ、悲鳴を上げたくもなるか……。 


 さて、僕はこれからどうしたものか。


 と思っていると、腰に巻いているポーチの中で、工作四十七号機こと『四七』が反応する。ぶるぶる、ぶるぶる、震える『四七』を耳に当て、応答してみれば、ウィンチェルだった。


 話をしてみると、僕たちを影から見守っていたウィンチェルが機転を利かせて、『テリトンの鍛冶屋』で身を潜めていたアリープ達を呼び出したらしく、まあ、ならば、心配はなにもない。


 これからどうしよう、とか思っていたけれど、なにかをする必要もなさそうだ。


 人的被害はゼロに終わるだろう。……たぶん。……終わってほしいなあ。


 ちょっと弱気になりつつ、僕はウィンチェルに言う。



「悪いね、ウィンチェル。あとのことは任せるよ。てか、任せるしかないんだけど。……大丈夫だよね?」


「大丈夫だと思いますよ。後のことは任せてください。……先輩も、お疲れ様でした」


「いや、お疲れ様なんて言われるほど、疲れてはないんだけどね。なにせ僕は、アイテムに頼っただけだ」


「あぁ、はいはい。またそれですか……。あ。『テリトンの鍛冶屋』には、ひとりで戻れますか? 分身で護衛しておきましょうか。一応」


「ううん。大丈夫。さすがに戻れるよ。はじめてのお使いでもあるまいしね」


「分かりました。それでは、また。なにかあったら『四七』で連絡してくださいね。すぐに駆けつけるので」


「過保護だなあ」


「……先輩、身体は普通にひ弱ですからね。心配もして当然ですよ。……なにより、私、後輩ですし」


「先輩の立場、譲ってあげようか?」


「いやです。この関係、気に入ってるんで」


「そうか……。……まあとりあえず、無事に帰ってきてね」



 と言葉を投げて、僕は『四七』の接続を切った。……とはいえ、無事に帰ってくる以外の未来なんて見えないのだけれど。


 それから僕は、正直、突っ立っているだけでもよかった。仕事は、もう終わったのだ。……テリトンの鍛冶屋に戻るという目的はあるけれども。


 まあ、さすがに助けを求める人が目の前にいたならば、なにかしら僕なりに行動を起こすだろう。けれど、自分からもどきに突っ込んでいく勇気はない。そして、そういう弱気な姿勢こそが、僕が、冒険者失格のところなんだろう。


 とはいえ僕がもどきを相手に善戦できるとも思えないし、っていうのは、ウィンチェルの言う通りに、僕は普通に弱い肉体しか持っていないからで、モンスターを相手に、あっけなく死んでしまうくらいの力しか持たないのだ。僕は。


 まあ、それでもいい。


 僕の役目は終わったので、これでいいと、心の底から思えた。

 

 で、忘れかけていたテリアさんの方に振り向くのだが……、彼女は公園に足跡だけを残して、既に、悲鳴の上がった方へと走っていた。その、遠く、小さくなっていく後ろ姿を僕は見守り、あの姿こそ冒険者にふさわしいし、テリアさん、僕の代わりに【天の惑星】に入ってくれないかなと、本気で思う……。


 僕よりも若くて伸び代を感じるし、かつ現時点で僕よりも実力がありそうだし、対モンスター・魔物という点に関しては、さすがに冒険者である僕よりも劣るとは思うけれど……、とはいえ冒険を続けていけば、勝手に身につくことでもある。


 もどきが土中に潜る性質を持っているというのも、恐らく教科書や参考書には記載されていないし、授業でも習わないだろうけれど、冒険者をしていれば、比較的に目にする生態でもあるのだ。


 ……とはいえ、まあ、収入も安定して、世間体の上でも優れている騎士という職業と、博打でしかない冒険者という職業を比べるのは酷っていうか、さすがのテリアさんも、冒険者になろうと本気で思ったりはしないだろう。


 なにより冒険者というのは、簡単に、死ぬ。


 あの【レチゾンの地割れ】でも【深海火口】でも、年に一人か二人は天に召されているし、他にも、僕がギルドでアルバイトをしていた時代、昨日まで元気にギルドの酒場で飯を食っていた人が亡くなった、なんて報告を受けることも、ざらにあったのだ。


 ……と、ちょっと暗い気持ちになりつつ、僕は『噴水公園』でひとり、頃合いを見て、魔素マナ拡散器や波長調整装置を停止させ、リュックサックにしまい、あと忘れずに、魔素マナ収集装置もリュックにしまっておく。……濡れた足は布で拭き、完全に乾いてから、靴を履く。


 町の騒ぎは、先ほどよりは収まりつつある。


 アリープ達が奮闘しているのだろうか?


 ふう。


 やがて騒ぎが沈静化するまで、僕は公園でひとり、ぼうっと突っ立っていた。




 夏に近い気候の風は気持ちよく、公園で身を誇る木々は立派だ。これで聞こえてくるのが悲鳴や怒号ではなく、小鳥の鳴き声であったならば、どれほど心は癒やされたことだろう。


 遠くを見やれば、村のあちこちで竜巻にも似た土埃が巻き上がっているが、空を仰げば、まっさらに透き通った、雲一つない晴天がある。


 風の音が、すこし、うるさい。


 しかして、風に踊り狂う草木を見るのは、愉快でもある。


 ベースに溜まっている水たまりは風によって波立ち、太陽を反射し、それから存在を証明するように、飛沫しぶきを上げる。


 冷静になって周囲を見渡してみれば、ここは、綺麗な公園だ。




 ……そして、聞こえてくる騒ぎが薄れてから、僕はひとり、『テリトンの鍛冶屋』に戻るために歩き出す。その道中で、怪我人をちらほらと見たけれど、彼らはもどきに直接的にやられたわけではなく、もどきが土中を掘り起こして出現したために、倒壊してしまった家屋に巻き込まれてしまったらしい。


 他にも家屋に巻き込まれている人がいるらしく、僕は集団に混ざって瓦礫をどけ、何人かの人を救助する。怪我人は教会に運び、神官に治療してもらう。アーラーがいてくれれば治療もしてくれるので楽なのだが、彼には彼にしか出来ない仕事があるだろうし、むやみに呼び出すことはしない。


 僕は誰にでも出来ることを、胸を張ってやる。


 そもそも【天の惑星】にいると忘れがちだけれど、自分にしか出来ないことがある人、なんていうのは希少だし、大多数は、誰にでも出来ることしか出来なくて……、とはいえ本質的に、『そこにいて』、『それが出来る人』っていうのは、限られた数しかいないのだ。


 今回でいえば、僕を含めた、怪我をしていない、大人の男が、数人。


 瓦礫をどかしたり、怪我人を教会に運んだり、それは誰にでも出来ることだけれど、いまこの状況に限っては、僕たちだけにしか出来ないことだ。


 で、粗方の一仕事を終え、また周りを見渡せば、だいぶ、『シレイヌ村』は落ち着きを取り戻しつつあるようだった。


 お礼を言われつつ離れ……、いや、しかし僕ってお礼を言われる立場なのか? と、歩きながらに首を傾げてしまう。


 ……建物の倒壊の他にも、土中が盛り上がって道が割れてしまっていたり、畑が荒らされてしまっていたり、魔術灯が倒れていたり、パニックを起こした家畜が柵を乗り越えて逃げ出してしまうなど、いろいろな被害が出ている様子だった。


 なんか……、僕は僕なりに、やるべきことをちゃんとやった気でいたのだけれど、結果としては……、なんか……、まあ、複雑ではあるな。


 とはいえ、悪いのは僕ではなく、もどきなのだけれど。



 ちなみに、



 『テリトンの鍛冶屋』へ向かう道中だけでも、五体。五体のもどきが……、それは人間に化けているもどきなので、最初に見たときはギョッとしてしまったのだが……、ともかく、まるで氷像みたいに、氷の檻に、閉じ込められていた。


 十中八九、ウィンチェルの魔術によるものだろう。


 たぶん、もどきの本体を見つけるまでの、一時的な処置みたいなものなのではないか? 本体を見つけたならば、他のもどきは討伐してしまい、そして本体は……、どうするのだろう?


 分からない。


 本体を見つけるのは……、【聖なる盾】であるアーラーの仕事だろう。魔術でも魔法でもない、を獲得しているアーラーは、その力によって、モンスターや魔物を浄化してしまうすべを持っている。その浄化の力を応用すれば、もどきの本体を見分けることも可能なはずだ。


 考えつつ、僕は『テリトンの鍛冶屋』に戻って、円卓にひとり座り、お茶を啜る。……もうじきみんな戻ってくるだろうから、みんなの分のお茶も用意しておこう。


 そして『二二』こと、お湯出し器で全員分のお茶を用意している間に、戸口を開ける音が聞こえ、次いで一人分の足音が近づいてくる。


 姿を現したのは、白き【勇者】である、ラツェルだった。


 ……往来は土埃が巻き上がり、ただ歩いているだけでも服は汚れてしまう有様だというのに、ラツェルはやっぱり綺麗な身のままで、涼やかな顔をしている。……対して僕はといえば、瓦礫撤去に、怪我人の搬送など、いろいろあって、土や泥、酸化した血なんかで、服も肌も汚れていた。


 自分では気がついていないけれど、においも酷いかもしれないな……。


 とはいえそんなことを気にするタマでないことは、僕もラツェルもお互い様に認識している。


 僕とラツェルは無言で、お互いに円卓で向き合うように腰掛け、同じタイミングでお茶を啜り……、それから僕は、言う。



「……お疲れ。もう、騒ぎは収まったの?」


「そうだね。私がここでゆっくりとお茶を啜っている、っていうのが答えだよ。土中から出てきたもどきは、ぜんぶウィンチェルが氷付けにしたし、あとはアーラーが、本体であるコアを見つけて……、そうしたら、なにもかも終わりだね」


「なるへそって感じだ。……ちなみに、アリープは?」


「道を塞いでる倒壊物をどかしたりしてるよ。たぶん、そろそろ戻ってくるんじゃないかな? ちょっとだけ私も手伝ってきたしね。……その様子だと、ハチタくんも動いたんだろう?」


「まあ、僕の力で出来る範囲だけね。……にしても、あっけなく終わったね。一週間とか十日とか、そのくらいは掛かるんじゃないかなって思ってたんだけど」


「君がそれを言うのかい? ぜんぶ、ハチタくんのお陰だろうに。やっぱり君に任せて正解だったよ。……こんなスピード感で解決しちゃう、っていうのは驚きだったけれど。一応、帝国騎士団が数ヶ月掛けても解決できなかったことなんだよ? 帝国騎士団の面目丸つぶれ、って感じさ。……ハチタくんのせいでね?」


「嫌な言い方だなあ」


「事実じゃないか」



 ラツェルは肩をすくめ、さらに意地悪そうに目を細めていて、ああ、意地悪モードに入っちゃったんだなと、僕は諦めのため息を吐く。


 まあ、とはいえ、冗談は冗談か。べつに僕がもどきの本体を見つけたとして、帝国騎士団の面目が本当に潰れたってわけでもないし…………、ないよね?


 あくまで今回の件は、冒険者側に、一日の長があったという感じなのだ。


 たとえばこれが犯罪者、つまりを相手にしたものであったのならば、たぶん僕たちよりも、騎士団の方が活躍していたに違いない。騎士団という組織は、もちろんモンスターや魔物を相手にしても一流だが、なによりも対人間に関して、抜群の性能を誇っている組織だ。


 ゆえに、今回は、まあ、僕たちが活躍しなければいけなかったというか、帝国騎士団が解決できない問題を解決して当然というか、なんか、そんな感じだから……、うーむと、僕はお茶の渋みを口の中で転がし、誤魔化す。


 そうして、身体にある疲労感を楽しみつつ、僕は言う。



「うん。まあ、ラツェルに任されたことだからね。……僕にでも出来るって感じでお願いしてくれたんだろ? なら、果たさないといけないよ。これでも意地があるからね?」


「ふふ。ハチタくんだから出来ることだ、って私はお願いしたのさ。だから、そう卑屈にならないでくれよ。笑顔だよ、笑顔。にーっとしてごらん?」


「わははははは!」


「おお、うんうん。いい笑顔だ。……それにしても、私がたまに意地悪になっちゃうように、ハチタくんはたまに卑屈になるところがあるよね? まあ、そういうところが可愛いんだけど」


「可愛いって言われても嬉しくないよ。褒め言葉のつもりなんだろうけど」


「ごめんごめん。……ところで、今回はどういう感じでこなしてくれたんだい? 結構、楽しみなんだよね。仕事を終えたあとに、ハチタくんがどうやって工夫したのか、聞くのがさ?」



 両手で頬杖をつくラツェルに見つめられ、僕はちょっと気まずさを覚えつつ、頭を掻いた。……工夫、と言われても困るというか、べつになにか工夫したわけでもなく、僕がしたことといえば、ただ、既存のアイテムを組み合わせただけなのだ。


 とはいえ、それが工夫だと言われてしまえばその通りでもあり、僕は『噴水公園』での行動を思い出しながら、ぽつりぽつりと、ラツェルに話を聞かせる。



 基本的に今回は提供してもらった魔道具を使用したこと。


 家庭用の魔道具と、公共のテレビとかに使われている魔道具を組み合わせたこと。


 うまくいくかは分からなかったけれど、ウィンチェルの調節した周波が、良い感じにもどきに刺さってくれたこと。



 ラツェルは僕の話に目を輝かせ、次第に身を乗り出し、それこそ寝る前の絵本を楽しみにする子供みたいに喜んでくれていて、本心で、僕がどうやってもどきを探したのか、聞きたかったのが分かる。


 僕もラツェルの姿勢にちょっと気持ちよくなり、良い気分で、頭からケツまでを話した。


 やがて話を聞き終えると、ラツェルは何度も何度も頷いて、しみじみとした表情で、言う。



「うん! 面白い! やっぱり面白いなあ、ハチタくんの話は。……それにしても、なるほどねぇ。参考になったよ。あの装置を組み合わせたのか……。私にはなかった発想だよ。というか、ハチタくん以外には浮かばないだろうね」


「それは褒めすぎだ。同じ状況になったら、誰でも同じ選択をすると思うよ。特に、うちのパーティーはみんな優秀だから」


「いいや。無理だね。私には絶対に無理だ。たぶんアリープにもアーラーにも無理だ。ウィンチェルなら僅かに可能性があるけど……、すくなくとも、考えるのに時間が掛かる。ぱっと思いつけるようなことじゃないよ」


「……まあ、ありがたく褒め言葉を受け取っておくよ」


「まったく。ハチタくんは謙遜のしすぎだよ。ていうか、私はそもそも、そんな装置の存在すら忘れていたからね。でも確かに、もらった覚えはある。そして、数回は使ったね。もういつの頃か覚えていない、遠い昔に」


「僕は荷物持ちだからね。アイテムを覚えるのは最低限の責任だ。あと、僕はそれなりに記憶力が良いっぽい」


「それに、……そうだね。土中に潜っているっていう可能性は、私もあると思っていたんだよ。でも、方法が問題だろう? 魔術で土を掘り起こすにしても、もどきがどこに潜んでいるのかも分からない。無作為に掘り起こしてしまえば、地上にも甚大な被害が出てしまう。なにより、もどきは狡猾だからね? 一度でも失敗すれば、逃げられてしまう可能性もあった。だから一発でもどきを見抜かなければいけなかったわけだけど……」


「運が良かった。その一言に尽きる」


「……それを是非、苦戦していた帝国騎士団の目の前で言ってほしいものだね? 私としては、さ」



 呆れたように、湿った目線を送ってくるラツェルから顔を逸らすと、そのタイミングで、どたどたと戸口の方が騒がしくなり……、どうやら、外での後片付けはすべて終わったらしい。


 最初にアリープが姿を現し、彼女は満面の笑みを浮かべながら、僕に小走りで駆け寄ってきて、(体温的に)熱い抱擁ハグを交わした。それからアリープは僕の隣に腰掛け、椅子を密着させてくる。……なんだかまるで、懐いたペットみたいだと思った。……それを口にする勇気はないけれど。


 次にアーラーが現れ、彼はほんの僅かだけれど汗ばんでいて、へえ、アーラーでも汗を掻くことがあるんだなあとか思いつつ、僕はアーラーと握手を交わす。……高等学園時代からの名残みたいなもので、僕とアーラーは一仕事終えたあとに、必ず握手する習慣みたいなものがあるのだ。……あと、汗ばんでいてもアーラーはイケメンだし、めっちゃ、良い匂いがする。ムカつくぜ。


 その後にウィンチェルがやってきて、彼女はさすがに魔術をたくさん発動させた後だからか、目が冴えているようで、いつになくキビキビとした動きをしていた。僕はウィンチェルに「お疲れ様。見たよ。すごかったね? 氷像」と労いの声を掛け、ウィンチェルはウィンチェルで、「先輩もお疲れ様です」と言葉を返してくれる。まったく良好な、先輩と後輩の関係である。


 最後にやってきたのはテリアさんで――彼女は円卓の前で立ち止まると、勢いよく、僕たちに頭を下げた。


 銀髪が、まるでこずえを透き通る陽のように、床に落ちていく。



「本当に、ありがとうございました。あなたたちのお陰で――」



 それからさらに感謝の言葉は続けられそうになるが、すぐにラツェルが「いいさいいさ」と、陽気に、テリアさんの頭を上げさせる。


 その通り。


 感謝の言葉は要らないし、謝罪も必要ない。それが依頼をする側と、依頼を受けた側の良好な関係値というものであり、依頼が済んだのならば、あとは、祝杯を挙げるだけで良いのである。


 というのが、【天の惑星】の共通認識だ。


 まあ、さすがにいますぐ酒を用意するわけにはいかないけれど……。


 というか、まだ、



「では今後の話になりますが……、とりあえず対応としまして、アーラー殿に暴いていただいたもどきの本体は、帝国に運ぶ予定でいます。それに当たって、ウィンチェル殿にお願いがあるのですが……、氷漬けにされた状態を、保つことは可能でしょうか?」


「ええ、もちろん。その気になれば、半年でも一年でも。……しますか?」


「あ、いえ。さすがにそこまでは必要ないのですが……」


「あ! ねー。ちなみにあたしからの質問。町って、どうなるの? 結構、めちゃくちゃになっちゃってるよ? 美味しいご飯とかたくさんあったし、心配だよ」


「それに関しては、いますぐに私が答えられることではないのですが……、帝国側で、どうにかすることになると思われます。魔術団の力があれば、一週間程度で、もとに戻るかと」


「じゃー良かった。安心安心!」


「拙者からも聞いておきたいのだが、氷漬けのもどきは、帝国側でどのように扱う予定なのだ?」


「扱い方でありますか? それは……、公の場で、命を奪い、終わりかと。そうすれば危機が去ったことが明白ですので……。もちろん! 【天の惑星】の功績であることは大衆に伝えますので、是非とも、帝国の城に足を運んでいただきたいのですが」


「ふむ……。ということだが、ラツェル?」


「そうだねえ」



 アーラーがラツェルにパスを出し、それを受けたラツェルは、ゆっくりと席を立つ。そうしてテリアさんの正面に立って、ラツェルは、困ったように首を傾げつつ、白い髪の毛に手を置いて、言った。



「城に行くというのは賛成だよ。もどきを連れて行くのも、もちろん賛成だ。ただ、もどきの命を落とすというのは、待ってほしいかな。すくなくとも……、そうだね。【シレイヌ村】の復旧に掛かる時間と同じ、一週間だ。……帝国魔術団にも手を借りた方がいいかな? ウィンチェル」


「……そうですね。べつに私ひとりでも可能ではありますが、時間を考えると、魔術団の力を借りた方がいいでしょう」


「うん。っていうわけだ、テリアさん。私は……、いや、私たちはまだ、の存在を疑っているんだよ。だから……、悪いんだけど、私たちに、すこしの時間をくれないかい?」



 ……たぶんテリアさんはまだ状況を理解していないというか、理解が追いついていない状況にあって、黒幕とやらに関しても、半信半疑な感じなのだろう。


 ただ、僕たちは、ほぼほぼ確信している状態だった。


 ……まあ、僕は、他のメンバーが確信している感じだし、黒幕もいるんだろうなって考えているだけである。つまりは他力本願、まあ、よく言えばメンバーを信じているという感じだろうか。


 やがてテリアさんは、よく分かっていないだろうけれど、よく分かっていないなりに考えたようで、絞り出すように、言った。



「わ、分かりました。そのように手配……、いたします」


「うん。よろしく頼んだよ! ――じゃあ、みんな、【カンガンド大帝国】のお城に行く準備をしようか? ……楽しい冒険になりそうだよ」



 ――ラツェルの言葉に、僕以外の全員が、妖しく、わらった気がした。







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