君と思い出の四季

尾崎ココ

君と思い出の四季

「また会いに来たよ。」

「あれから君に何度会いに来たんだろう。」

「今日はなんの歌を歌おう。君が歌ってくれたあの曲を歌おうか。」


4月6日午前6時半の朝

桜が満開な今日

カーテンを開けて眩しい朝日が僕の目を照らす。

 「早く準備しないと遅れるよー」

と1階からの母さんの声で僕は部屋から出て洗面所へ向かう。洗面所から映り出された僕の顔、ボサボサな髪、乾燥した肌、入学式なのに最悪なコンディションだ。

顔を洗って歯を磨いて、今日から高校生になる僕の新しい制服を着てみる。まあ無難な高校生って感じだな。

一階へ降り、食パンだけを咥えて家を出る。

「母さん行ってきます。」

「気をつけて行ってくるんだよ。忘れ物してない?」

と口に出す母さんに僕は頷いて家を出た。

食パンを咥えながら行くとか少女漫画かよって思いながらのんびり歩きながら駅へと向かう。

その時後ろからでかい声が聞こえた

「おーい!凪琉何食パン食いながら行ってんだよ少女漫画か?」

と口角を上げながら友達の七翔が言う

「こんな事で美少女とぶつかったら苦労しねーよ」

と僕も笑いながら返す

七翔は中学の時からの同級生だ。



「なあみんなと話さねーの?」

と内気な僕に話しかけてくれたのがななとだった

「話さないよっていうか、話せない」

そんな陰キャみたいな言葉で僕はななとにいった

ななとはみんなと馴染めてる陽キャ系だ。

そんな人は僕と絡んでいいのかなって時々思う。

でもななとは心優しいことにななとの方から僕に話しかけてくれるようになったんだ。

「なる今日ゲーセン行かね?俺の射撃見てよばきゅーんってな」

ふざけるななとのおかげで、いつも僕を笑わせてくれて楽しませてくれた。

こんな感じでななとと関わる時間が増えていった

地味な僕にとっては本当に幸せで有難いことだ



そして今に至る

なんやかんやで少女漫画の美少女にも出会えず駅に着いて電車に乗った。

「てかさーお前そろそろ彼女作らねーの?」

彼女持ちで幸せそうな、円満な笑みのななとがこう言ってくる

「僕は彼女なんかいらないよ。いい人なんか居ないしね」

少し強がる僕にななとはこう言う

「そんな強がるなってでもお前前髪上げたら結構いい感じのイケメンなんじゃね?」

って僕の前髪上げてななとは笑う

電車の停車音とともに僕はこう言う

「茶化すなよ早く電車降りるぞ」

強がってしまったけど本当は僕には忘れられない子が居たんだ


僕は昔、ある一人の女の子の幼なじみが居た

親同士が仲良いってことから生まれた時からずっと一緒にいた幸せな時も辛い時、悲しい時も、ずっとそばにいてくれた人がいたんだ。でも中学生の時その幼馴染が親の都合で引っ越すことになった。


2月29日午後3時の夕方

まだ肌寒い季節の今日

幼馴染の君はこういう

「私ね遠いところに引っ越すところになっちゃったの」

「は、?僕達いつも一緒だったじゃん。」

涙目で僕は言う

「本当にごめんね、この花を私だと思ってずっと忘れないでね」

と君は勿忘草を渡してこう言った。

君がいない春は僕は初めてだ。不安で不安で仕方がなかった。

桜が散る春の季節も、向日葵の匂いでいっぱいな夏も、

落ち葉で遊んでた秋も、君と作った雪だるまの冬も、

全部一緒にいたからだ。

まあこんなところで落ち込んでいられないって思って僕は君のいない春も過ごして見ると決めたよ。


そして、そんな事も考えながら今日から通う高校に着いた。

「おーいみんな廊下に並んでくれ」

僕たちの担任の先生はこう言う


体育館に着いて新入生はみんな一斉にパイプ椅子に座るキィっていう音が広がる。


「新入生代表の如月菫さんお願いします。」

その司会者の言葉に僕ははっとした。

体育館のステージの上に現れた、綺麗な紫黒色の瞳、

濡れたカラスの羽のようなきらりと輝いた長い黒い髪、僕は君を思い出したんだ。また君に出会えたことが嬉しすぎて僕は泣きだしそうな気持ちを抑えて、入学式は無事に終わった。

七翔と一緒に教室に戻る時、透き通った声で僕の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り向いたその先には、如月菫、君が目の前にいた。

「凪琉くん覚えてるかな?」

美しい声で君は言う。

「おい凪琉このすっげえ美少女誰?彼女!?本当は居たのかよ!俺に言えよ!もうー!」

って場違いな七翔が口を出す。

「違うよ。小さい時からの幼馴染なんだけど。」

僕は必死に七翔に誤魔化す

てかなんでこんな少女漫画的な出会いをするんだ。

僕は呆れながらも内心超絶嬉しさで満たされていた

「ごめん七翔、今日は菫と帰るよ」

「はあ!?当たり前だろー!彼女ちゃん凪琉に変なことされたらいつでも俺話聞くからな!凪琉もしっかりやれよー!」

だから彼女じゃないってばと口に出そうとする前に

「ありがとう七翔さんもしかしたら襲われちゃうかも〜!」

とノリで返す君に僕は呆れている。


「本当に凪琉くん久しぶりだね中1の冬以来かな?」

って懐かしそうに君は言う

「本当にどこいってたんだよお前場所も教えてくれないし連絡も取れなかっただろ。」

「ええー?なになに寂しかったのー?凪琉くん」

ニヤニヤしながら君は言う

「あれー?凪琉くんお顔真っ赤だよ」

煽ってくる君に対して僕はあーなんでこいつを忘れられないでいたんだと今更後悔している。


「てか、久しぶりにウチに来なよ僕の母さんも喜ぶよ」

「えー!行きたい行きたい!凪琉ママ久しぶりだなー!」

嬉しそうに微笑み君の姿に見惚れている自分がいる。

「ねえ!久しぶりにギター弾いてよ!私凪琉が弾くギターで歌うの好きなんだ!」

「いいね久しぶりに弾こうか」

嬉しそうに君は微笑む。

君が笑う姿を見れたら僕はそれでいい。


「適当に座っといて僕飲み物貰ってくるから」

と伝えて、部屋のドアを開けようとすると、

「はっ、!?母さん!?」

「あら〜菫ちゃん久しぶりね〜凪琉なんで言わなかったのよー!!」

「いや、後で言うつもりだったし!?」

「凪琉ママー!ちょー久しぶりだね!」

嬉しそうに君は母さんと話す。

「母さん僕飲み物取りに行くから、」

「やだ!そんなものお母さんが持ってくから菫ちゃんとお話してなさい!」

慌てて母さんが1階へ降りて飲み物を取りに行った。

「ごめん騒がしくて」

「いや〜懐かしい感じがして楽しいよ」

ニコニコしながら君は僕に言う。


母さんが持ってきた君が好きなオレンジジュースを飲みながら数時間雑談を交わした。

君が部屋のギターネックに掛かっているギターを見つめたあと、僕の目をじーっと見つめて、僕はギターを手に取り、君にこう言う。

「なんの歌がいい?あの歌?」

元気よく頷く君に僕はギターにカポをさして、ピックで弾く準備を始める。

あの歌とは如月菫が作詞作曲した曲だ。

大事な人がいなくなって、それでもずっとその人のことを待っている歌らしい。

如月菫は元気いっぱいな子で、こんな歌を作るなんて思っていなかったからずっと意外な気持ちを持っていた。

歌詞には私を忘れないでね。って言葉が書いてある。

僕たちの歌か?って疑問を抱きながらそんなわけないかって目を覚まし、演奏を始める。

切なそうに歌っている君を見て僕も切ない気持ちと悲しい気持ちが混じり合う。


君はあの時何を思って、誰を想って、歌っていたんだろうと、今でもずっと思っている。


歌い終わって、またオレンジジュースをおかわりして、ごくごく飲む君の横顔にまた僕は見惚れている。

それから、またたわいも無い話をしている内に、時計の短い針が、8に回っていた。

「うっわ、もうこんな時間家まで送るよ」

君は何か言いたそうな目をしていたが、こくりと頷き、僕の部屋を出るドアを開けた。


流石にまだ4月と言っても、夜は冷えるなとか話しながら家まで送った。

「ねえ、凪琉。 私」

その時車が走るエンジン音で君の声が混じって分からなくなった。

直ぐに僕が聞き返す。

でも君はううんなんでもない!って元気よく言ってたよね。その時君はこの事を伝えたかったんだよね。



君の家に着いた時君は

「送ってくれてありがとう。また凪琉のギター弾いてね。」

僕はもちろんと答える。

溶けたばかりの雪がまだ降っているように感じる君の白い手で家のドアを開けて、振り向いて口パクで

「またね」

って言ってる感じがした。


久しぶりに君に会った余韻がまだ抜けていない。

今夜はこの余韻に浸りながら、寝ることにしよう。



4月12日午前5時

入学式から、1週間近くが経った今日。

いつもより早く起きてしまった。

あれからあまり君と話せてない

学校に行っても、君は見当たらない。

少し心配する気持ちが段々焦る中、

その日の午後5時半の事だった。

家に帰ったら母さんが

「菫ちゃんがなるの部屋で待ってるよ」

僕は慌てて階段を駆け上り勢いよく扉を開けた。

君は微笑みながら僕を見つめていた

僕は君に

「どうした?何かあったの?」

と口に出す。

君は僕にひとつのメモを渡してた。

僕はそのメモを読んだ。

「中学転校した時から、みんなと馴染めなくてストレスで声が出なくなったの」

「もう歌えないかも、」

僕はそれを見て君を助けると決めたんだ。

「僕は君の歌声が好きだよ」

君の声じゃないと、僕はだめなんだ。

「君が歌えるようになるためだったら僕はなんだってするよ。」

と君に言ったんだ。そしたら君はまた優しく微笑みながら僕を見つめた。


僕はまた君にギターを聞かせるよ。だからまた僕に君の声を聞かせて。

それから僕はどうしたら、声が治るのか、どうしたら声を出せるようになるのか、必死に考えた。

寝る間も惜しんで君に時間をかけた。


毎日君の家にお邪魔して、少しでも声が出せるように、ギターを聞かせた。君は笑顔で僕のギターを聞いてくれてたね。君は紙を僕に渡してきた。

また聞かせてね。っていう紙だった。もちろん聞かせるよ、と僕は君に言う。


5月6日午後4時半を回ろうとしていた。

君の家においてあった紫蘭の花。

また今日も君にギターを聞かせる。

君の声がたとえ、戻らないとしても、僕はずっと君のそばにいるし、君にギターを聞かせるよと心の中の僕はそう叫んでいた。

この日も君は声を出せていなかったんだ。

君がトイレに行った間、君の机の引き出しが少し空いていることに気づいたんだ。

覗き見は良くないと思ったが、気になって少し見てしまった。そこには君の目標が書いてあったね。

好きなバンドのライブに行く!

フェスにも行ってみたい!

とかの好きなバンドの目標ばかり、でも最後には、

また凪琉くんのギターで歌いたい。

って書いてあったよね。僕なんとしてでも、君の目標を叶えさせるよ。


そして、僕の君への目標叶える計画が始まったのだ。


まず、君が好きなバンドのライブに連れていかせたい。

その為にはやっぱりお金が必要だ。そこで僕はバイトを始めることにした。コンビニバイトを始めることにした。1ヶ月働いたら、君の念願のバンドのライブ、フェスにも行けるだろう。

君にバイトがバレないように自転車で30分くらいのところのコンビニにした。来週にでも、面接に行こうと決めた。それまで君に僕のギターを聞かせるとするか。


学校や君のためのギターに時間を費やしていたらあっという間に面接の日になってしまった。

この日も七翔と一緒に学校へ行って平凡な日を過ごした。

「なあ久しぶりに遊びに行かね!?お前部活も入ってないから暇だろ!?」

「ごめん、今日バイトの面接なんだよ。」

行きたい気持ちは山々だったが、バイトなので仕方がなかった。

「はあ!?お前バイト始めんの?!あのお前が!?」

「なんだよあのお前ってバカにしてんのか」

って笑いながら返す僕に七翔は

「あ、わかったこの前の菫ちゃんだろ!もう〜誕生日かなんか近いのかよー!」

その言葉で思い出したんだ。確か、君の誕生日は夏にあったよね。

「んー?まあそんな感じにしとくわ」

って感じで軽く返して、はあ!?って七翔がびっくりしながらも、僕は学校の昇降口へ向かった。


バイトの面接は7時半からで、今は5時なので一旦家に戻って、君にギターを聞かせることにした。

君の家は懐かしい君の匂いがしてすごく居心地がよくてギターも弾きやすい。いつも通り君にギターを聞かせる。いつも君は笑顔で僕のギターを聞いてくれるね。

僕も早く君の歌声が聞きたいよ。


君にギターを聞かせていたら時間はあっという間に7時に回ろうとしていた。

僕は慌てて、コンビニ面接に向かおうとしていた。その時君は僕の袖を引っ張って、紙にどこに行くの?と書いてあった。コンビニのバイト面接だよと答える。

そしたら君は心配そうな目で何でバイトなんかするの?と書いたね。君のためとかもちろん僕にはそんなの言えない。

少し欲しいものがあるんだ。と君に嘘をついた。

君はそっかって言って玄関まで送ってくれたね。


僕は急いで自転車のペダルに足を置いて漕いだ。

何とか面接の時間の10分前には着いた。店内に入って、バイトの人に

「すみません、バイトの面接にきました。」

と伝える。

「そっかそっか!じゃああっちの奥の方で店長くるまで待っててね」

と優しい穏やかな声で伝えてくれた。

僕はスタッフルームに案内され、椅子に座り特に何もしないで、ぼーっと君のことを考えながら店長を待っていた。

7時半、面接の時間に店長はやってきた。

「あ、君が柊凪琉くん?」

と店長が声をかけてくれた。

「あ、そうです。よろしくお願いします。」

僕は椅子から立ち上がり軽く挨拶をする。

早速面接が始まった。

「バイト初めてだよね。どうしてバイトしようと思ったのかな」

と聞かれ、僕は君のためと言おうとしたけどさすがに照れくさすぎて、やめたよ

「貯金をするためでもありますし、社会経験を積みたいのが大きいですね。」

と無難な答えを出した。

まあそこからも週何希望とか、面接ならではの事を話した。

「まあウチ人手不足だからね。採用だよ。いつから来れるかな?」

少しずつでも君のためになれることが嬉しくてたまらなかった。

「あ、明日!明日から行けましゅ、!」

思わず僕は噛んでしまって、店長に面白い子だねって笑われてしまった。

無事に面接が終わり、店長とは軽く会釈を交わしてコンビニを出た。

時間はもう8時半を回る頃で自転車のペダルを踏んで涼しい風を浴びながら僕は家へと向かった。

家に着いたあと、お風呂に入りながら君とフェスに行く想像をしてゆっくり湯船に浸かっていた。


おやすみ菫


今日も僕を照らす日向と共に僕は渋々目を開けた。

いつも通り顔を洗いに洗面所へ向かう。

ひんやり冷たい水で目を覚ます。

制服を着て、一階へ降り母さんが作った朝ごはんを食べる。今日は初バイトの日だ成功するかの不安と共に君の顔が浮かび上がってくる。

朝ごはんを食べ、学校の準備をして母さんの行ってらっしゃいの声と同時にドアを開ける。

「いってきます。」


いつも通り七翔と一緒に学校へ向かう。

「なあ、先週発売したあの漫画読んだか!?」

「それがまだ読めてないんだよね あ、ネタバレすんなよ」

しょうもない会話を交わしてから駅まで歩いて改札口を通る。

電車の待ち時間も七翔と話しながら君の事を考えていた

いつもの様に学校に着いて、授業を受ける。

眠たくなる数学の授業も、化学の実験中も、君のことが気になって仕方なかったんだ。

帰りのホームルームも終わり、昇降口を出てゆっくりと駅へ向かう。

電車に乗ってからは、バイト初日のシュミレーションを最寄りの駅まで練習していた。

最寄り駅について、少し急ぎ足で家に向かう。

今日は7時からのバイトの約束だ。5時半頃に家に着き、緊張が漂う中君が家に来た。

どうかした?と僕は君に問うとどうやら君は僕のギターを聞きに来たそうだ。

そんな愛おしい君のために僕は少しギターを聞かせたね

君は嬉しそうに微笑む姿が僕は大好きだ。

菫は本当に僕のギターが好きだねって言うと、紙で当たり前じゃんと返してきた。少し照れくさくなり赤くなった僕の耳はすぐにはおさまらなさそうだ。

時計の針が、6時半前に回ると、僕は菫にバイトと伝え、頑張ってという紙と共に外まで見送って、僕も自転車のペダルを漕ぎ始める。

少しずつ暖かくなってきた5月の半ば僕は自転車からの向かい風を受けながら、漕いでる足を段々早く動かしていく。10分前くらいには着く初めてのバイト先、張り詰める僕の心の中。コンビニの自動ドアが開いて、バイト先の先輩らしき人に僕は声をかけた。

「今日から、入る柊です。」

「ああ、君が柊くんね。俺は長谷川亮ですよろしくね」

優しそうな口調で長谷川さんは言う。安心して、初バイトが出来そうだ。

「じゃあ、7時になりそうだし今から品出しの練習から始めようか。着いてきて」

僕はバックルームに案内され、お弁当が沢山入った入れ物を持ち、長谷川さんの指示のようにお弁当達を並べていく。それから、お菓子。

君の好きなお菓子を見つけて僕は君を思い出してしまったよ。

品出しをやったあとは、少しずつレジ打ちの練習を始めた。

「ここで、計算してお客様に支払い方法を聞いてね」

親切な長谷川さんは隅々まで色々なことを教えてくれた。

時間は10時が過ぎ

「今日は初日だし、これくらいにしようか。」

「初めてなのにこんなに出来るなんてすごいよ」

と笑いながら褒めてくれ、僕はありがとうございますとお礼を伝えて、私服に着替えて、帰る準備した。

お疲れ様ですと長谷川さんに伝え、僕はコンビニを出た。初バイトとは言え、我ながら上手くでき大満足だった。自転車に乗り、ゆったりと家に向かった。

夏までにはお金が貯まるだろうと予算しながら、君の好きなバンドのチケットを応募することにした。


段々バイトにも慣れていき、そろそろ1ヶ月が経とうとしていた

6月8日午後6時半

少しずつ暑さが増す中茉莉花の匂いがする今日

給料日まであとちょっと

僕はまたバイトへ行く。

君とも順調に会話を重ねていって

僕は君と話すと胸がズキズキするんだ。


好きという感情が僕にはまだわからない。何が好きなのか、どこからが好きなのか、僕にはこれぽっちもわからない。みんな好きだ。好きです。とか軽い気持ちでよく言葉を発せると思う。

僕は君のことはよく可愛いとか、愛おしいとはよく思う。でもそれが好きなのかは不明だ。

そんなことを悩みながら僕は品出しを行う

いつも通りあがる時間になったら僕は私服に着替えて先輩方に礼をしてからコンビニを出る


「誕生日おめでとう」

と言って転校する前は毎年君に祝っていた。

僕はいつも君に花をプレゼントしていたね

マリーゴールドにユリオプスデージー、ピンクのマーガレットとか、

花が好きな君がいつも喜んでくれた。

今年はどの花にしようかな。



7月7日午後2時

織姫と彦星がベガとアルタイルで輝く今日

今日は君と一緒に星を見る約束をしていた。

君と綺麗な輝く星を見るために準備でもしておこう。

タンスの奥に閉まっていた望遠鏡を出して、よく見えるかを確認。

午後7時

インターホンがなり、ドアを開けたそこには普段髪の毛を下ろしている君は暑いからの理由で上に高く縛っていた。

何故か胸がドキッとした。

「夜ご飯食べた?僕の母さんがご飯作ってたんだけど、」

まだ食べてないと紙に書いて見せる君。

母さんが作った冷やし中華を2人で食べた。

ご飯を食べ、少しゆっくりしていた

午後8時半頃

ベランダに2人で出て上を見上げると、

無数の星が宙に輝いていた。

君の瞳に写っている星はもっと綺麗に映っていた。

夜も少し暑くなり、君の首筋に流れていく汗。

君の片手に持っていたオレンジジュースを飲んでいる姿。

今日は綺麗な満月だった。

君は僕に

「月が綺麗ですね。」

という紙を渡してきた。

僕は少し照れくさくて何も言い返せなかった。



バイトの回数と君との会話の回数が増えていく事に暑くなってきた

7月16日午前11時

外にポーチュラカが咲いているところを菫と見ている今日。

菫は僕がバイトで会えていなかった時病院に通っていたらしい。

医師には段々良くなっているという事だ。あんなにいつも元気で、無邪気な君がこんなことになると思わなかったけど、良くなっているなら安心だ。

花が好きな君はポーチュラカをみて嬉しそうにしている。

君との時間はすぐに過ぎ、僕はまたバイトへ向かった。

慣れた手つきでやる事をやって、上がる時間と共に1件の通知音がスマホになった。

「この度は抽選にお申し込み頂き、ありがとうございました。厳正なる抽選を行った結果、お客様はご当選されました。」

との事だ。

君の念願のフェスに行けることが嬉しくてたまらなかった。君にはまだ伝えない。サプライズにしておこう。

フェスの日にちは8月2日君の誕生日だ。


朝日が出て夏休みも近づいてきた

7月17日午前8時頃

ヒルガオが咲いているのを見ながら登校している僕。

後ろから七翔の声が聞こえ、歩くスピードが段々同じになっていく。

「なあ、凪琉お前さ今年花火見に行かねーの」

「別に見に行かないけど」

「あ、!あの菫ちゃんって子と行けよ!!俺めっちゃ絶景の花火大会知ってるぞ」

「菫は関係ないだろ」

と鼻で笑う僕は言った。

「まあそう言わずにさ隅田川の花火に行ってこーい!」

大きな声で言う七翔に呆れる僕

ふと僕の頭の中は君の浴衣姿でいっぱいになってた。

「なにお前耳赤くなってるぞもしかして菫ちゃんの浴衣姿想像しちゃった系!?」

「別に赤くなってねーよ!」

ああ超恥ずかしい。


その花火大会は七翔が言うには7月の最終土曜日だそうだ。


修業式の校長の話を眠気が襲いながら聞いていた

7月22日午前10時

ペチュニアは君みたいに綺麗だなと思っていた。

修業式も終わり、ずっと学校を休んでいる君の家に行った。

いつもみたいにギターを持って行った。

「26日空いてる?友達がさ綺麗な花火大会あるって、よかったらどうかなって」

「それってデートのお誘い?」

にこにこしながら紙を渡してきた君。

「当たり前じゃん」

少し耳が赤くなっている僕と君。

「浴衣着ていくね」

と返事を返していた君。


綺麗な花火が見えそうな陽射しが眩しく輝いていた。

7月26日午後5時に回ろうとしていた。

隅田川の河川敷の近くで待ち合わせをしていた。

服の袖を引っ張ってきて振り返ったその先には。

綺麗な紺色に本物の朝顔が咲いているような浴衣を着た君が来た。

「どうかな、?」

スマホのメモに文字を打って見せてきた。

「いいんじゃない」

なんで素っ気ない言葉を返すんだ僕、自分自身呆れてくる。

花火まで時間があったから屋台を回った。

りんご飴に、焼そば、かき氷。

りんご飴を持って嬉しそうにしている君

今日は口角が上がりっぱなしだ。

午後7時を回りそうになっていた頃。

「そろそろ移動しよっか。」

七翔から教えてもらった人少ない上に綺麗に見える場所。

「間もなく花火が開始のお時間です!隅田川の綺麗な花火をご覧下さい!」

のアナウンスと共に

一瞬にして、星と月の広く広がる大空は色とりどりの本物の花のように広がっていく。

君が持っているりんご飴にも花火は反射していた。

笑みを浮かべている君の目は僕の方を見てメモで綺麗だねと書いていた。

「うん、綺麗だよ。」

花火が無事に終わり、帰り道。

「8月2日空いてる?」

と聞いた。

君はメモを出して

「凪琉の為なら空けられるよ。」

だってさ、君といると狂ってドキドキしっぱなしだよ。

君との花火、君の浴衣の余韻に浸りながら2人で歩いていた。

君が1番綺麗だったよ。

今日を花で例えるとブーゲンビリア。

君しか見えないよ。


夏フェスも近づいてきて汗をかくのも日常的になって来た。

君の誕生日プレゼントを買いに行くことにした。

君は雪のように白い肌似合うような、リップを買いたい。

早速、お店に行って見てみることにした。

「何かお探しですか?」

「あ、あのリップ買いたくて」

「もしかして彼女さんにですか?」

めちゃくちゃ笑顔になっている店員さん。

「幼馴染ですよ」

と笑って返す。

「どんなお色味がいいですかね。」

緊張しながらも、丁寧に店員さんが話を聞いてくれたおかげで、無事に買えた。

「彼女さんに喜んで貰えるといいですね」

微笑みながら言ってきた。

君の頬の色に似ているミルキーピンクにした。

喜んでくれるかな。


蝉もどんどん鳴き始めてきた

8月2日午前8時半

君への誕生日プレゼントと、昨日帰り道に買っておいたキキョウを持ち君の家へ向かいに行く。

「朝からごめんね」

「楽しみで準備早く終わってた!今日はどこ連れてってくれるの?」

メモを見た僕は

「とりあえずついてきて。」

と返した。

駅へ向かい、電車の改札口を出る。

君が好きなバンドは午前11時頃から、

時間が余るので会場へ着いたらそのバンドのグッズを買うことにした。

のんびり歩いていたら会場が目に見えてきた。

「えどこ行くの?」

君は驚きながら僕にメモを渡してきた。

「今日誕生日だろ行きたがってたフェスだよ。」

君は目を光らせながら段々笑みが浮かび上がってきた。

「誕生日おめでとう」

「ありがとう凪琉」


会場へ着き1階のグッズフロアへ向かう。

「何が欲しい?」

君はタオルとラババンを指さした。

「タオルとラババンひとつずつ下さい。」

涙袋を浮かべて嬉しそうにする君

「もうすぐで好きなバンドの出番だよ」

少し急ぎ足で2階に移動した。

暑がりな君は野外フェスは苦手かなって思って今回は屋内フェスにしてみたんだ。

ラババンを腕に着けながら楽しみにしている君に僕はプレゼント共に声をかけた。

「はい、これプレゼント。」

「フェス連れてってくれたのにまだあるの!?」

メモを見ながら笑う僕。

箱を開けて、リップを手に取り君はそれを口に着けた。

「ねえ!凪琉可愛いよ!これ!本当ありがとうね」

そんな会話をしているうちに君の好きなバンドの出番が来た。

君の好きなバンドはスリーピースバンドで主に恋愛ソングを歌っているらしい。

出てきたバンドマンたちは初手に恋が実る両思いソングを歌い始めた。

ギターの始まりの1音。

僕には色んな世界が広がった。

君と出会ってからのこと。

小さい頃は隠れて2人でイタズラして親に怒られたりもしたなあ。

春は桜みながら君が作ったお弁当食べたりしたなあ

夏はかき氷食べすぎて君が頭めっちゃ痛くなっちゃったとか

秋は中学生になった君は大人びて金木犀の香りの香水つけちゃったり

冬は雪合戦して2人とも次の日風邪ひいたな。

色んな思い出が重なって、サビが来る時。

僕の唇はなにかに触れた。

ふんわりと桃の味。

1枚の紙を渡された。

「今日のお礼だよ」

だってさ、

僕の唇に触れたのは君の唇だった。

僕は一気に顔が赤くなり曲なんて頭に入ってこなかった。

まあ今ならわかる事がひとつあるよ七夕の時の返し方。


ずっと月を見ていようよ。


その後も色んなバンドの曲を聴いた。

楽しそうに盛りあがっているステージと嬉しさと楽しさが混じりあっている君の顔。

今日は忘れられないな。

その日の帰り道。僕は聞いた。

「なんで、あんな事をしたの。」

「私は凪琉の事がずっと前から好きだったんだよ。」

「女の子からこれ言わせてどうするの!」

紙に少し怒りながらでも笑っていながら書いていた君。

「ごめん」

と返すしかなかったな。

「許す代わりに今からギター弾いてよ。」

「いくらでも弾きます。」

と2人とも笑いながら歩いて僕の家へ向かった。

僕の家に着くと、2階へ上がり君は座って子犬のような目で僕を見て僕はギターを手に取る。

「今日はなんの歌を歌おうか。君が歌ってくれたいや、菫が歌ってくれたあの歌だね。」

Gコードを抑えてギターを弾き始める。

僕が代わりに歌っていたら、その時

菫は鼻歌交じりで僕の歌に乗せていた。

びっくりしながらもサビに向けて声を大きくしていく…

サビを歌う瞬間。

君は声を出した。僕のギターでまた声を出してくれた。

そのまま僕のギターで歌いきってくれたんだ。

「えさっき声出してたよね!?」

「うん出たよ。声出たよ凪琉!」

菫は僕に抱きついてきた。

僕達は嬉しくて、何度も、何度もその歌を歌った。

好きが分からない僕に好きを教えてくれたのが君。

恋、愛が知らなかった僕に恋と愛を教えてくれた君。

「好きだよ菫。」


「また会いに来たよ。」

「あれから君に何度会いに来たんだろう。」

「今日はなんの歌を歌おう。君が歌ってくれたあの曲を歌おうか。」


「ねえ起きて凪琉」

ああ、また君の声。そうだ君の声は戻ったんだね。

「菫が死んだ夢を見ちゃったよ。」

「何それ〜私はここにいるしずっと凪琉のそばにいるよ」

一生の一度の幸せを感じた僕。

「また菫の声聞きたいな。」

そしてまた、僕はギターを弾き君は歌い始める。




 

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