第2話
鷲田の部屋。床に布団が二組並べられている。たった今目を覚ましたアテナが卓に向かう鷲田の背中に目をやり、声を掛ける。
アテナ 起きるの早くない? 今何時?
鷲田 アテナはもう少し寝てていいよ。僕はちょっとやることがあるから。
アテナ (身を起こして)そのノート何。
鷲田 過去につけられた言いがかりやら被害妄想やらに対する反論、無実の証明を書きつけたものかな。
アテナ 見せて。
鷲田 はい。
アテナ、読まずにノートを破る。男の情けない嘆き声が聞こえる。
アテナ まだ諦めてなかったの、人として生きること。お前は創作者なんだよ。お前は人が耐えられる程度にひどい暮らしをしていることを望んでる。彼らの不満を代弁するふりをして、祭り上げてもらうために。
鷲田 そういう文句に対応するためのノートだったのに……。
アテナ 人の不安がわからないんだ。お前はそれをニーズと読むから。
お気に入りのレトリックは擬物法。読者なんてお前がひり出した糞コンテンツを受け止める便器だ。
鷲田 その喩えはふさわしくないな。人を舐めたことはあっても便器を舐めたことはないし。
アテナ これだけ言ってまだわからないの。どれだけ言い繕ったところで、お前の罪を蔽うことはできないって。
共感能力を欠いた創作者なんて人の不幸を願ってるだけの有害な存在に過ぎない。私がどうしてここにいるのか忘れてしまったの。
(ビンタして)これが彼の感じる痛み。(往復ビンタして)これが彼女の感じる痛み。それらが消えてしまう前に書き写すのがお前の仕事。今だけは表情も声も要らない。頼れば言葉が脆くなる。お前は作文機械なの。
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