元常識人たち
呪わしい皺の色
第1話
登場人物
①
②古川 その友人
③
④アテナ その同居人
⑤
⑥ぬいぐるみ
椎野の住む1DK。正面の壁際に鏡。左手の万年床の上で椎野が毛布にくるまっている。右手には椅子が一つあり、その後ろの施錠していない玄関から古川がやってくる。
古川 よっ久しぶり。って、うわぁ。ひでぇ顔してるな。
椎野 帰ってくれ。疲れてるんだ。
古川 ひでぇ顔、ひでぇ顔。夢精したパンツを脱ぐのも面倒だって顔してるな。
椎野 アニマルビデオのアテレコよりもムカつくものってあんまりないぞ。
古川 鏡で見てみろよ。実際ひでぇ顔だから。
椎野は鏡の前へ。古川は椅子に。
椎野 見たんだが、いつも通りだな。
古川 かわいそうに……
椎野 え?
古川 鏡像ちゃん。
椎野 常識に照らせばお前のような輩は無視していいことになっている。
古川 「常識に照らせば」なんて言わずに無視を決め込むのが真の常識人だな。
ところで偽者君よ、最近何してた。
椎野 これが本物か。
古川 言わなくてもわかるぞ。ポルノ鑑賞だろ。
椎野 いや、偽者か。
古川 この部屋臭いしな。
椎野 九月に免許を取った。
古川 おめでとうおめでとう。
椎野 ありがとう。
古川 教官が耳元で怒鳴ってきたり、助手席で地団駄を踏んだりするんだよな。
椎野 そこまで怖いのには当たらなかったけど、めんどくさい人はいたな。
古川 へえ。
椎野 若い女の指導員を乗せて路上練習に出た時のことなんだが、車線変更とか三つ先の交差点で右折とか言われる度に返事してたのに言われたんだ。「ねえ、機嫌悪いの?」って。本当にびっくりした。
古川 実際悪かったのか?
椎野 全然。それに、男子校では誰も俺の機嫌なんて気にしなかった。
古川 お前、男子校卒業して何年経つんだよ。
椎野 でも時々夢に見るくらいなんだ。
古川 相手は女だぞ。男子校のやり方が通じるわけないだろ。
椎野 じゃあ聞くが、「はい」と「わかりました」だけで俺の機嫌がわかったりするのか?
古川 ……狭い車内で二人っきり、相手は口数が少ないときてる。嫌なやつは嫌だろうな。指導員には向いてないけど。
椎野に扮した鷲田 つまり、機嫌が悪かったのは俺じゃなくて彼女だったということか。……忘れないうちに書いておこう。
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