7、女神らしくは恥ずかしく
※※※
ここ数時間の記憶を消し飛ばしたい。本気で。
マニュアル通りに家へと送り返した転移者を見送ってから、俺は酷い羞恥プレイにさらされていた。
「本当に女神様、なのですか?」
「ええ、そうです」
「なんて美しい……」
あ――――! 痒い! 蕁麻疹がでそう!
騎士たちの美しいとか誉め言葉は嬉しくはあったが、それに対応する自分の言葉が恥ずかしくて仕方がない。なんだ「ええ」って! お嬢様か! ……今俺女だったわ!
自分の作戦通りとはいえ恥ずかしいものは恥ずかしい。女神としての信仰を集めたいなら女神らしい振る舞いをすればいいんじゃねとやっているものの、正直元の声だったら憤死してるレベルだ。女神になった影響か、声まで綺麗になってて本当に助かった。
俺がちらりと後ろを振り返れば、そこには泣きながら抱き合っているアルルとポールがいる。ポールは怪我をしているものの、幸いそこまで深くはなさそうだから、俺がまた祝福を使えば何とかなるだろう。
転移者は恐らく人を直接殺せるほどの胆力はないから、やるならきっと森ごと放火とかを狙ってくるはずなのでそれを叩こう、と言ったのは俺だ。もちろんその予想には女の手が良く見たら震えていたとか、ライゼを絶対に寄せ付けないようにしていたとか、俺の観察眼もあるが、大体はマニュアルのおかげだった。
マニュアルの後ろの白紙ページに、突然現れた転移者のプロフィールページ。ついさっき俺が言っていた内容の元は大体ここからきている。
飲食勤務の経験がこんなところで生きるとは思わなかった。昔からマニュアルの内容を覚えるのは得意だ。だてにマニュアル人間と呼ばれ続けているわけじゃない。不名誉ではあるが。
「ええと、お話はそろそろ……」
「も、もう行ってしまわれるのですか?」
「森は危険です。是非とも我らが国に」
「ええと……ですね」
しかしこの騎士たち、なかなか離してくれない。女神信仰がきちんと根付いているのか、女神に対しては丁寧な対応をと叩き込まれているらしい。
けれど、そろそろもう解放してほしかった。というのも、一気に祝福やら女神パワーやらを使った反動か、かなりふらついてきているからだ。今はまだ気合で何とかしているが、ちょっと押されたら今にも倒れそう。視界も暗くなりかけているし、経験則からわかるがこれはかなりやばい。
「そうですよ、女神様! 我が国に来ていただければ――――」
と、その時。一人の若い騎士が手をぐっと前のめりに握ってきて、俺の体は簡単に傾いた。生前であれば何ともなかっただろう。だが今の俺はライゼ曰く羽根よりも軽いのだ。
まずい、と思う間もなくぐらりと視界が揺れる。だが、俺の体は誰かに支えられたのか、地面にぶつかることはなかった。
「――――い、お前――大丈――!」
しっかりとした丸太のような頼もしさに思わずホッと息を吐き、その安心感にどうやら緊張が緩んだらしい。誰かの呼びかけに答えることも出来ず、俺の意識はそこでぷっつりと途切れてしまった。
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