神の真似事
あの男はワタシたちをただの駒としか見ていない。人類は皆、彼のおもちゃだと言っていい。騙されないと思っていても、気づいたら彼の掌で踊っていた、なんてよくある話だろう。
「川内少年、その点でも君は稀有な人間だ。否、川内一家が、かな。人間を駒としか見ていない中で、彼が唯一”生物”だと認識している一家」
「……なんなんですか
頭に疑問符を乗せた川内少年が顔を上げる。ばっちり決まったオールバックに所々白髪があるのを見て、苦労しているのだなとワタシは心の中で同情した。
「いやなに、改めて粟野直秀という人間を考えていたんだよ。粟野直秀は孤独な男だ。誰も彼を理解することなどできない。それこそ、この世を管理する者でないとね」
「溝口さんはあれを人間と呼ぶんですね」
「人間だよ、あの男は。ワタシが普段言っていることと矛盾しているがね。あの男は不安定だ。己を”神だ”と認識していないと自我を保てない、ただの人の子」
ワタシの母はそう言っていた。だからワタシもそう認識している。
「ワタシの母は彼を孤独にさせないためにワタシを作った。同じ死なない存在が居たら彼の精神も安定するだろうと踏んだからだ。しかし結果は……君も書類で見ただろう?」
そう問うと、川内少年はどこか真剣な様子で頷いた。
「怒った粟野直秀によって撲殺された」
「あぁ。それをワタシは間近で見た。驚いたよ。ワタシが学習した中では、人は死を恐れている。なのに……」
目を閉じ、あの時の記憶を再生した。聞いていられないような暴言を吐きながら母を殴り続ける少年。それを母は恍惚とした表情で受け入れていた。少年は息絶えた後もずっと、顔の識別が不可能になるまで殴っていて。
「……正直、ワタシが今でも生きていることが不思議でならない。あの時の少年はひどく心を乱していたから、母を殺したあとワタシも壊すものだと思っていた」
「爺さんから聞かされたが、あの男は無意味な殺生はしないらしい。貴女を殺すのは無意味だと判断したんじゃないでしょうか」
「あぁ、彼のことを何となくわかってきた今ならそう思うよ。ワタシを殺すのは無意味だと判断した。だから見逃された」
粟野直秀に救われた人間は多い。ワタシもその一人だ。きっと今後、粟野少年がワタシを壊そうとしてもワタシはそれを受け入れるだろう。
「……本当に不思議だよ」
「? あぁそうだ。溝口さん、さっき会長が呼んでましたよ。カンカンに怒ってましたけど、何したんですか」
「…………なぜそれを先に言わない川内少年! ワタシはこれで失礼するよ。じゃ!」
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