平等な死

「僕は思うのだよ、死は平等にやってくるからこそこの世の均衡がとれているんだって」

 世界統合協会、その本部。緑髪の男は突然やってきて唐突にそんな話を切り出した。

「……詳しく聴こうか」

「僕はあの世から出禁を食らったことでそれを痛感したよ。死という終わりがあるからこの世は平穏を保たれているんだ。もしも神から死を取り上げられたらこの世は地獄そのものになるだろうね。殺しても死なないから暴力が横行し、暴力を受けた人間は死にたくても死ねずに永遠の苦しみを味わうことになる。だから死って重要だと思うんだよ、先生」

「お前の言い分はともかく、死が重要だというのは俺も同意見だ。人は死ぬからその一生を大切にできる。それに……」

「この世界生き地獄から逃げ出すことができる」

「でしょ、先生」と、男はしてやったり顔でにやりと笑う。幼い頃からの付き合いであるため俺の思考回路などお見通しだと言わんばかりの笑顔だった。俺よりも年上のはずなのに、なぜかこの男は俺を「先生」だと呼ぶ。それはきっと、俺と祖父を”全く同じ人間だ”と思っているからだろう。

 粟野直秀はこの世が罪に塗れる原因となった男だ。約三百年前に起こった三回目の世界大戦。その引き金を引いたのは目の前にいるこいつだと聴いたときは驚愕と共に妙な納得感もあった。何故って、世界大戦を起こした理由が人間の間引き、使用土地の収縮を目指したものだったからだ。攻撃が通らず、寿命で死ぬこともないこの男は傲間違いなく現人神にでもなったつもりなのだろう。

「だから僕って可哀想だと思うんだよ。この世で最も不幸な子供と言っていい。可哀想でしょ? だから先生、僕にお金を献上したまえ」

「確かに人々を救うためには金はある程度必要かもしれん。だがお前にやる金などない。__そもそもお前、会社を立ち上げたとか言っていなかったか?」

「名前で呼んでよ先生。僕は君の生徒なんだからさ。……まぁ冗談は置いておいて、僕がここに来た理由は報告のためなんだよ。昨日ね、やっと社員ができたのだよ。孤児で、あぶれ者だったから拾ったの。もうすごくて。一回洗っただけじゃあ垢が完全に取れなかったんだ! 懐かしいなって思ったよ。僕が最初に拾った子もこんな感じだったなぁって。ご飯もいっぱい食べるんだ! まるで飢えた動物だよあれは!」

「あの子を見て僕はあんなに可愛そうな子がまだまだいるんだって再確認したよ!」と、興奮したように顔を紅潮させる粟野。まるで新しい玩具を与えられた子供のようだ。少なくとも三百年はこの世を生きているのに感性が子供のままと言うのは人間が百年以上この世を生きられないのだと自覚させられる。老いることも死ぬこともできない人間は狂っていないとこの世を生きていくことができない……というのは、流石に誇大表現だろうか。

「__あぁ安心してくれたまえ。だからといって前のように戦争は起こしたりしないよ」

「普通の人間はそんな注釈をいれないんだよ」

「え、そうなの?」

 きょとんとした顔で俺の顔を見る粟野に思わず盛大なため息を吐き、天を仰ぐ。親父や爺さんが居るであろう場所に届くように大きな声で苦言を言うために息を吸った。

「なんでこんなやつを俺に紹介したんだよクソ親父!」

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