粟野直秀の殺し方

 粟野直秀あわのなおひでは不死身だ。外見年齢は二十歳ごろだが、中身は三桁を超えているらしい。絶対に死なないという絶対的な自信があるから彼は嬉々として戦場に身を投じる。そんな男を、死を恐れているオレは羨望の眼でただ見ていた。

文斗あやと少年、いつもよりペースが遅いじゃあないか。もしかして体調不良かい?」

 青い瞳がオレの顔を映す。その言葉でオレは今居酒屋に居ることを思い出した。

溝口みぞぐちサン……オレの上司の殺し方ってなんなんでしょうね」

 そう問うと、丸メガネをかけた女性……溝口カルナさんは「それは難しい質問だな」と鼻で笑った。

「まぁ、しいて言うなら死神に好かれるのを待つしかないだろうな。それ以外に彼を殺す方法などないと断言できよう」

「……やっぱそうっすよね」

 粟野直秀を殺す方法は幾度も模索されてきたと聴く。目の前に居る溝口サンもその実験の参加者だ。結果は本人も言うように”どのような手段を用いても粟野直秀を殺すことはできない”。それこそ、居るかもわからない神に殺されるしか。

「文斗少年は彼に死んでほしいのか?」

「まさか! ただ……そうっすね、羨ましいと思うと同時に、己の知る人間が死んでいくのを見るのは酷だろうなって」

「君が彼を置いて逝ってしまうことは確定しているからねぇ。……まぁ、そんなことどうだっていいじゃあないか」

「そんなことって……」

 薄情だな。と思いながら彼女を見ると、溝口サンはコップの縁を指でなぞりながら微笑んだ。

「彼が死なないことで救われている命があることを、忘れてはいけないと思うんだ」

「……」

 オレたちの間に静寂が訪れる。聴こえるのは他の客の喧騒だけ。溝口サンは「らしくないことを言った」と顔を赤らめ頭を乱雑に掻いた。

「久しぶりに会ったんだ、いっぱい飲んで明日苦しもう」

「そっすね」

 その後は普段と同じように飲んで、気づけばやってきた粟野サンに介抱されてその日を終えた。

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