三杯目 二人の共通点

 社会人一年目は、中々に忙しかった。

 OJT研修のため、先輩と共に医療現場での製品説明、保守対応、その他業務で、毎日が目まぐるしかった。

 

「紗羽、お疲れ様―――」

 昼休憩に入るため、社員食堂へ向かう廊下を歩いていると、同期の琴葉ことはが歩み寄って来た。

「さっき紗羽が戻った所を見かけたから、一緒にお昼、どうかと思って。ラインしようとしていたところだったのよ」

 そう言いながら、スーツのポケットにスマホをしまった。

「琴葉もお疲れ様。昼前に戻って来られて良かった。琴葉と会社で食べるのは、久し振りだね」

 琴葉は同い年だが、同年代の私よりも、とても落ち着いている子だった。

 社会人になってからは、学生の頃のような友人はできない、と、心の何処かで思っていた。皆、仕事を抱え、自分の生活があって、沢山のやるべき事に追われ、どこか一線をおいて―――

 

 琴葉とは、学生時代から一緒に過ごしてきたような錯覚すら覚えた。いや、琴葉が、そうさせてくれているのかもしれない。

 私達は、社員食堂で人気のある生姜焼き定食、ハンバーグ定食をそれぞれ注文し、席へ着いた。

「いただきます」

 ほぼ同時にそう言って、社員食堂の定食を堪能した。

「そういえば、陽太くんとは最近どう?」

 琴葉は長い指の華奢な手で、カップとソーサーを綺麗に持ち、食後の珈琲を飲みながら微笑んだ。

 

 私達が付き合い始めるまで、そう、時間はかからなかった。

 寧ろ、その方が自然だった。

 私達は、大抵同じだった。

 同郷という共通点から始まり、お酒は苦手だった。

 その代わり、珈琲が好きで、休日には時折、カフェ巡りを楽しんだ。

 インテリアなどの家具を始め、雑貨なども、惹かれるものがとてもよく似ていた。

 そういえば、この間行ったお店では、色違いだったけれど、同じデザインの深皿を持って、レジへ向かおうとしていたっけ―――

「あ…聞かなくても、心配なんか必要無いって、分かったわ。ニ人共、とても良く似ているものね」

 琴葉は穏やかに微笑み、珈琲をゆっくりと口へ運んだ。

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