第57話  さよなら……らしいよ知らんけど

「あのさあ、せっかく彼女できたんだから、アタシなんてほっといてデートしてろよ」


 と、アタシは正論を言いはなったらしいよ。知らんけど。


「告白成功したその日に振られても知らんよ?」

「でも、お前とこれでサヨナラとか嫌だ。また会えるってんなら話は別だけど……」

「それは無理だね」


 アタシがそう言うと、タケは唇を噛み締める。…どうやら覚悟はしてたみたいだね。

 そう、この日を境に、アタシとタケは会話を交わすことは二度とない。


「まあでもさ、安心してよ。影ながら見守ってるからさ」

「影ながら、なんかじゃなく、ずっと側で支えてくれよ!これからも、百合子ちゃんとの事相談にのってくれよ!」

「無理だって」

「なんでだよ!ギャルゲーアイはなくなっても、それくらいしてくれてもいいじゃんか!」


 子供みたいにダダこねるなよな。

 それに今は人の影無いからいいけど、独り言叫んでるように周りには見えるんだからな?


「元々アタシは修行中の身。あんたを殺しちゃったってアクシデントがあって、負い目もあったから今までは共にいたけど、もう役割は終えたでしょ?」

「や、役割?」

「恋人、できたでしょ?それで償いは終わり」

「つ、償いだなんて、お前はおれをちゃんと生き返らせてくれたのに」

「運良く復活できただけだって。だから生き返れたからOKなんて簡単に済ます気はなかっただけ」


 禁じられた術使ったりと、お師匠達から大目玉くらって、ギャルゲーアイを勝手に与えたアタシへの罰。その刑期が今日終わった。ただそれだけ。


 だからサヨナラなんだよ。


「でも、でもよ……修行の合間に来るとか……」

「様子はたまに見に来るよ。あんたと会うことはないけどね」

「な、なんで!?」

「ギャルゲーアイがなくなればアタシを見る力もなくなる。そもそもあんたは魔力が皆無に近いし」


 つまり、これからアタシが会いに来ても、タケはアタシを見ることも会話することもできないわけだ。


「そ、そんな……な、なら手紙書いて会話するとか」

「無理」

「なんで!?」

「あんたは今日この日でアタシの事を忘れるから」

「…は!?」


 限られた人間を除き、アタシ達天使の存在は伏せられてる。天界だとか魔界だとかを人は知っていてはいけないんだと。


 記憶はギャルゲーアイに紐付いてる。だからギャルゲーアイがなくなれば、アタシの事を丸々忘れる。


 ギャルゲーアイの事を知ってる美波くんも、関わった人物として一緒に忘れるようになってる。


 つまり、全員アタシを忘れるわけだ。


「だから、悲しむことないよ。わすれちゃうんだからさ。大丈夫、あんたならやれるよ。友達もいるし、百合子も見捨てやしない」

「大丈夫じゃねえよ!」


 また大声。喉潰すぞ?知らんけど。


「お前と会って、ギャルゲーアイがなければ、攻略候補三人の誰とも友達にすらなれなかった。安野とかの友人だって……」

「きっかけになっただけらしいよ、知らんけど。でもギャルゲーアイで手に入れた経験値は忘れても身になってるはず。何も心配するとこない」


 そう言って、アタシは宙を浮く。

 そのままゆっくりと上昇していく。


 離れていくことで、小さく、タケの視界から見えづらくなっていく。タケは叫んで、アタシに向かって手を上げる。


「待って、待ってくれよラズ!」

「ゴメンな。でもアタシら天使には使命があるんだ。修行して、大天使になって、天界人と共に戦い続けるって、使命がね」

「なんで、なんでお前がそんなことしなきゃいけないんだよ!一緒にいてくれよ!」


 おいおい泣くなよな。アタシは涙一つでないぞ?

 …ま、寂しくないと言ったら嘘になるけどね。


「別にアタシは戦う使命、嫌じゃないからさ。そうやって影ながらあんたらを守れるかもだし。それに言ったろ?見守ってるってさ。あんたは忘れるだろうけど」

「嫌だ!忘れねえ!忘れねえぞ!おれは……、ラズの事、忘れねえ!」


 …友達?

 へへ。人間の友達出来てたんだアタシ。

 なんか、嬉しいな。


「じゃあなタケ!友達として、アタシはあんたの幸せ願ってるらしいよ!知らんけど!百合子と幸せにな!」

「ら、ラズ……」


 タケは急に意識を失い倒れた。

 ま、すぐに目をさますよ。

 ギャルゲーアイを失った事で一瞬気絶しただけだからさ。



 ♢



 去ったつもりだけど、アタシは隠れて様子伺うらしいよ。タケが目を覚ますのを。


 タケは目を覚まし、立ち上がる。


「あ、あれ?な、なんでおれ外で寝てたんだ?」


 ファミレスの外で話してたからね。


「あ!いけねえ!百合子ちゃんとメシ食いに来てたんだった!早く中に戻らねえと!」


 タケは急いでファミレスの中に。


「ゴメン百合子ちゃん!待たせた!」


 百合子は先にご飯食べてた。


「頼んでた注文来てるよ。謝罪なんてすることないから、早く食べ……」


 突然言葉が止まる百合子。


「建人くん?なんで泣いてるの?」


 タケの両目から涙が溢れていた。

 …まったくこいつは、


「え、ええ!?な、なんでた?止まらねえ。あ、アレかな?付き合えて嬉しすぎたからかな?」

「もう~」


 フフ。そうやってイチャついてな。


 さて、美波くんに別れの挨拶したいけど、彼は魔力あるから見えちゃうし、手紙でも置いとくかな。


 タケをよろしくってね。


 さあ……アタシは修行に戻るかな。



 つづくらしいよ。



 次回は……最終回。


 様子を見に行くよ。

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