20話  乙女座はいずこ

 ジャンケンに勝った(不正)ピアスは、ケンタウロスに問う。


「さあ、乙女座の居所教えろ」

「何で?」

「勝っただろ」

「だから?」

「質問に答えろ」

「何で?」

「勝っただろ」

「だから?」

「質問に答えろ」


 無限ループか?


 ――十分後。


「だから?」

「質問に答えろ」


「いつまでやってるんですの!」


 エリスお嬢様の堪忍袋の緒が切れた。両手に火炎玉を持って、今にもピアスを焼きつくそうとしてるものだから、僕は彼女を羽交い締めにして止める。


「落ち着いてお嬢様。ピアス、話が進まないからさ」


 だいぶ優しくピアスに言った時だった。ケンタウロスはいきなり汚い笑みを浮かべた!


「バカめ! 時間稼ぎに引っ掛かりやがって!」


 ケンタウロスはどうやらピアスと話してるスキに、罠から脱出する手立てを用意していたらしい。

 ただのアホではなかったか……


 どういう原理か不明だが、ネズミとりの罠が開き、ケンタウロスは罠から脱出した。


「やーいやーいバーカバーカ!」


 子供かこいつ。


 するとピアスが動く。


「そーらとってこーい!」


 ピアスがエロ本を逆方向に投げた。


「うひょー」


 ケンタウロスは一目散にエロ本の方に向かい、犬がフリスビーをキャッチするかのように、ジャンプしてエロ本を口でゲットする。

 そして地面に着地したその瞬間、仕掛けてた落とし穴にケンタウロスは落下した。


「ぎゃあああ!」


 やっぱアホだこいつ。


「答えずに逃げるとはいい度胸だな小僧!」


 と、ピアスは落とし穴の上から見下ろしつつ言った。

 いや、小僧って見た目じゃないけどね。


「この穴の中を水で満たして溺れさせてやる。嫌なら早く吐け」

「水攻め!? それが勇者一行のすることか!」


 ぐうの音も出ない。勇者一行のするような事ではないね確かに。


「うるせえ。早く吐かないと……」

「ま、待て! エロ本も濡れるじゃないか!」


 気にするとこ、そこ? 


「言っとくけど、本よく見てみろ」


 ケンタウロスはエロ本を見てみる。表紙にはエロ本と汚い字で書いてあった。

 ……この時点で偽物とわかる。

 だが、奴はご丁寧に中身も拝見しだす。読みたかっただけかもだが。


「な、なんじゃこりゃ~! エロって字だけでページ埋めつくしてる~!」


 おお、細かく中身の解説までしてくれた。読者様への説明の手間省けたありがとう。


「そもそも、あたしが男向けのエロ本なんて持ってるわけないでしょ」

「なら女性向けのならあるのか?」

「……」


 おい、こっちを向け。急に顔を背けるな。


「とにかく! 水攻め開始だ!」

「や、やめてくれ~!」


 ケンタウロスは叫ぶが慈悲はない……


 ……


 ……


 ――ん?


「誰か水用意して」


 ズドドドー! 

 

 全員が芸人並みのズッコケを披露した。


「こうなったら! 田中のおじさん! 小○とう○こを落とし穴に落とせ!」


 おいバカやめろ。


「イエッサー」


 田中のおじさんも拒否れ!

 なに食わぬ顔で落とし穴に向かわないでください!


「この下品連中全員皆殺しにしたいんですけども……わたくしとリブラ様以外焼き殺したい」


 落ち着いてくださいお嬢様。


「えっ? ウチも下品の中に入ってるのエリス?」


 いや、多分シズさんは忘れられてるだけだよ。


「ま、待て! わ、わかった! は、話すから!」


 さすがのケンタウロスも下品攻撃にあうとわかれば素直になるか。

 田中のおじさん、そういう事だからしなくていい。けつ出そうとするな。


「そもそも乙女座はおれを追ってるはず、つまり近くに来てるはずだ!」

「――ってことはお前を餌にすれば乙女座が来るわけか。フッフッフ」


 うわあ。ピアスがよからぬ笑みを浮かべている。

 見ず知らずの乙女座、逃げた方が身のためだぞ。


「よし、ケンタウロス処刑のビラを配ろう。そしてまんまと釣られた乙女座を確保する!」


 いや、仲間じゃないんだぞ乙女座とケンタウロスは。

 そんな救出目的の相手を捕らえる悪党みたいなムーヴしても意味がない。

 というかやはり僕たちは勇者一行の風上におけないのかもしれない……


「じゃあネズミとりの罠の餌を、

ケンタウロスにするよ」


 かかるわけないだろ。


 ……


 ……


 ――一時間後。


「かからないのかよ!」


 ピアスの絶叫。

 当たり前だろ。まさかケンタウロスみたいになると思ったのか?


「「フフフ。どうやら新たなる勇者一行はバカだらけみたいだね~」」

「「そうなんですよ~。任せてはおけないでしょ? ヴァル様~」」


 アホな罠を仕掛けた僕たちを崖の上から見下ろし、ほざいてる二人の姿が確認できた。


 ……遠すぎてなに言ってるか聞こえないんですけど、誰?


「おや、挨拶が遅れたね。乙女座ヴァル」

「そして久しぶり~。蟹座のキャスで~す」


 お前たちもナチュラルに心読むな。

 あと、やっぱり遠いから聞こえないんですけど。



 ――つづく。


「乙女座だと! 今だ! 確保しろ!」


「次回 ナルシスト二人。乙女座もナルシストなの? OKOKイケメンなら許すよ!」

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