21話  ナルシスト二人

「乙女座ヴァル!」

「蟹座キャス~!」


 え? なに聞こえない。

 崖の上でカッコつけるのはいいけどさ、聞こえないならなんの意味もないからね?


「おかしいな。反応ないじゃないか。このオレの、美しい美声を聞かせてやったと言うのに……」

「おそらく奴らの耳は腐ってるんですよ~。バカ集団ですし~」

「ふっ。そう言ってやるな。この美しい美声を聞き取れなかったのはかわいそうな連中だがな! ハーッハッハッは、……げほ! ゴホゴホッ!」

「ヴァル様ぁ~! 大丈夫ですかあ~!」


 なんか咳き込んでるよ。それだけはわかった。

 

「はーい水飲んで~ヒッヒッふー」


 何でラマーズ法?


「えい」


 あ、ピアスが電気玉を崖に向かって放った。


 崖に直撃すると、爆音と共に二人の立つ地点が崩れ落ち、瓦礫と共に落下していく。


 ――が、


「はっ」「ふん」


 瓦礫に乗りながら華麗に僕たちの近くに降り立ってきた。

 無様に落下するような事はなかった。……やるな。


「なめたことしてくれるじゃないか! いきなり攻撃だなんてさ!」

「……あんたは誰?」


 僕は質問した。


「名乗っただろうが!」


 聞こえないって。


「乙女座ヴァル!」

「その配下その一、キャス!」


 なんか二人ともヒーローポーズとってる。


「決まった……」

「素敵~ヴァル様~!」「キャー最高~」「抱いて~」


 ……キャスさんが一人で何役もやってヴァルを誉めちぎってる。


 いない配下の変わりを、一人でこなしてるのか? 律儀な人。


 というかナルシストは僕一人で間に合ってるんだよね。

 第一ナルシストキャラってさ、あまり読者に好かれないイメージなんだ。

 あと、他の作品とかでも、なんだあいつはとか、嫌いだとか、容赦なく言われるようなキャラじゃないかナルシストは。


 それが二人はやりすぎではなかろうか? 


「お前のような半端なナルシストと一緒にするな! オレは美しく気高く、あらゆる女性を虜にする男なのだから……」

「キャ~」「素敵~」「最高~」


 キャスさん大変だね。

 あと、お前も心読むのか。


 相手にするのも面倒だ。仲間の意見を聞くとするか。


「みんな、奴のこと、どう思う?」


 すると、ピアス、お嬢様、シズさん、田中のおじさんの順に答える。


「いいんじゃない? かっこいいし」

「ですわね。ナルシストなのもわかる美しさですわ……」

「出番減るのは嫌だけど、ナルシストなのは構わないよ」

「オイラとキャラ被りそうかな?」


 一人戯れ言ほざいてるのはスルーして、ナルシストなのは誰も拒否感ないのだね。


 ここまでナルシストキャラに優しい仲間達が揃ってるとは、珍しいと思いませんか?

 まあそもそも僕についてきてくれてる時点でそうか……


「ねえねえ! あたし達の仲間になってよ!」


 おや、ピアスの奴目をキラキラさせてお願いしてるよ。

 ……ムカつくがかわいい。

 

 この女、ホントにイケメンには弱いんだな。


「いいだろう。オレをリーダーとして崇めるならな」

「やったー! イケメンゲット!」


 おいおい。リーダーとして崇めるのかお前。


「よし、ならば下僕、オレと動きを合わせろ」

「はい~♥️」

激流鞭ウォータースネイク!」

「サンダーボール!」


 ヴァルが放った水が、鞭のようにしなり、ピアスの電撃をくってパワーアップ!

 ――そして……


「死ね」


 鞭がケンタウロスに向かって飛んでいく!


 ――あ、そっか敵いたんだったね。忘れてた。


「忘れるなぁ~!!」


 絶叫してケンタウロスは爆発してしまった。


 ……強い。仲間になるなら確かに心強いのかもしれない。

 

「やったよリブラ~褒めて褒めて~」


 と、僕に頭を差し出す。

 なんだ? 今日はやけにおとなしいな。人気投票に向けて猫被ってるのか? もう遅いぞ。


「なんだお前。オレに忠誠誓うんじゃないのか?」

「あたしは逆ハーの女王になるの夢だから、一人じゃ満足しないの」


 あ、そうですか。


「でも本命はリブラ~」

「はいはい」


 ピアスに頬擦りされる。すかさずお嬢様も割って入る。


「どきなさいな! 野蛮人!」

「うっせデブ!」


 いつもの喧嘩になると思いきや……

 ヴァルは少し怒りの表情を見せる。


「待て。リブラとかいう奴、オレより目立つとは許せん」

「それはウチもそう思う」

「誰だお前」


 割り込んできたシズさんに冷静なツッコミ。


「リーダーはオレだ。だから目立つのは許さん」

「そんなこと言われてもな……」

「よし、こうしよう。オレと勝負しろ。勝った方がこのパーティーのリーダーだ」


 なにを勝手な事を……僕はリーダーとか興味ないのに。

 かっこいいのは僕だけどね。


「なんだと!?」


 しまった。心読まれるんだった。


「もう許せん……叩きのめしてくれる……」


 面倒だな……でも納得しなさそうだし、やるしかないのか……


「ちょっと待って!」


 ピアスが手を上げて、僕らの前に出てくる。


「リーダー決めより、まず、しなくちゃいけない重要な事があるんだよ」

「重要な事?」


 僕は首をかしげる。皆目検討もつかないからだ。


「ピアス、重要な事ってなんだ?」

「うん。リーダー決めより、まずしなくてはならないこと……」


 ピアスはある人物に冷たい目を向けて叫ぶ。


「田中のおじさんの処刑だあああああ!!」


 ……


「へ?」


 田中のおじさんは間抜けな声をだした。



 ――つづく。



「へ? な、なんで処刑されなきゃならんの!?」


 カンペを渡される。田中のおじさん。


「え? なになに? 次回は新章。たなおじ処刑編? ええええええええええええええ!!」


「次回 田中のおじさんを処刑しよう。オー! ……オーじゃないよ! 意味わからんよ!」

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