第32話粉砕骨折の手術の失敗

私の腕の骨は砕けていた。

ちょうど両腕のひじのところの骨が粉々になっていたのだ。

レントゲンを見た医師が「何本もボルトでつなぐ手術になります。」と言った。

左ひじが特にひどいので難しい手術になるとの話だった。

精神科で出してもらっている薬は、この病院でもらうことになった。

即日入院して、翌日には手術した。

麻酔が解けると猛烈な痛みが襲ってきた。

手の甲は膨れ上がり、紫色になっている。

両手が使えないので、食事にも苦労することになった。

担当した医師は「左手の方がひどいと思ったのですが、開けてみたら右手の方が深刻でした。でも何とか形になりましたので。」と言っていた。


両手はギプスで固められ、指先しか動かない。

それでも、腕を使うことで後遺症から少しでも良くなることが出来るという。

負担は避けなければいけないが、動かないままになってはいけないので必死で食事を取った。

右手は動かせなかったが左手は少し動くので左手でフォークを持ち食事をした。

翌日にはレントゲンを再び撮り医師が確認した。

右手の骨にはボルトが無数に入っていて、円を描くように留められていた。

左手の骨は、それよりは少ない数のボルトが埋まっていた。

「とにかくリハビリを頑張ってください。腕をよく使うようにしてください。」

「手がしびれて仕方ないのですが、どうにかなりませんか?」

「少しずつ腫れがひいてくると思うので、我慢してください。」


入浴も出来ずに、体を看護師さんに拭いてもらった。髪は専用の流しで洗ってもらっていた。

その時期はコロナでお見舞いは出来ないことになっていた。

身の回りの物を主人に頼み、土日に持ってきてもらったが会えずじまいだった。

数週間たってギプスが取れたころ、退院となった。

家に帰っても家事が出来ないので、出来合いのものを買ってきたり、左手だけで作れるものを作ったりした。

右手も動かさなければならないので、少しずつ動かすようにしていたが、ある日カクンと右手が下りた。


次の診察の時、右手は予後が良くなかったらしく、医師から「このままではどんどん崩れていくので再手術が必要です。」と言われた。

「腕を開けたときに、この術式では無理かもしれないと思ったのですが、何とか形になったので大丈夫だと思ったんですけどね・・。」

「骨を固定する金属物を中に入れます。その手術でもうまくいかなかったら人工関節になります。」とのことだった。

再び入院し、再手術となった。

今度の手術は、術式が変わるため、医師も変わった。

最初に筋肉注射を打ち、腕が重くなった。そして麻酔を受け、覚めたときには手術は終わっていた。


今度の手術では血液を逃がすチューブが挿されていて、腕のしびれはそれほどなかった。

しかし、特製のギプスをしなければならず、リハビリも少しずつしか進まなかった。

レントゲンを見ると凸状の金属物が腕に埋め込まれ、その周りをボルトがかこっているような形状だった。

サポーター式のギプスはマジックテープで止めるようになっており、重かった。

左手は曲げ伸ばしが出来るようになったが、右手はサポーターをしており少ししか曲がらない。


右手のサポーターが取れたころ、母が亡くなった。

弟が朝起きてこないので様子を見に行くと亡くなっていたという。

救急車を呼んだが、既に息を引き取っていた。

私は母の葬式の時、うまくお焼香が出来なかった。

合掌も無理だった。右腕はうまく曲がらないままだったのだ。

また小指にはしびれが残った。この後遺症はそのまま今でも治っていない。

右腕はまっすぐには伸びないし、曲がるのも90度までだった。

一年ほどたったころ、すべてのリハビリが終了し、私は保険会社に後遺障害の申請をした。

80万円ほどの保険金が下りた。

あれ以来駅ではエレベーターを使うようになり、階段は避けるようになった。




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