第31話母の老人性痴ほう症

弟のところに同居して以来、私とは疎遠になっていた母だったが弟から相談が来た。

「母さんが部屋を散らかしてどうにもならないんだ。掃除をしようとしても抵抗されて・・。」

「それに入浴も拒否するんだよ。部屋が臭くてたまらないんだ。」

「わかった。土曜日にそちらにお邪魔して私が片付けに行く。」

私は電話で母の様子を聞いていたが、特段変わった様子はなかった。

ただ、電話の途中で何の話をしていたのかを忘れたり、すごく昔の話を今の事みたいに話したりするのには違和感があった。


弟夫婦も自分たちで引き取るといった手前、私に助けを求めにくかったようだ。

あれほど資産管理には自信があった母が今は全てを弟に任せているという。

しかも、証券会社に騙されてファンドラップなどを契約させられていた。

金銭管理は弟に任せるとしても、部屋があれていては母自身も居心地が悪いだろう。

私は電車を乗り継いで、弟の家に行った。


部屋を見せてもらうと、カタログ雑誌などがうずたかく積まれていて、スーパーの袋にごみなのか必要なのかわからないものがいくつも床に置かれていた。

とりあえず、母にはリビングに移動してもらい、カタログ雑誌から片付け始めた。

宛名が貼ってあるものを捨てるのが抵抗があったらしい。

個人情報だからと言うことだったので、宛名をはがしてシュレッダーすることにし、開封してどんどんごみ袋に入れて行った。

そして、弟に登録を解除してもらい、郵送されてこないようにした。


母は部屋に戻ってきて抵抗を見せた。

「私が後でやるから触らないで!」

「お前はこんなにだらしないんだって言われてるみたいで気分が悪い。」

などと喚いていたが、私は無視して片付けて行った。

重要そうな書類などは弟に預けた。

だがほとんどはすでに解約済みの金融商品の契約書だった。

何度も私の片づけの邪魔をしに来たが、何とか片付け終わった。

2週続けて片付けしに行ったのだった。

私はどこに何をしまったかを図解にし後で困らないようにしたが、母は何がどこにあるかわからなくなったとこぼしていた。


お嫁さんでは強引に片付けることが出来なかったのだろう。

一応は片付いた部屋にホッとした様子だった。

けれども、入浴拒否の方は続いていて、デイサービスを利用してもお風呂だけは入らずに帰って来ていた。

デイサービスのお風呂に番頭さんがいて見ているからいやだとかお風呂には入ってきたと嘘の報告をしていたらしい。

外出している間に空気の入れ替えをするため窓を開けていると帰ってきたとき寒いと言って嫌がるという。

悪臭が漂い、掃除が出来なかった母の部屋はそれでも、掃除が出来るようになった分だけ幾分マシになったみたいだった。


私は自分はもっと年を取った時、大丈夫だろうかと不安になってきた。

主人の会社には精神科の産業医もいて私のことを相談していたという。

統合失調症になった人はアルツハイマーにもなりやすいらしい。

これ以上主人に迷惑をかけるのは嫌だった。

それから数か月たって病院からの帰り道、駅の階段で私は転んでしまった。

両腕を骨折してしまったのだった。

駅には主人が迎えに来ていたが、そのまま病院へ直行した。

その場でギプスをしてもらい、紹介状を書いてもらって大学病院に行った。

靴底が外れて転倒していたのだった。

そしてこれが後遺症の残るケガとなった。


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