第22話解離性障害と引っ越し

最後の育児カウンセリングでこんなことを言われた。

「解離の症状があるって言われたことはないですか?」

私は一部の記憶が消えてなくなり、それが時間を経てフラッシュバックとして戻ってくるのは何度も経験していた。

解離性障害はひどくなると多重人格を引き起こす。

図書館の本にはそんなことが書かれていた。


病気から回復して引っ越し準備をしていても、記憶から消えていることは多かった。

どうやら私は統合失調症の症状が治まって薬を止めても解離の症状だけは残るようだった。

主人が思い出話をしていても、私には記憶がないことが多かった。

旅行に行ったことやデートしたことなどで覚えていることが少ないのだ。

再発するたびにどんな記憶も吹き飛ぶみたいだった。

そしてフラッシュバックとして戻ってくるときは、鮮明にその場面を思い出す。

それはA社にいたときのことが多かった。


引っ越し先でも無言電話はかかってきた。

頻繁に掛かってくる電話に主人は「恵美子ちゃんにではないの?」と言った。

確かに毎年の年賀状で引っ越し先の住所と電話番号はA社の同僚の女性たちに伝えていた。

その中には社内結婚した人もいてそこから漏れる可能性はあった。

前のマンションではストーキングも経験している。

こちらにも追いかけてきているのだろうか?

しかし、分譲マンションはセキュリティがしっかりしていた。

だから訪ねてくることは出来ないだろう。

だが、無言電話がかかるたびにフラッシュバックは起きていた。

私は自分の余計なことを考える時間を減らすため、パートに出ることにした。

息子は母親病気を理由に保育園に入れることが出来た。

2歳児にもなると、空きは見つかるのだった。

そしてマンションの向かいの図書館に本を卸している会社に就職した。


その頃になるとお義母さんが体調を崩し、徘徊もするようになった。

そして家に戻れずに交番に保護されることも増えてきた。

主人は3人兄妹で平日は妹さんたちが看て、休日は私たちが看ることになった。

平日は息子を保育園に連れてゆき仕事に出かけ、土日はお義母さんと過ごすことになった。

とても忙しくて、病気をしている暇がない。

それでも頭の中はA社にいたころの過去にとらわれていた。

そして夜中起きだして、ブログを書いていた。

それは頭の中に浮かぶ詩で、書き留めないといつまでも頭に滞留していた。

そしてネットの中に前田さんがいる気がして、やめられなかった。

今にして思えば、それも病気の一つだったと思う。

家事と育児と仕事と介護という自分の時間が取れない中での逃避行動だ。

前田さんのことが好きだというよりも、現実から逃げ出したい気持ちの方が強かった。


しかも、2人の妹さんたちには、私に対する攻撃があった。

長男の嫁なんだからもっと分担しろと言うことだった。

平日のパート仲間と保育園のママ友がいなかったら、私はつぶれていただろうと思う。

そして、日曜日にお義母さんを実家に送るときこのまま自動車事故でみんないなくなってしまえればとひそかに思っていた。

周りのママ友たちで介護を経験している人はまだいなかった。

今にして思えば体力のあるうちに経験できてよかったと思う。

着替えの手伝いや入浴など段々力が必要になった。

それは主人と一緒にやってもきつい仕事だったのだ。

そして家族で看るのは限界がきてグループホームにお世話になることになったのだった。

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