第20話再び始まるストーキングと親子の追体験

息子が生まれてしばらくは幸せな時が続いた。

主人も育児に参加してくれてとても助かった。

それに親子教室に行ってからマンション内の同じ年頃の子供たちを持ったママ友も出来た。

しかし母乳育児が終わったころから、母から受けていたストレスを追体験するようになった。

子供が泣くのは仕事のうちだ。

要求が通らないと癇癪を起す息子を相手にしていて、なぜ私はあんなにわがままだと言われていたのか、ごく普通のこどもだったのではないかという考えが頭に浮かんだ。


私は妊娠中から各月齢の子供がどんな育ちをするのか、本で学んでいた。

そして母親と言うものの役割や感情について知るうちに自分はネグレクトに遭っていたのだと確信した。

母は私を産んだ時、帝王切開で輸血をしていた。その輸血の血液が粗悪なもので劇症肝炎になってしまった。

そして入院し、育児の大半は祖母が代わりにやっていた。

そうした母子分離はわが子への愛着が薄くなるものだと書いてあった。

だから母はいつだって私に厳しかったし、冷たかったのだ。

育児をするたびにこの現実に直面するようになった。

その頃から少しずつ、私の調子は悪くなっていった。

子育てがつらいのだった。それは愛されなかった赤ちゃん時代の記憶がよみがえるからだった。


そこで母親としては先輩のA社の同僚だった大野さんに連絡を取り、会うことになった。

後輩である大野さんと会うのはいつぶりだろう。

そんなことを考えながら待ち合わせ場所についた。

喫茶店でお茶を飲みながら、子育てについて相談に乗ってもらった。

そんな中、A社の動向についても教えてもらっていた。

「前田さんの部署、アメリカを撤退して帰国したそうですよ。」

「前田さんかぁ、確か結婚したって聞いたけど、お子さんはできたのかなぁ。」

「この間横浜支社の前田さんの部署の同窓会に混ぜてもらったんですけど、赤ちゃんが出来たみたいですよ。高田さんのお子さんと同じくらいの年の男の子・・。」

「まさかですよね。何やってるんです?」

突然、大野さんが慌てだした。

「まさかその子、前田さんの・・」そして席を立ってどこかへ電話しに行った。

私の子が前田さんの子だなんてありえない。

第一、あの幻の夜では計算が合わないのだ。

この子は間違いなく主人の子だった。

大野さんはホッとした表情で戻ってきてまた世間話を続けた。

けれども、追体験の悩みについては話せなかった。

久しぶりに会って嬉しかったけれど、それはまた別の問題だった。

こんな悩み誰にも話せない。

大野さんと別れて自宅に帰った私は、また再発するのではないかという恐怖に襲われた。


しばらくたってから、近所のママ友にマンションの広場の公園で声をかけられた。

「恵美子ママ、ストーカーみたいのに遭ってない?」

「確かに見た目はかっこいいけど、ご主人の方がいいと思うわよ。なんか悪そうな感じだし・・。」

「私、息子君の月齢とかを聞かれたの。ついさっきも・・。ヒッ!」

私はマンションの方へ振り返ったが人影は見えなかった。

「本当にご主人に似た感じの人で・・。なんか知らないけど、気を付けてね。」

ここへ来てまた問題発生だ。しかも私も育児ノイローゼになりかけていた。

母乳も終わったことだし、また病院へ行ってみよう。先生くらいしか相談相手が見当たらないのだった。

私はあの幻の夜のことがフラッシュバックしていた。

再発を繰り返すうちにタガが外れやすくなっているみたいだった。

一生治らないと言われていた意味がここへ来て現実味を帯びてきたのだった。



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