第19話アメリカに旅立つ彼と主人との対決
私は子供を望んでいたので、なるべく薬を飲まないで生活したかった。
それで実家から戻ってからは一人になる時間を減らすべく仕事を探した。
そしてパート勤務である旅行会社に就職した。
朝、主人を送り出してから出勤する。
勤務先は新居の近所だったので運動もかねて徒歩で通った。
仕事は新幹線と飛行機のチケットを予約し、発行することだった。
簡単な仕事だったが、パートの女性ばかりの職場ですぐに馴染めた。
そして、病気は影を潜め、通常生活が送れるようになった。
夕方家に帰る途中でスーパーにより、食材を調達する。
そして夕食の下ごしらえをして主人が帰ってくるまでの間は、図書館で借りた本を読んで過ごした。
仮眠の時間はなるべく減らして、夜しっかり眠れるように心がけた。
おかげで薬なしでも普通に過ごせるようになった。
そんなある日、主人の休日の日だったが一本の電話が鳴った。
「はい。もしもし」相手は何も言わない。
「誰から?」と主人が聞いた。
「しゃべらないからわからないけど、アナウンスの声が聴こえる。空港みたい。」
「貸して。」と主人が言い、電話を替わった。
「もしもし、約束が違うじゃねぇかよ。」主人がすごんだ。
「なんだって?そんなの知るかよ。おまえなんてアメリカへでもどこへでも行っちまえ!」
それだけ言うと、私に受話器を渡した。
「もしもし?」私が言うと震えた声で「さよなら」と言って電話は切れたのだった。
主人が「なんて言ってた?」と聞いたので「一言『さよなら』って言って切れたよ。」と私が言った。
「これでようやく悪い虫は追っ払うことが出来た。」主人は独り言を言った。
それから間もなく、A社の後輩だった大野さんから「前田さんの営業部、部署ごとアメリカに異動になりましたよ。」と聞いた。
大野さんは社内結婚したので途中から前田さんの部署に異動になっていたのだった。
今は妊娠・出産し、会社を辞めている。
あの電話は前田さんからだったのだと確信した。
その日からしばらくは平穏な日々が続いた。
そして私は念願だった妊娠をした。
予定日の1か月前まではパートの仕事を続け、出産のために仕事を辞めることになった。
幻の夜から1年が経っていた。
あれは私の妄想だったのかもしれない。
聞いた声も幻聴だったのかもしれないと思うようになっていた。
しかし私はまだ知らなかった。
出産育児で再び体調を崩すことを・・。
子育てで再び昼夜が逆転して病気を再発することになることを・・。
その年の12月、私は男の子を産んだ。
その時が幸せの絶頂期だった。
出産してから1か月は実家に戻って養生した。
赤ちゃんの世話に専念し、食事などは母に作ってもらっていた。
しかし、幸せの時は長くは続かなかった。
前田さんはアメリカから帰国した。
そして再びストーキングが始まるのだった。
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