第13話招待状配りでニアミスと気を失いかけて・・。
その日私は結婚式の招待状配りをするため、A社の玄関先に来ていた。
そこでは、同僚の女性2人が待っていてくれているはずだった。
「来てるんでしょ。会わせてよ。」
「だめだって。私たちに会いに来てるんだから・・。」
エレベーターのところでもめていたようだったが、成岡さんと中山さんが来てくれた。
「お待たせ。じゃあ食事に行こうか。」と中山さんが言ったのでそのままお店に移動することになった。
お店につくと、成岡さんが「恵美子ちゃん久しぶりだね。」と言って席に着いた。
「実はね・・松川さん結婚するんだって。」
2人は顔を見合わせて合図するように言った。
私はテーブルに突っ伏しそうになった。
「どんな人?」
「どんなって清楚な人よ。アシスタントの人。」
成岡さんが動揺しながら言った。
私の様子が変だったからだ。
私は気を失いかけた。
それに気づいて動揺したのだった。
「まだ、調子が悪くなることがあるの?」
「そんなことはないはずなんだけど・・。」
「大阪に転勤になるって聞いたけど・・。」
「そういえば、そういう話もあったわね。立ち消えになったみたいだけど。」
私自身、自分が気を失いかけたのに驚いていた。
松川さんのことは過去の事なのに、なぜかとてもショックだった。
「私も結婚することになったの。これ、招待状なの。受け取って。」
2人に渡すと、平常に戻った。
「でも、あっち(の人)はまだなんだよね。」
「いつも男同士2人でいたから、てっきり同性愛者なんじゃないかなんて言われてたんだよね。」
中山さんが言った。
それからは、普通に楽しくおしゃべりをして食事をした。
気を失いかけたこともいつしか忘れていた。
けれども2人と駅で別れたとき、携帯でどこかに電話をかけていた。
私の病気がまだ治っていないと2人とも気づいたようだった。
私は、過去の人たちのことは忘れていると思っていたのだが、発作が起きて心が晴れなかった。
でも、私だって工藤さんと結婚する。
もう関係ないんだと自分に言い聞かせて家路についた。
招待客のほとんどは親戚を除けば、A社の女の子たちだった。
私は横浜の支社にも行って直接招待状を渡すことにした。
その頃は都内の新居に引っ越しており、そこから横浜まで電車を乗り継いでいった。
支社について一緒にランチを取り、招待状を配った。
そして、支社の4階に上がって上司の人たちにも挨拶して回った。
すると私と仲の良かった上司の一人がつぶやいた。
「途中で気が変わったりしねぇだろうな。やっかいだぞ、結婚してからだと。」
私は何のことだかわからなかった。
しかし、そこに前田さんが隠れていたのだった。
私に対面しないようにフロアを変えて尾行していたようだ。
「高田さん、2階の岩山さんのところへも行ってきたらどうですか?」
「そうだね。あいさつしてくる。」
私はエレベーターに乗って2階に下りて行った。
すると廊下で前田さんの声がした。
「嫌だ嫌だ。」
「嫌だって言ったってしょうがないでしょう。」
「私、あんなかわいそうな人見たことない。笑って送ってあげなさいよ。やっと幸せになれるんだから・・。」
前田さんの元先輩の女性がたしなめていた。
岩山さんに会っている間に内線電話がかかってきた。
「うん。間違いないよ。立派な指輪もつけてるよ。嘘や冗談で買える指輪じゃないぞ。」と言っていた。
「4階に帰った方がいいよ。」と言われたので、私は再び同僚たちのフロアに戻った。
そして、一通りやることは終わったので挨拶をして帰っていった。
帰りのバスに乗っていた時、私が乗った次のバス停に車を止めて電話をかけている前田さんを見かけた。
不思議と前田さんに対しては何の感情も湧かなかった。
私は私を追いかけていることにもその時には気づいていなかった。
フラッシュバックであれほど前田さんのことを思い出していたのに、今は記憶が曖昧になっていた。
潜在意識の中で前田さんのことは封印するようになっていたのかもしれない。
そして、結婚式の日には、アシスタントの女性を伴って松川さんと前田さんが見学者として現れたのだった。
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