第4話異動先まで追いかけてくる彼。そして急接近・・

「専属のアシスタントとの結婚話が出ているんですよ。彼女の父親に気に入られてしまって困っています。」

前田さんはこんなことを言ってきた。

「残業をするかわりに、送っていってただけだったのに・・。」

「相談に乗ってもらえませんか?」

私は「断ること出来ないの?私が相談に乗ることなんてないよ。」と言った。

すると私と組んでいる営業マンの高城さんが「高田さん、ちょっと。」と呼び止めた。

高城さんはオフィスの隅に私を連れて行くと「あいつはやめておけ。いつも女をとっかえひっかえしていて、社員寮にまで連れ込んでいて評判の悪い奴だ。君の相手になる人物じゃない。」と言った。

「そんなに悪い人なの?わかった。」私はそういうと席に戻った。

高城さんは前田さんに「仕事しろ。」と言って追い払った。

私は前田さんとのことを全く覚えていなかったので、一人の後輩として初めて出会う人のように扱っていた。

あの夜のことは記憶から消え去っていた。

前田さんの方は、私がとぼけていると思っていたようだ。

そうこうするうちに、不況のせいか本社移転の話が持ち上がった。

私は仕事が忙しすぎてうんざりしていたこともあり、移転を機に横浜の支社への転属願を出した。

そして、前田さんの前から姿を消したのだ。


支社では、プロジェクトのリーダーを任せられてまた別の忙しさの中にいた。

その頃の私は会社でのストレスを買い物で発散していた。

自分を着せ替え人形のようにして、オフィスに来ていく服を買い漁っていた。

そして、年に1度か2度は海外旅行に行きストレスを発散していた。

貯めていたお金はみるみる減っていったが、家から出ることを禁じられているので気にしなかった。

会社のストレスで人間不信になり、いつも一人で行動していた。

女の子たちとは仲良くやっていたが、男の人と付き合うことはなかった。


そんな時、前田さんが横浜に異動してきたのだ。

大竹君から私が横浜に移ったことを知った前田さんは、上司に掛け合って横浜に異動できるように取り計らってもらっていた。

私は、横浜に来た前田さんを見たとき、初めて会う人だと思った。

「あの人だれ?」と後輩の女性社員に聞いた。

彼女は「前田さんですよ。高田さんは知っているはずだと言っていましたよ。」と言った。

私の中では前田さんは潜在的に危険人物として認識されていたようで、記憶から消えるようになっていたのだ。

そんな時、仕事帰りにバス停でバスを待っていると、前田さんと二人の女性が歩いているのを見かけた。

そのまま女性の車に乗り、どこかへ出かけて行った。


翌日、私が後輩の女性である大野さんに「昨日前田さんを見たよ。女の子と一緒だった。」と言った。

すると大野さんは「あーあ。高田さんに見られちゃったんですね。」と言い

「高田さんを交えて飲み会がしたい。高田さんを誘え。としつこかったんですよ。」

「これで、うまくいかなくなりますねぇ。」

その後、前田さんは自分の部署の女の子に誰が私に女の子と一緒にいることを告げ口したのかしつこく聞いていた。

大野さんに「高田さんが見たということは秘密にしているので知らんふりをしてくださいね。」「高田さんが前田さんが女の子と一緒にいたことは知っているということだけは言ってありますから。」と言われた。


そして、そんなことがあった後でも私を交えての飲み会は開催された。

その帰りには前田さんに送ってもらった。

「誰が高田さんに女の子と一緒だったことを言ったのか教えてもらえませんかねぇ。」

「俺はその人にお礼が言いたいんですよ。余計なことをしてくれたってね。」

車で送ってもらう間ずっとそのことを言っていたので私は言った。

「目撃したのは私だよ。それの何が問題なの?」

「どうしてあんなところにいたんです?」

「あそこの向かい側にバス停があるの。」

「そうですか・・。ばれちゃ仕方ないな。」

「私はあなたの何でもない。あなたがどこで誰と何をしようが自由じゃない?」

「それはそうなんですけど・・。そんなこと言うんですか?」

「俺といるとなんか危険な雰囲気がしてきませんか?」

突然、前田さんは話題を変えた。

「もうこんなことやめましょうよ。いつまでとぼけるんですか!」

「今度は怒りだすの?送るのが嫌なら適当なところで降ろしてくれれば、電車で帰るよ。」

「そういうことじゃありません。どうしてこうなっちゃうのかなぁ。」

「俺の印象ってずいぶん薄いんですね。ふつうはすぐに皆覚えてくれますよ。」

「そうだろうね。かっこいいものね。」

「それは認めてくれるんですね。」

前田さんの顔が輝いた。

こうして何もないまま家についた。

「ここです。」と私が言うと「教えてくれちゃいました。」と前田さんが言った。

こうして、前田さんは私の親しい同僚となったのだった。

前田さんにしてみれば、出会いの時にほんの少し脅したことがそれほどの事とは思っていなかったのかもしれない。

しかし、私には子供のころからのストレスとフラッシュバックという持病があった。

脅しはそのトリガーとなり、私の潜在意識の中で何だか危険な人物として近づかないようになっていたのだと思う。

現に私は後に好きな人が出来るが前田さんではない。

そして、その人もまた前田さんと繋がっているのだった。


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