第5話 カタルと修道女エレナ
例えるなら。
部屋でえっちな動画を見て励んでいたら背後に母親が立ってたみたいな。
それくらいの絶望感。
「あ……いや……」
めっきり一人きりだと思って全力でやってたキチゲ解☆放。
それを見られた。
気まずい。
なにか……なにか話さなければ。
でも、何を?
目の前の修道女。
紺のブーケ。
紺のローブ。
胸の前で、十字架の首飾りをギュッと両手で握っている。
うん、どこからどう見ても修道女。
しかし……この修道女。
か、か、かっ……!
かわいい…………!
ブーケの下から覗くのは、くりんとした│
ぷくっとふくれた白い頬には、ほんのりとしたピンク色がさしている。
「な、なんですか……人の顔をジッと見て……!」
微かに震えながら、修道女は気丈に言い放つ。
垂れた細眉が「キッ!」となって少しだけつり上がってるのもまた可愛らしい。
なんか。
アライグマが威嚇してるみたいな。
そんな感じ。
推定身長百五十二センチ。
小柄で色白でやらかそう。
小動物系。
金髪碧眼の美少女。
もし日本に移住してユーチューバーやってたら全動画三桁万再生されてそう。
そんな感じの子。
「な、なに黙ってるんですか……? 無礼ですよ……!」
修道女の震え声が響く。
と同時に、オレは自分の置かれた立場を思い出していた。
(そうだ……オレは皆に恐れられてる鬼畜カタルなんだ……)
きっと、この修道女もオレのことを怖がっているはず。
あまつさえこの子は「キチゲ解☆放」というオレの異常行動を目にしてしまったんだ。
おまけに、ここは悪名高きカタルの秘密の部屋。
もし、仮にここで彼女になにかがあったとしても……。
「じゅるり……」
「ひっ──! な、なんなんですかっ!」
あっ、やべっ、思わず舌なめずりしてしまった。
修道女は真っ青に青ざめている。
(あっ、いや……カタルなら今の感じで正解なのか?)
鬼畜のカタル。
飛んで火にいる美少女修道女をただで帰すような男ではないんじゃないか?
う~ん、じゃあちょっと、このキャラで押してみるとするか。
「さて、と……」
ザッ……。
修道女に一歩詰め寄る。
「ヒィ……!」
修道女は後退ると、いつでも逃げられるように扉に手をかけた。
いやいや、意味ありげに「さて、と……」なんて言ったはいいものの、これから一体どうすればいいんだ?
というか、そもそも……。
この修道女、誰?
カタルとどういう関係?
なにしにここに来たの?
鬼畜貴族の館の裏庭にある秘密の部屋に勝手に入ってくるってことは……。
もしかしてこの子、カタルとかなり親しい?
だとしたらマズいぞ……。
オレがカタルでないことがバレてしまう。
そうなってしまったらオレは……。
【イメージ図】
カタルを
うわぁぁぁぁぁ、イヤすぎる!
ここがどんな世界か知らんけど、こんな極悪人の中身が趣味ソシャゲ周回な平凡な日本人とバレたら終わりやん!
なんとか……なんとかして誤魔化さないと……!
「んんっ……!」
軽く喉を鳴らす。
修道女を見据える。
彼女は、扉の外に一歩足を踏み出してる。
カタルは──極悪人で鬼畜。
なら、それを演じてやろう。
完璧に。
パーフェクトに。
さぁ、想像しろ。
鬼畜なら、こんな時どうする?
うん、そうだな……そりゃあもう……。
「誰が勝手に入っていいと言ったぁ!!?」
はい、逆ギレでしょ。
案の定、急に怒鳴りつけられた修道女は石のように固まっている。
ひとまず、こっちのペースに持ち込むんだ。
「おい、何を黙っている!? 貴様、ここを一体どこだと思っているんだ!?」
固まっている修道女の腕を掴み、扉から引き離す。
(え、なにこれ!? やわっ……!)
掴んだ腕のあまりの柔らかさにオレの体に電気が走る。
「す、座れっ!」
一瞬飛んだ意識を引き戻して、修道女を椅子に座らせる。
バタンッ……。
扉を締める。
「ふぅ……」
これで声が外に漏れることはなくなった。
カタルの鬼畜イメージにかけた一か八かの逆ギレ作戦。
どうやら、うまくいったようだ。
さぁ、あとはこの美少女修道女をどう料理するか。
考えろ、考えるんだ。
カタルなら……どうする?
うん、これで行ってみるか……。
ザンッ
オレは偉そうに腕を組むと、半泣き状態で固まったまま座っている修道女の前に立つ。
修道女は、怯えた瞳でこちらを見上げる。
オレは、見下し度百パーセントの態度で言い放った。
「で……なんなんだ、お前は?」
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