閑話休題「オーティス8」




「あぁ!!クソ!どうすりゃいいんだよ!」






 森を駆けながら悪態をつく。実際選ぶ権利なんて無かったのだ。その場で死ぬか、爺さんを追うかなんて。






 死ぬなら死ぬで爺さんの選択の訳を知ってからで遅くはない。


 どうせ死ぬなら爺さんと一緒にってのも悪くはない。








 あの悪魔は爺さんを抹殺してほしいようで飴すらぶら下げてきた。この任務を無事に達成できたらそれなりの地位に引き立ててやるって話だ。




 新しい土地で新しい人たちに囲まれて。孤児を育てるために孤児院を建てたっていい。要は新しい環境で新しい人生を送るのも悪くはないだろうって。








 残念ながらそんなつもりはねぇんだけどな。








「馬車馬にするには馬力を付けすぎたなぁ!」






 ギュッ、と右手に持っている銃剣を力強く握る。改めて聖別をする前と比べ随分と手に馴染む。肌に馴染むといったほうが適切だろうか?




 昔から握っていて体の一部になっているかのような感覚がするし持っていたほうが安心する。肌に吸い付いて離れないような感覚すらあるほどだ。






 八つ当たりで銃剣で木を思いっきり斬りつけるとバキバキ!と木の上半分が吹き飛んでいく。力が強くなった分まだコントロールが覚束ないのだ。




 そう、1回目と比較にならない程に力が強くなっている。身体能力が人間とは隔絶している。






 もう1時間は走っている、それも全力でだ。だが息は軽く上がる程度。


 どんなに訓練した人間、アスリートでも全力であれば数分で息は切れる。






 速度も異常だ。途中で新幹線を見たときに"遅い"と感じてしまった。動体視力もおかしくなっていて集中すれば乗客の読んでいる新聞の文字まで見えたのだ。






 そんな速度で森を走っているのだ、当然途中で木々にぶつかる。


 折れるのは木だけだ。俺は人に肩がぶつかった程度の衝撃なのにも関わらず、だ。




 ネメスト曰く、「もう君はどちらかというと人間じゃないからね?」との事だったがそれも納得だ。












「あぶねぇなぁ!」




 木々の隙間から爪が伸びて切り裂こうと襲い掛かってくる。






「獣かと思ったが……まぁ似たようなもんか?」






「神聖騎士団か、この先には何もないぞ?散歩なら回れ右しな」




「はっ!やっぱ獣には人語は難しかったかぁ!?それじゃこの先には行ってほしくないって白状してるようなもんだ!」




「ほざけ!」






 腰を落とし体制を低くし襲い掛かってく……る…?






「……おい?やる気ないならやめてもいいぞ?」




「奇跡的に防げたのをいい事にハッタリで逃げようとは賢いな!猿!」






 再度、ゆっくりと、こちらに向かってくる吸血鬼。何が狙いか分からない為安易に攻撃を仕掛けるのも不安になり攻撃は控える。








 一合、ニ合、三合。何度か打ち合い息が切れている吸血鬼を見るとより疑念が強くなる。




 いくら俺が強くなったからと言っても今までじゃ目で追うことすらできなかった吸血鬼がここまで遅く見えるものか?






 一部では人により違うやスキルを使う吸血鬼もいると聞く。




 それが攻撃される事によるカウンター系スキルである可能性が高い。






「しゃーねぇか!いくぞ!ヴァガリウス・アルマ!」






 神聖礼装である銃剣"ヴァガリウス・アルマ"の力を開放する。








「ッ!…………クソ猿が!またハッタリか!!舐めるなよ!」






 切りかかってくるが先程よりも更に精彩を欠いている。




 真面目に打ち合うのもめんどくせぇ、距離を取りつつ銃撃で適当にいなす。






「ほらほら!当たるといてぇぞ!」






 バス!と肩口にヒットすると吸血鬼は気を失い倒れる。






「気を失っちまうって事はまさか本当に雑魚だったのか…?」










 聖銃剣"ヴァガリウス・アルマ"




 能力は弱体化だ。周囲に弱体化効果をばら撒き続け、暴露時間が長ければその分だけ弱体化する。




 とはいえ相手が強ければその分だけ時間がかかる。






 斬りつけたり銃弾を打ち込んだりすればその分だけ弱体化する。


 弱体化が最大になると意識を保てなくなる武器だ。








 派手じゃないが燃費はよい。いなしていれば弱体化して簡単に勝てる。面倒くさがり屋の俺にピッタリの武器だ。








 しばらく走っていると短髪と長髪、2人の吸血鬼が槍を構えバツのような形を取り立ちふさがっていた。






「門番気取りか?ホプキンス爺さんについて知ってる事はあるか?」






「答えるつもりはない」「我々は何も知らされていない」






 槍構えた二人は槍で突いてくる。数歩後ろに下がり銃撃をするが弾かれる。






「そのようなもので我々は倒れはしない」「神聖騎士団の弾ではきかない」






「だぁー!同時に喋んな聞き取りづらい!」






 悪態をつきながら弾を込める。俺の武器は神聖力の弾を生成することも出来るし実弾も発射できる物だ。




 先程までの弾は神聖騎士団標準武装弾。俺はそれを更に改造した弾を2種類使う。






「ぐっ!!」「威力が先程と違う…?」






 1つは一般のライフル弾を改造したもの。弾頭は通常仕様と同じ聖銀だが火薬に細工がしてあるため威力や貫通力に長ける"貫通弾"






「隙を見せたな!!」






 弾は短髪吸血鬼の右肩に当たる。




「だが弾さえ摘出してしまえば」「血力は防げん。所詮は人間よ!」




 そう、神聖騎士団の標準弾は弾頭である聖銀が体内に残りヒットした場所から先に血力が行き渡らなくなる仕様だ。




 当然傷口も塞がない。ただ欠点は取り除いてしまうだけで効力を失う。


 吸血鬼と言えども貴族レベルの化物じゃなければ弾痕が治るまでには1日程度かかるとはいえ命がかかっている状況だと腕を動かすためにその場で爪を突き刺し弾を抜く程度の事は当然する。




 グチュ、と嫌な音がし短髪吸血鬼は弾ごと肩の肉を抉る。その隙を埋めるかのように長髪の吸血鬼がこちらを牽制してくる。いい連携だ。






「だがあめぇな!」




 再度貫通弾を発射する。長髪の吸血鬼は弾くが威力に押され体制を崩すと同時に後ろに下がる。




「あ、兄者、弾は取ったんだが腕が動かねぇ…」






 もう1つの改造弾は見た目は通常弾と同じだが弾頭に細工がしてある。




 弾頭内に大量の聖銀粉末が搭載されているのだ。銃弾は体内で破裂し中に入っている粉末がばら撒かれる。当然体内なので大きな血管近くなら血流に運ばれて全身を蝕む。




 そうでないにしても弾を取り除いても血力は使えないままだ。






「ぐ、がぁぁぁあ!!」




 短髪の吸血鬼が悲鳴を上げる。どうやらでかい血管にヒットしたようだ。






 「おい兄ちゃん!よそ見とはつれねぇなぁ!」






 唐突な弟の叫び声に長髪の吸血鬼は思わず振り向いてしまった。




 空を駆ける事ができる程の推進力をもつブーツに神聖力を込め懐に潜り込む。






 先程柄銃撃しかしていなかった印象のせいか長髪吸血鬼は驚き硬直する。






「見てわかるだろ?銃じゃねぇ!銃"剣"だ!」






 相手の右脇腹から左肩に向けて思い切り振り抜く。思ったよりも抵抗がなくすんなりと刃が抜け吸血鬼から大量の血液が噴出する。






「ああぁぁぁあぁぁ!!!!」「あ、兄者ぁ!!」






長髪の吸血鬼が断末魔を上げながらこれ以上出血をしないようにか、自らを両手で抱きしめる。






「せめて安らかに眠りな。」








 貫通弾を込め抑えている腕ごと血臓を撃ち抜く。








「兄者ぁぁ!!!」






 短髪吸血鬼の悲痛な叫び声だけが森を駆け抜けた。

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