閑話休題「オーティス7」
ここはどこだ。寝覚めは良くないが状況が状況のため目覚めると同時に周囲を警戒する。
脳が起きたのか寝る直前のことを思い出す。そうだった、浄化薬を届け、家である教会が燃えていて、爺さんが裏切ったと聞いた。
捕まり聖別を受けることになったんだよなぁ…取調を受けてその後ガスで眠らされたんだった。
「聖別は済んだのか…?」
正直俺は敬虔な信徒ではないと思っている。一般的には聖別の成功率には罪の犯した回数や重さ、信心深さ、徳をどれだけ積んだか等で決まるとされている。
俗説だと信じていなかったが聖別を受けたあとならば神の試練だというのも信じられる。1回受けるだけで明らかに人間に出せる力を超えるのだ。確かに神の加護だ。
だからこそ、俺は聖別をもう一度受けたら間違いなく耐えられないはずだ。信徒としては落第生も良いところだからな。
起き上がり見渡すと今時分が寝ていた簡素なベッドに椅子のみがある小さな部屋だ。
尋問室と同じく真っ黒なガラス板に出入り口は重厚な金属でできている。
ガラス板に触れると尋問室とは違い薄いのか少したわむ感触がある。
頭がまだ寝起きで霞むためガラスに頭を軽く打ち付けて目を覚ます。
バリン!!
大きなヒビが入ると同時にサイレンがなる!!
「やっべぇ!やっちまった!!」
部屋の端を見るとカメラがこちらを見つめている為抵抗する意志がないことを示すため両手を上げる。
暫くするとカメラの主は映像を確認したのか警報が鳴り止む。
『……君は何をしているのかな?』
ネメストの声だ。呆れたような声がするが少し喜色が混ざっているような気がした。
「あーー……いや、その、わりぃ!まさか割れるとは思わなくってよ…?ちょっと目覚まししようとしただけなんだよ!」
スピーカーからネメストの機嫌が良さそうな笑い声が響く。
『いいね!なかなか斬新な目覚め方だ!!僕も明日から真似しようかな?』
「あんま勧めねぇぞ?可愛い顔に傷が付いても責任取れねぇからなぁ」
『ふふふ……今後について説明に伺いますね?ちょっとまっててください』
「灰皿頼むぜ?」
もちろんですよ、とブツッとスピーカーが切れた音がする。今後についてか、少し不穏な気がする。
………そういえばガラスの損害賠償とか言われたら払えねぇぞ?教会が燃えちまったから無一文だしなぁ…
外から何かを擦る音が聞こえ続いてピピッと電子音が聞こえる。カードロック式なのだろうか?ガラスが割れたせいで防音性が落ちているのか室外の音もよく聞こえる。
「やぁ、オーティス君。お目覚めの気分はどうだい?」
ネメストは椅子に座り灰皿を俺の座っているベッドの横に置く。不用心だと思ったが机がないため仕方がないので何も言わずに煙草に火をつける。
「最悪…と言いたいが不思議と悪い気分じゃねぇんだよな」
「そりゃそうだ、私のような美少女に起こしてもらっているですからね?」
剽軽な身振りでこちらを覗き込む。
正直顔は悪くない。いや、一般的に言えば間違いなく端正な顔立ちだろう。だが不健康そうな肌の色や目の隈のせいで暗い印象も覚える。そしてなにより…
「あぁ、あと10年もすりゃ俺好みの美少女だろうよ」
「あぁ、10年、ね……それは残念ですね」
「いや、今でも十分綺麗な顔してると思うぜ?」
なんとなく。何となく気まずい雰囲気が流れる。ネメストは深く煙草を吸い込むと喋りだす。
「まぁ、歳なんて関係って人もいますしね?
さて、今後ですが……もうよろしいですか?」
覚悟はいいかって事だろう。覚悟もなにも何を言われるか分からないものにどうしようもないため素直に、軽く頷く。
「では、まずはホプキンスの逃亡先が分かりました。
時間はかかってしまいましたが、ようやく進展ですね。
現在地は仮の拠点で準備が終わり次第再度目的地まで移動を行う模様。最終目的地は複数ヶ所予想がありましがどれも大規模な吸血鬼の拠点となる可能性が大。
我々としては見失うリスクなどを鑑みて現在地での捕縛、抹消を行う予定です」
時間がかかった、だと?
「…まて、待ってくれ。俺はどの程度の寝ていたんだ?」
「そういえばお伝えしていませんでしたね?ざっと4日ほどでしょうか」
4日、寝ていた?
「聖別は無事に成功したんです。むしろ4日で済んだのですから喜ぶべきですよ?」
「聖別に成功したのか!?」
「ええ、敬虔なる信徒であるオーティス様には頭が上がりませんよ。聖別の試練を乗り越えたオーティス様はきっと裏切りなんてしませんよね?」
「…あぁ、もちろんだ」
「ただ上は信じてくれないんですよねぇ、少なくとも証拠がほしい、と。」
「でも僕としては君に生き残って欲しいと思ってですね?
だから上に提案したんです。
ホプキンスの捕縛、抹消任務をこなせたら信じられるって。」
「さて、君はどうしますか?
ここで処断されるか
ホプキンスを捕縛、抹消するか
どちらを選ぶかは聖別に耐えた君にだけ与えられた唯一の権利、ですよ?」
ネメストは膝に肘をつき、手の甲に顎を乗せニッコリと、可愛らしく微笑んだ。
まるで悪魔のように。
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