閑話休題「オーティス6」






「はぁ……進展はなさそうで…ん?ちょっと待っててくださいね?」




 ネメストは扉から出ていってしまう。




 それにしてもアイツは何もんだ?研究者の格好をしていてネームプレートにも主任だと書いてあるが戦闘部隊である俺が、神聖騎士団の司祭である俺が間違いなく勝てない戦力。




 研究者に必要な力か?










 教会が燃えている中で吸血鬼に会ったことは言わないほうが良いだろうか?その情報は俺しか知らないはずだが話す事によってどの程度の影響を及ぼすか分からない為安易に話せない。






 現状俺だけが持っている唯一の情報だ。










 煙草が数本吸い終わる程の時間が立って、先程の女性、ネメストがまた入ってくると同時に何かを投げてよこした。






「ありがとうございました。返しますよ……怖がらせちゃったお詫びも込みなので遠慮なく」




 煙草だ。但しカートン(10箱)で帰ってきた。






「サンキューな………どんだけこの部屋にいさせる気だよ…」






「残念だけど私との逢瀬は終了だよ。この後についてはまた追って伝えるから待っていてくださいね」






「あいよ。カートン吸い尽くす前には頼むぜ?」






「そこまではかからないでしょうね。まぁ話せる人間だったので楽しかったですよ。まともな処遇であることを私も祈ってます、それでは」






 マジに煙草だけ渡しに来たのかアイツ…










『オーティス、処遇が決まった。聖別を受け罪があれば死。力を授かる事ができれば罪の可能性は低いと見なす』






 は?聖別だと?俺はまだここ最近受けたばかりだぞ!


 複数回の聖別の生存率は著しく低いと聞いたことがある。失敗すれば処分でき成功すればいい戦力として使えるって事か。






 やはり何かしら隙をみて逃げ出すべきか…?武器は没収されているためそれを置いていくのは惜しいが背に腹は替えられん。






 立ち上がりおそらく裏からは見えているであろう黒いガラスに触れ押し込むがまったくたわまない。おそらく分厚い強化ガラスで出来ているのだろう。椅子を持ち上げ打ち付けても確実に壊せず傷一つつかないだろう。




 扉に触れるが金属の冷たさが手を冷やす。長時間触れても冷たいままである事を考えると熱の伝導率が低くなくなおかつ分厚いことが予想できる。




 それに二重扉になっているため一つ壊しても意味がなく取り押されられることが容易に想像がつく。








 無駄に暴れて心証を下げるのは辞めておこう。それにネメストがいる。武器も無しに逃げ切れる相手ではないだろう。






 諦めて座り煙草に火を付け大きく吸い込むと途端に眠気が襲ってくる。






「……ガスか……」




 気づいたときにはもう遅く意識が遠のいていく。
















────────








「ネメスト様、対象は沈黙しました」






「うーん。多分大丈夫でしょうがもう少し吸わせましょうか、彼ならば狸寝入りもしかねません」








「ですがあまり吸わせると…」






「大丈夫、彼はあれでも聖別を1回しているのですから。耐えますよ




……それよりも聖別の準備は出来ていますか?」






 ネメストは周囲を一瞥するが目があった研究員はビクッとし目をそらす。担当であろう人物が前に出て準備進捗を報告する。






「は!ほぼ完了しております。後は被検体を台に拘束し、その……ネメスト様がご協力頂ければ完了いたします!」






 不要な気を使われていることに気付いたのかネメストは溜息をつきながら返答する。






「はぁ…別にいいよ、気にしなくても。




そういえばさ、2回分まとめて入れられるかな?」






「に、2回分まとめてですか!?」






 研究員は余りの驚きに書類を落とす。






「そ、2回分まとめて!出来なくは無いですよね?」






「いえ、もちろん出来はします。ですが成功するとは……よろしいのですか…?」






「きっと耐えてくれるよ。僕には分かるんだ」






 その一言が発端となり研究員達は慌ただしく動き出す。ガスは排気されオーティスは担がれていく。






「彼は強くなれるかなぁ…?」














─────────────────






 意識が朦朧としボンヤリとする。瞼は開いているのだろうが焦点が合わず大きな光の輪が見えるだけだ。




 何か大きな器具を取り出しそこには青い液体のような物が見える、注射器のように見えるが見たことのない形状だ






 ブツリ、ブツリ、ブツリと身体に刃物が入る感覚がする。




 なぜだか痛みは感じず、刃物の冷たさが皮膚を犯し内部に侵入する感触が残る。




 注射器のような物の中から液体を掬い切った場所に零していく。




 ミントを口に含んだかのような清涼感が体内に入り込み、血管を駆け巡って行く。




 気付いていなかったが身体が火照っていたのか気持ちがいい。




 猛暑にキンキンに冷えた麦茶を飲んだときのように身体が冷たい物に迎合していくのがわかる。温度が低いのか通り過ぎたあとは少しキリキリと痛む感覚すらある。




 幾度と繰り返され全身に清涼感が巡らされた時には夢見心地と言っても過言ではない。考えるのが嫌になるほどの全能感に酔っている。






 無機質な金属音が聞こえ視界を取り戻す。先程よりも視界がクリアになっている。




 クリアになった視界で見えたものはペットボトル程もある大きな注射器であった。






 ゾブリ、と皮膚に食い込み注射をされると先程のような清涼感があり最後にキリキリと軽い痛みが……








 「 が、 ぁ ぁ あ  あぁぁぁぁぁ!!!!!!」










 「あ"ぁあ!!あ""ぁぁあがあ!!ぁあ!!あ""!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る