閑話休題「オーティス5」






 ポケットの中を漁ると驚いた事に中を検められていなかった。




「おいおい、不用心だな」




 武器などを隠し持っていたらどうするのだろうか。いや、それでも問題ないほどの備えと戦力があるのだろう。




 シュ、と100えんライターの着火音が響く。


 




『いや、普通にリラックスしている所申し訳ないのですがここは禁煙ですよ?』




 一瞬ノイズが流れるとスピーカーから男とも女ともとれない中性的な声が注意してくる。






「あぁ!すまんすまん!灰皿くれねぇか!?」






『はぁ…まぁ掃除するよりかマシかぁ…』






 ガチャと扉が開く。外をちらりと盗み見るが2重扉となっているためこの隙に外に出る事はできない。


 であれば、ここは申し訳ないが灰皿届けに来た人間を人質に取り……




「はい、灰皿ですよ。……1本もらえますか?」




 中に入ってきたのは白髪のおかっぱ頭の、これまた男女の区別が付け難い人間だった。身長も小さく少年少女にしか見えないが白衣についているネームプレートに主任と書いてあるからには成人済みだろう。




 少し不気味な雰囲気は感じるが強そうには見えない。それに一般スタッフではなく主任クラス、ちょうどいい






「んー。やめといたほうがいいですよ、あんまり賢い選択とは言えないですねぇ」




 手渡した煙草に火を付けながらことなげに見透かされる。




「……わざわざ囚人と同じ部屋で吸うのは理由があるってか…?」






「いやいや。深い意味はありませんよ!ただ、ここは施設内すべて禁煙でしてね。囚人が勝手に吸ったことにしてしまえばバレないってわけですよ!」




 どこまで本当か分からないのだが、所作を見る限り普段から煙草を吸っている人間だとは分かる。




 






 それにしてもこんな見た目なのにやけに肌が青白い。目の下の隈も目立つしやっぱ研究職はブラックなのだろうか…?






「これは生まれつきですよ。……まぁブラックなのは否定しませんけどね?




それと!僕はこう見えても女性なので悪しからず!!」






「……そうか、お嬢ちゃん。そりゃ悪かったな」






「成人済みなので!




……後で新しい箱で返すのでもう一本いいですか?」




「数本が新品になるなら文句はねぇや!好きに吸ってくれ」




 煙草の箱の上にライターをのせ机の中心に置く。入り口付近に立っていた女性は対面するように机の向かいに座りもう一本火をつける。






「いやー、悪いね!それじゃせっかくだしこのまま尋問失礼するよ」






 見た目に似合わず喋り方は年上のように感じる。それに先程から心を読まれているような事が多い。わざわざ雑談の段階でそれを見せるということは隠したくても無駄だと示しているのだろうか。






「お手柔らかに頼むぜ…?」




 現状ではあまりにも情報がなく何がヤバイのか分からない為迂闊に何かを喋る訳にはいかないが、本当に何も知らない。


 






「同じ銘柄を吸っているよしみだ、素直に答えてくれたら無事に帰すと約束をしますよ」






 そういうと煙を大きく吐きこちらに改めて向き直す。




「では。本日拷問……おっと。尋問を担当するネメストと申します。


短い付き合いになるかはあなた次第ですがどうぞよろしくお願いします」






 暗に黙っていたら永遠に帰さないということだろう。




「帰りを待っている家族がいるんだ、手短にお願いしたいんだがな…?」




「またまた!ご冗談を!ではでは、オーティスさんをお送りしますのでその"御家族"の場所をお聞きしても?」




 教会……のはずだった。安否すら不明だ。




「てっきりお前さんらと駆け落ちでも夜逃げてもしたのかと思ったぜ。」






「そうですね、添い遂げる約束のはずでしたが何故か居なくなってしまったんですよ。唆した蛇はどちらかご存じですか?」






 唆した蛇?誰かが唆したって所までは調べがついてんのか?だが返答は1つ






「残念。俺は知らないぜ」






「…嘘………ではないですね」




 目を細めこちらを伺っている。まさかとは思うがこの程度の話でわかるのか…?




「…ふぅ。君の目的はなんですか?何故わざわざ教会に戻ってきたのですか?」






「目的?そんなもんねぇよ。こっちだって戸惑ってんだ!強いて言えばそうだな、今は爺さんを問い詰めてぇよ」






「ふむ、なるほど」






 手に持っているメモ帳らしきものに何かを書き込んでいる。正直優秀な尋問官で助かった。無能であれば隠していると断定されて何も言っても許されず下手をすれば拷問行きだっただろう。






「調べた…という程のものではありませんが貴方はホプキンスさんに拾われたのは孤児ですよね?


その貴方が今回関与していないと?全く何も知らないと?」






「まぁそりゃ疑うよな?俺も自分を疑ってみたは良いが何も知らねぇもんは知らねぇんだよ!こっちが一番困惑してんだ!」






「もらいますよ?」




 煙草に手を伸ばしまた吸う。そんなに吸うならもう取ってきたらいいのにな。






「はぁ……あんまり手がかりは無さそうですねぇ…」






「そりゃ悪かったな、難儀してんのか?俺はてっきりあんた方と爺さんが駆け落ちしたのかと思ったぜ?


爺さんにゃ幼女趣味はやめとけって説教しきゃいけな……い…








目の前の少女?の目つきが鋭くなっていく。








「おい!!尋問中だ!!遊びでやってんじゃねぇんだぞクソ餓鬼が!あぁ??」






 


 ダン!と机をボールペンが穿いている。暴力があること前提なのか石作の机だ。そのため決して安物のボールペンなんかじゃ穿くなんてできない。聖別されている俺でもできないのだ。






「ふぅーー……すいません。幼女と言われるのが嫌でしてね。以後配慮していただけませんか?」






「あ、あぁ、そりゃすまなかったな。悪いな」






 落ち着いてくれたがキレている時の雰囲気は異質だった。


 まるで青い蛇のような禍々しい何かが身体を這いずる回るような不気味な何かを感じた。なにか生物として絶対的な強者に睨まれたような…




「ついカッなってしまいましてね…怖がらせたなら申し訳ない」






「蛇に睨まれた蛙の気持ちが分かっちまったよ、残念ながらな」






「思ったよりも余裕そうで安心しました。






……あ、ちなみに正しくは蛇に"見込"まれた蛙。ですよ」

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