閑話休題「オーティス4」



「はぁ?おいおい、冗談言うなよ、あの爺さんが…?」




「信じる信じないではありません、事実です。それに協会にいた方々も全員裏切ったようですね。探しても建物内にはいませんのでご安心ください」






 周囲を見渡すが確かに教会の人間は誰もいない。火事で全員逃げ遅れることはありえないだろうし、俺が助けに入ったときも誰もいなかった。




 


「オーティス様、我々としてはむしろ何故あなたがここにいるか不思議でならないのですよ」






「……だろうな、同感だよ」






 教会の組織ぐるみでの犯行。じゃあなぜ俺は何も知らなかったんだ?




 目の前の男の疑う視線が刺さる。そりゃそうだろうよ、俺だってこの状況じゃ疑うさ。




 だが本当に何も知らない。知らないと言って通じるような楽な奴らじゃない




「一応言っとくが何も知らねぇぞ?」






「…………でしょうね。わざわざ水を被ってまで教会の中に探しに行っていました。嘘はつけてもあの表情はなかなか出ない」




 思っていた反応と違った、嘘をつくな!と問答無用で拘束されるとばかり思っていたのだが…






「戻ってくる必要もないでしょうし、何より私の顔を見てすぐに逃げさなかった」






「じゃあ俺の疑いは晴れたって訳だな?」






「ここまでが演技じゃなければですがね?」




 俳優目指してるつもりはねぇんだ、それはない。




「俺がそんな器用に見えるか?」






 爺さんがどういうつもりで裏切ったのか気になる。そもそも本当に裏切ったのか?俺の前じゃ経験な信徒といった好々爺だった。騙すとか詐欺をするとかそういう人間じゃなかった。




 ……騙されることは多かったが




 突然現れた目の前の男と幼い頃からの長い付き合いの爺さん。どちらを信じるかは明白だ。真実を知るためにここで捕まるわけにはいかない。






「見えません、が。内通のリスクは減らせと上の命令でね?」




 男は服の内側に手を入れる。チャリ…と金属音がする。武器だろう。




 こちらも対抗するために銃剣をケースから出し握る。




「なるほど。力で従わせるには少々骨が折れそうですね?」




 男が右手をあげるとどこからともなく2人の部下らしき人間が無音で出てくる。3体1ってわけか、クソっ!






 服から取り出したのは…メモ帳?






「ふむ……あぁ、オーティスくん。そこの花屋の娘と随分と仲がいいみたいだね?


それに…2つ道を挟んだ赤い屋根のお家の娘ともよろしくやってるようだね?モテるんだな〜!




…んん?2番目の子は少し背信的な発言があったみたいだね?




普段ならこんな片田舎のちょっとした発言はバレないけど僕がここに長期滞在するならちょっと見逃せないねぇ??


心苦しいけど僕にも立場ってものがあるしねぇ…?」








「…わかった、わかったよ!降参だ!大人しく従うから」










 俺が逃げたりしたら捜索で滞在しなければいけない、つまり殺すって事だ。ただの脅しじゃねぇか!


 少なくとも俺に選択肢はないようだった、大人しく従う事にした。




 男が手を下げると部下はまた闇に溶けるようにして消えていった。






「武器はこっちで預かりますよ。安心してください、丁重にお運びしますよ」






「ありがとよ、…ちなみに俺はさっきまでの口調のほうが好きだぜ?」






「これはこれは…僕まで口説こうとしてます?男色の気もあると…?」




 やめてくれと首を振りながら大人しく拘束される。








 手足はもちろん目隠しまでさせられ車に乗せられる。








「どこに連れて行くつもりだ?」




「お答え出来ません」






 わざわざ目隠しまでするんだ。まぁ教えてくれないよな






「このあと俺はどうなるんだ?」




「私共だと分かりませんが…まぁ、身の潔白が証明できれば開放されるんじゃないですかね?」






 ボソッと知らないけどね、と余計な一言が聞こえてきた。






「おーーい、なんか飲みもんねぇかぁ?」




「……一応貴方はいま捕虜と同じ扱いなんですけどねぇ?




 とはいえ倒れられても嫌ですし」






 腹部に軽い衝撃が走る。ヒンヤリとした感覚があるためおそらく飲み物だろう。






「……………おい?見ての通りまったく動けないんだか?」






 手が縛られているのにどう飲めと?それが分かっててわざと嫌がらせしてんのかこいつ?






「チッ……飲ませてやりなさい」




 「ッ!?」




 急にスッとお腹に乗っていた重量がなくなる。飲み物が取られたのだろう。それよりも驚いたのは隣に人がいたことだ。全く気配を感じなかった。




「サンキューな…」




 返答はない。完全に部下として仕事を全うするのみってか?さっきも思ったが本当に道具みたいな奴だ。






 縛られた手足が痺れてきた頃、到着を知らせる声に起こされた。




 視界が塞がれている状態だったしできることも無く気がつくとうつらうつらと船を漕いでいたのだ。


 扉が開くと歩かされるが体に日光の暖かさを感じる為夜が明けるほどの時間車にいたのだろう。






 「ここからは聴覚も遮断します。音楽鑑賞をお楽しみください」




 軽口を言う前にヘッドホンを被せられると同時にまた椅子に座らせられた。






 グッと体にGがかかる。視覚聴覚がない人間を動かすのは想像よりも大変な手間がかかる。人はいくら安全だと分かっていても目が見えないと足が竦みなかなか前に進めないものだ、どこかも分からない場所ではなおさら、だ。






 故に"運送"するのであれば台車なり車椅子などに座らせた方が早いのだろう。明らかに手慣れている。




 「それにあれか?俺は多分できねぇが歩数で構造を覚えられるのが嫌なのか?」






 返答はない。いや、あったとしても聞こえないから分からないのだが。




 音楽鑑賞なんて小洒落た言い方をしていたが実際はホワイトノイズが大音量で流れているだけだ、うざったい。






 しばらくする無造作にヘッドホンを取られ立つように促される。




 何かを言っているが先程までの大音量のせいで聞き取りにくい。




 どうしていいかわからずに立ち尽くしていると蹴飛ばされその拍子に目隠しが取れる。






 真四角の白い部屋に長机と椅子が2つ。壁にはこちらからは見えないがおそらくマジックミラーになっているであろうガラスがはめ込まれている。




 入ってきた扉は金庫を彷彿とさせるような頑丈そうな金属製の扉がピッタリとしまっている。




 尋問室ってところだろう

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