閑話休題「オーティス3」






 俺は面倒な事が心底嫌いだ。爺さんは試練だというがやりたくない事はやらないに越した事はない。




 いつだってやりたくない事はやらなければいけない事だ。だから嫌いだ。




 俺は知っている。面倒だからと先送りにすると更に面倒事を友達でも連れてくるような気軽さで引き連れてくる事を。




 嫌いだ。だからこそ面倒事になるかならないかを嗅ぎ分けることが出来ちまう。気付かないほうが幸せなことだってあっただろうな。




 




 信じたくはないが考えればそう難しいことじゃない。神聖教は運営に莫大な資金が必要だ。




 浮かれていたが神聖礼装や空を駆けるブーツ。一部の人間のみに配備されているとはいえ司祭以上の全員に配備しているって事は量産体制が整っているって事だ。






 現代の常識じゃオーパーツも良いところの武装を、だ。




 それに神聖騎士団だってものすごい人数がいる。






 だが会社と違ってビジネスで稼いでいる訳ではない。信心深い信徒は確かに募金などをしているが、彼らにも生活がある。




 資産家の信徒は確かに大きな金額を寄付している。だがそれだけで保てる組織規模だろうか?






 確信したのは子供達とシスターの目だ。今更思い出したが昔爺さんに拾われる前には間近でよく見た、壊れちまった母親が注射器を見るときの目だ。








「あー…シスター。せっかく飲み物用意してくれたのに申し訳ないがシスターも早く浄化薬を飲みたいだろ?邪魔するわけにもいかねぇしそろそろ行くわ」






 シスターは少し恥ずかしそうな顔をしたが外を見て引き止めてきた。






「それはそうですが……外はもう真っ暗ですよ?今晩はこちらに泊まられるのだとばかり……野生動物の目撃例も数件ありますし危険です」






「ははっ、俺は司祭だぜ?動物程度でどうにかなると思うかよ?」






 神聖礼装を入れている大きなカバンから武器をちらっと見せ笑う。




 シスターは引き止めても無駄だと分かったのか見送ってくれた。






 外に出て大きく深呼吸をする。いつだって夜の澄み切った新鮮な空気は変わらずそこにある。ざわついていた心が少し落ち着いたが嫌な予感がベッタリと張り付いて離れない。






「こりゃ最短で帰らないとだな、なんか本気でまずい気がすんな」






 緊急時以外使うなと言われているがブーツを起動し空を駆ける。バスも終わっているため徒歩で行くほかないが地上を歩くと酷く遠回りになるので一直線に上空から向かう。






 まだブーツの扱いには自信がなかったが思いの外動けた。足を踏み出すと見えない空気の足場が生成されていく感じがし踏みしめられるのだ。






「吸血鬼の様に自由自在に飛べる訳じゃないのか、だけど戦うならこっちのが腰に力はいるし実戦向きってことだな」






 熟練者ともなると吸血鬼と変わらない動きと速度を出せると聞いたが俺にはまだ無理だ。だが走れるのであれば問題ない。少なくとも聖別された俺は普通の人間よりも遥かに早く走れる。




 しばらく進むと教会の方の空が赤く染まっている。




 嫌な予感が的中したってわけだ。






「くそっ!遅かったか!」






 ガタン!と今朝強く閉めたトビラが燃え落ちる。






 大きい教会ではないが常に10人程度は常駐していた。まだ間に合うかもしれない。




 近くにある自動販売機で水を数本買い頭からかぶる。幸い扉は焼け落ちているので簡単に建物には入れた。






 教会自体は石作のため延焼による崩落はし難い。






「おい!爺さん!」




 奥に人影が見えた気がして、そちらへ向かう。身体が炎に炙られて熱いが正直覚悟していたほどではない。強化された体に感謝だ。




「…ったく!爺さん!こんなところでボケてんじゃねぇぞ!」






「…やべぇ!見つかったか!」






「なにもんだお前…!」




 放火魔か!書類や浄化薬をなどをカバンに詰めているところを見ると強盗の類か…?




「おい!お前が放火したのか!?」






 こちらを振り切り放火魔は駆けていく。




「おい!あぶねぇぞ!」




 いや、まてよ?よく考えりゃあいつこの炎の中で普通に活動していた。




  人間じゃねぇ!吸血鬼か!!




「待てや放火魔!爺さんをどこやった!!」






「誰か探してんのか!?なら俺を相手にしていて良いのか?人間!」






 悔しいが放火魔の言うとおりだ。放火魔を捕まえた所で爺さんが助かるわけじゃない。優先順位をしっかりと考える局面だろう。






「………放火魔!覚えとけよ!必ずいつか捕まえてやるからな!」






 その後も探したが5分ほどで身体が耐えきれなくなり一度出た。再度水を被り探しに行こう足に力を入れた。






「失礼ですがオーティス様でお間違いないですか?」






「そうだよ!わりぃけど今急いでっから後で……」




 こんな火事の最中に話しかけてくるのはどこの馬鹿だ。顔でも拝んで後で殴ってやろうと振り向くとそこにいたのは神聖教の伝令。それもひと目で地位が使者だと分かるような格好をしていた。




 


「ちっ……なんだよ、手短に頼むぜ。細かいことは後で聞くからよ…」






 男はニコニコと微笑んでいる。家事を目の前にして何が楽しいんだコイツは。




「ありがとうございます。それに内容を聞けばオーティス様もお時間が出来るかと思います」




 イライラする。時間が無いときに迂遠に話を進められると神経に触る。






「おい!時間がねぇって…」










「ホプキンス様が裏切りました」

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