閑話休題「オーティス2」
「お待ちしておりました!司祭様!」
「こんな山奥までお届けにあがりましたよっと!」
浄化薬が入っているカバンを手渡そうとするが突き返されてしまう。
「もしよろしければせっかくここまで来たのですから直接中にいる子供たちに渡してあげてください。きっと子供たちは喜びますよ」
ニッコリと満面の笑みだ。山奥までって言ったのを根に持っているのか…?
まぁ、日が沈み始めた為今晩はここに厄介になろうと思っていたので都合がいい。そのまま泊めてもらう口実ができる。
「そいつぁ名案だ!早速案内してもらってもいいか?」
正面の大きな門ではなく横の一般的な木製の扉を開いてくれる。
中に入ると年季は入っているが掃除の行き届いた綺麗な室内だった。
「お疲れでしょう。取り敢えずは珈琲でも飲んでごゆっくりなさってください。」
「ちょうど少し寒かったんだ。助かる」
春先とはいえまだ日が傾くと寒くなる。シスターに案内されるままに木製の椅子とテーブルに腰を掛ける。
シスターが部屋から出ようとするとドタドタと無遠慮な足音が複数響く。
「シスター!司祭様来たってほんとー!!」
「早くお薬欲しいー!」
5人の子供たちはシスターに群がるように集まっていたが目ざとい子が俺に気づきこちらを指差す。
「いたー!」
「こら!人を指差しちゃ駄目ってこの前教えたでしょ!」
子供たちは注意を適当に聞き流し集まってくる。
「司祭様!」「ねぇねぇ!!」「早くちょうだいよ!」「お薬!あるんでしょ?」
チラリとシスターを見るとやれやれといった様子だが止めてこない。渡してやれということだろうか。
「お、おい!落ち着けガキども!渡すよ!渡してやるって!」
そう言い一人1つ小瓶を渡していく。受け取ると律儀にお礼を言いその場開けて飲んでいく。
「シスター、1本余っちまったけどこれはシスターの分か?」
「あら、私の分まで…ありがとうございます。」
受け取ると流石に目の前で開けたりはせずにポケットにしまっていた。
「ではお飲み物をご用意しますので少々お待ちください」
「お、おい、待ってくれ……!」
バタン、と無情にもおいて行かれていく。
困った事に室内には俺と5人の子供だけ取り残されたのだ。面倒を見るのは当然俺になる。
いや、放置しても良いんだが騒がしく引っ付かれるのは面倒くさい。年齢を勘違いされることはよくあるが俺はまだ嫁も子供も居ないんだ、構ってやるのはいいが俺みたいな大人に影響されちまうのも……
そういえばあれだけ騒がしかったガキ共が随分と静かになっている事に気がつく。
立っている者、椅子に腰を掛けている者、地面に座っている者、それぞれ5人とも体制や向きこそ違うもののぼーっと虚空を眺めている。
眼はトロンとして夢心地のようだ。口も半開きで言葉も発さないほどだった。
「おいおい、ホプキンス爺さんの野郎ついにボケやがって酒でも入れやがったのか……?」
子供が落としたであろう小瓶を広い鼻を近づけるがアルコール臭はもちろん、なんの臭いもしなかった。
「流石に酒じゃねぇか。んじゃ一体なんだってんだよこれはよ」
瓶に僅かに残っていた内容物を1滴舌に乗せる。ほんの僅かだが舌にピリッと苦さを感じ吐き捨てた。
「味もほぼしねぇか……だけどガキ共が好む味でもねぇな」
「お待たせしました……あら。だからお部屋で飲むように言いつけてましたのに……はしたない所をお見せしてお恥ずかしい限りです」
シスターが戻ってきた。コトンと珈琲の入ったマグカップが机に置かれる。
彼女の反応を見る限りガキ共の状態は正常、予想の範囲内って事だ。今回中身が違った訳でもなさそうだな…
「シスター、変なことを聞くがこれはなんだ?」
「…?浄化薬ですよね?」
「……あぁ、すまねぇ。実は最近司祭になったばかりでな。浄化薬持ってきたのは良いんだがどんな効果があるか知らねぇんだ」
シスターは少し考え込むような動きをし困ったような笑顔でこちらを見ている。
「……お試しにしなられていらっしゃるのでしょうか?私共は浄化薬を飲む様にとしか……
教会の仰る事をそのまま答えることにしかなりませんが…」
構わないと返すと語り始めた。
「よろしいのですか……?では。
浄化薬は体内に日々蓄積していく毒素や悪しき心を女神様の力で浄化し、心身ともに健康を保つための授かりものです。
どのように気をつけて生きていても必ず毒は溜まっていくもの。女神様の元に参る際はなるべく清い身体でいる必要があるため日々から少しづつ浄化をする必要があると……
私達は教会のご厚意で浄化薬を定期的に恵んで頂いてますけど浄化薬の為に安くはない寄付をさせて頂いている人も多いと聞きます。信心深ければ深いほどより浄化効果のある薬を授かれるとか……」
俺は一度も飲んだことは無いしそんなものの存在を知らなかった。ホプキンス爺さんに拾われたのはガキの頃だったが何十年も一緒にいて存在すら気づかないわけがない。
「あ、この子達はいま浄化中で癒やされている所ですよね、私も今晩は女神様のお力で癒やされることを考えると楽しみで仕方ないです!」
そう語るシスターの目は今も虚空を見つめる子供たちと同じ目をしていた。
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