閑話休題「オーティス」




「オーティス!また寝坊か!」




 ひと目で分かる頑固爺といった風貌をした男に起こされる。




「あぁ…?ああ、分かってるよ。朝ね、はいはい。起きますよって…」




 朝からオッサンの顔を見ながら叩き起こされる、最悪だ。せっかくなら美女のキスで目覚めてみたいもんだぜ、ったくよ






「オーティス…!!お前また女の事ばかり考えておるんじゃろうが!」




 流石親代わり。鋭い






「禁欲をしろとは言っとらん!だが女"遊び"は教義に反していると何度言えば理解できるんじゃ!!そもそもお前は……」




 クドクドとお説教が始まった。こうなるとなかなか長いんだよなぁ……だが付き合いが長いのはこちらも同じ、対処法だってある!




「おいおい、ホプキンス爺さん!次の任務に間に合わなくなるだろうが!」




 幅広なロングソード、剣元には銃口がついた銃剣を片手に取る。聖別された記念に渡されたものだ。




「おお、確かにそうだな。弾薬は持ったか!武器は!装備は万全だろうな!」




 昔からそうだ、必要以上に装備の充実を求めてくる。




「そもそもだけどよ、そんなに大事か?今回は大したこと無いだろうが」




 ホプキンス爺さんは眉間にシワを寄せながら言う。




「バカ!何事もない任務こそ気を配るべきだと教典にも…」




 いつもの説教が始まった。ホプキンス爺さんはこうなると長いんだよなぁ…






「よし!時間もないし行ってくるわ!」






 机においてある浄化薬の入ったポーチを引っ手繰るように肩にかけ急いで飛び出す。




「……?」


 浄化薬を取った瞬間爺さんが少し苦い顔をしたのが気にかかり振り向く。




「お前さんにゃ必要ないものだからな、勝手に飲んだりはくれぐれも…」




「わーってるって!何回その話聞いたんだよ!バスが行っちまうだろが!」






 教会の扉を締める。勢いが余ってしまい想像よりも強い力が入ってたのか大きな音がする。






「……いや、俺がまだこの力に馴染んでないのか」






 聖別。騎士団員として認められると協会本部から試練の通知が来る。試練と言っても何かをする訳ではない。




 本部に出向き儀式をし女神様に祈る。その後聖なる泉の水とやらが入った小瓶の中身を飲み干すと抗えないほどの眠気がやってくる。




 目を覚ましたら成功。目覚めなければ失敗だ。女神様に認められなければそのまま膝下に招かれる、つまりは死、だ。


 


 成功率は噂だと40%程度。だが複数回受けた聖者もおり回数を重ねるごとに成功率は落ちるとの事なので実際の成功率は不明だ。




 




 当然聖別にはメリットがある。1つは地位だ。




 神聖教は各国の中枢に潜り込んでいるため神聖教内での立場は実社会の地位に反映する。それに聖別成功者は問答無用で司祭となる。


 逆に聖別を経てないものは司祭以上になれないのだが。










 2つめは力。神聖騎士団は慈善活動なども行っているがメインは異教徒や吸血鬼、いわゆる神敵の討伐だ。




 直接戦闘をするので死亡率は低くない、特に吸血鬼相手だと跳ね上がるのだ。だが聖別された後は明らかに人智を超えた力を発揮できる。




 昔に何人か司祭と任務にあたった事があるが身体能力が桁外れだ。化物である吸血鬼と対等に殴り合えるしコンクリートが割れるほど吹き飛んで衝突しても死なない。




 俺も聖別されて分かったが何か別の力が身体に流れているのを実感できる。神聖力といい女神様の力が体に流れ込んでいるのだ。




 神聖力を身に宿していると吸血鬼は吸血行為が出来ない、毒になるらしい。女神様のご加護の1つだろう。










 3つめは専用武器"神聖礼装"の配備だ。




 吸血鬼共が使っている特殊な力を宿した道具、遺物。


 遺物の中でも神聖力でのみ稼働する武装だ。原理を解明できない特殊な力が付与されていることが多い。


 武器は選ぶわけではなく武器から選ばれる。聖別を終えると横に置いてあるのだ。


 






 細々した道具や権限も司祭になった際に渡されるが一番驚いたのはブーツだ。神聖力を極僅か消費し空を駆ける事が出来る!!






 吸血鬼はすぐに空に逃げるため不利になったり逃げられる事があったがこれならば対等に戦えるわけだ。


 まぁ上空の利を無くすために森など上からの視界を塞げる場所に陣取ることが多いんだがな。








「……っと、すいませーん!降ります!!」






 考え事をしていたらいつの間にか乗っていたバスが目的地の最寄りまで来ていた。








「………はぁ…登山か…」






 目的地の最寄りとはいってもあくまで"最寄り"なのだ。近い訳ではない。








 今回の任務は珍しく戦闘ではなく慈善活動。幾度も任務をこなしてきたが慈善活動系は初めてだ。






「浄化薬を孤児院に渡せ、か……


そもそも司祭が出向くような任務だとは思えないんだよな」




 このような任務を渡されるのであればなんのための力は分からなくなる。






「まぁ安全だし戦うのに比べりゃ面倒も少ないしな、悪くはねぇんだけどよ…?なーんか引っかかりやがるなぁ」






 浄化薬に価値があるため持ち逃げがあり得る……いや、そんな高価なものを孤児院に?






 つーかなんとなく浄化薬って名前から浄化されるのかって考えてるんだがなんの薬だ?






 一つ手にとって観察をしてみるが凝った意匠の透明なガラス便に透明な液体。瓶のサイズから考えると200ml程度の量だろうか。




 1本くらいなら開けても……






「司祭様!お待ちしておりました!」




「うわっと!…ぶねぇ〜!」






 落としかけた瓶をしまい前を向くと目的地についたようだ。シスターらしき人が手を振って歓迎してくれていた。

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