日本へ



 迂回しつつ山の周辺を飛び頂上を目指す。飛んでいる間ずっとリリーは、はしゃいでいた。






「到着しちゃいましたね、ありがとうございました」




「楽しかったなら良かったよ。………確かに静かでいいところだね」




 広い広場があり、机と椅子が数セットおいてあるだけの公園だ。誰もいないため静かで落ち着ける。正面を見ると手すりがの先に街が見える。






 キラキラと夜景が輝いている。夜の明かりの数は残業の数だと誰かが昔言っていた気がするがここでそれを言うのは無粋だろう。






 空気もいい。煙草を咥えるとカチッと横から火が出てきた。リリーがライターに火をつけたのだ。軽く会釈をし火をつける。






「………ふぅー。ありがとう。休みの日くらい良いのに」






「職業病ですかね?つけないほうが落ち着かないんですよね」






 そんなもんかねぇ…俺もなんか職業病みたいなのはあったのだろうか。






「初めてこの街に来た時、仕事で嫌なことがあった時ここに来たんです。高い所から広い景色を見ると悩みがちっぽけな物に思えませんか?」






 リリーも手すりに腕をつき夜景を眺める。




「私が住んでいるところ。いつも買っているお店。ここからだと全部見えないんです。嫌な場所も嫌いな人だってここからだと消えちゃうんですよ」






「あんなに高く飛べて強いマナト様からすれば大したことじゃないかもしれません」




 こちらをゆっくりと振り向くリリーは自嘲気味に笑っていた。






 そんな事はないが返答に詰まってしまった。






「…冗談ですよ。マナト様にはマナト様の悩みがある事も分かってます




マナト様は貴族ですよね?なんでそんなにお優しいんですか?」






 貴族だからどうとか正直良く分かっていない。と言うより今までそんな扱いうけたことがない。




 ただ、割と血が薄い吸血鬼には怖がられてきた。スンも言っていたが貴族はそれ以外を見下し雑に扱う事が多いと。






「……良くわかってないんだよね。相手を一人の人として尊重してる……って言うと凄い聞こえは良いけどさ。実はそこまで考えてないんだ」






 ちょっと怒ったいたずらっぽい顔でこちらを見ている。




「もう!こういう時は「君を愛しているからだよ」とか適当なことを言っておけば良いんですよ!ほんとにもー!」






 わざとらしく怒ってます!と腕を振っている。




「あ、そうだ。リリー、ちょっとこっち来て?


目をつぶって欲しいんだけど……そうそう。」








 覚悟を決めた顔をしてこちらに歩み寄って来る。失敗した。これじゃまるでキスをするみたいに思われてる!




 だけどそれでも拒否してこなかったと言うことは……




 待たせて不審に思われても事だ。取り敢えずは当初の予定通り髪にブローチをつけてあげる。




 一瞬ビクッとしたが少し不思議そうな顔をしていた。どうしたらいいかわからないのだろう。






 唇にチュッと一瞬触れるだけの軽いキスをする。




「目を開けて?俺からのプレゼントだよ」






 リリーはゆっくり目を開けながら頭を触り何が乗っているのかと触り始めた。


 よく考えれば頭につけてしまうとリリーからは見えない。鏡があればよかったが持っていないため外して手にのせてあげる。






「うわぁ…!ありがとうございます!」






 ギュッと大事そうに抱えるのだった。


























────────────────








「おかえりなさいませ、リリー、マナト様。報酬の話をしたいのですがお時間よろしいでしょうか?」






 ブラッドレイブンに戻ると戻る時間がわかっていたかのようにミヤコさんが待ち構えていた。






「ミヤコさん、お身体は大丈夫ですか?」






「まだ痛む所はありますけどね、ここなら回復が使える者も居ますので治りは早いですよ」






 着物から除く腕や首、胸元からチラリと包帯が見える。俺は切られたくらいじゃすぐに治るが普通はそうはいかないようだ。






「治るとはいえお大事にしてください……




あぁ、報酬の話でしたね。そちらですがもう頂きましたので大丈夫ですよ」






 右手にはめた小さな赤い宝石がはめられた指輪を見せる。




「!!……あぁ、なるほど。左手の薬指かと思いビックリしてしまいました。マナト様もお人が悪いですね」






 一瞬ビックリした顔をしてクスクスと笑い始めた。そもそも右手の中指にはめているため薬指に見えないだろうが!






「まったく…からかうのもいい加減にしてくださいよ!」






「ふふふ……ゲホッゲホッ!!


あぁ、傷が痛みますね、マナト様のせいです。私も一晩中看病してもらおうかしら…?」






「看病ならお医者さんに任せますよ、私に出来るのはせいぜい包帯巻くくらいです!」






 あらあら、じゃあ包帯巻き直すのをお願いしようかしら…なんて言いながら着物をはだけさせる、ふりをしてクスクス笑っている。冗談だと分かっていても妖しい艶がある。






「ふふふふふ!!このくらいにしておきましょうか、後でリリーが怖いですものね。


 さて、報酬はリリーの心で良いとマナト様が仰ってくれました。追加で渡すと言っても受け取っていただけないでしょうし…」




 袖からゴソゴソと何かを取り出す。






「こちらは私からのプレゼントです。通信は出来るように衛生契約してあります。


我々ブラッドレイブンの連絡先も入ってますよ。当然ですが傍受対策もしてあります。」






 スマホだ。そういえば欲しかった。だが契約の際に必要な身分証明書などすべて紛失したので契約ができず困っていたのだ。






「良いんですか……?」






「私達吸血鬼は人間と比べ長寿すぎるので戸籍登録する訳にはいきませんからね。お困りだったでしょう?




お礼は今後共お付き合いよろしくお願いしますって所でどうですか?」






 願ってもない事だ。こちらとしても最終的に騎士団を襲撃する際は協力を頼みたかった。




「…では今後もよろしくお願いします。時間が合えば任務など引き受けますよ」






「助かります、では。短い間となってしまいましたがありがとうございました!」




「同胞よ!我等が間に結ばれた縁に誓いここを第二の故郷にする事を認めよう!」




 ガタガタン!と後ろから黒ずくめの男が出てきた、書類を手に持っている。リーダーのブラッドレイブンだが意外と書類仕事出来るんだな…




「自分の家だと思っていつでも来てください。と言ってます」






 ミヤコさんの翻訳も久しぶりに聞けて少し前のことなのに懐かしく感じた。




 ソフィーが1歩前に出てくる。




「マナト様。任務の際はありがとうございました。私だけではミヤコ様をお守りできなかったでしょう、力不足を痛感します…」




 綺麗な青い瞳を伏せ金色の髪がそれを隠すように垂れ下がる。




「もしいつかお時間があれば稽古などおつけ頂ければと。お詫び…ではありませんがご連絡さえ頂ければいつでもデートに応じますわ。


………それと夜の稽古もお付き合いいたしますよ?」






 肩が細かく上下している。遠くから見たらソフィーを泣かしているようにしか見えないだろう。




「ソフィー!もう!」


「あら、彼氏奪われたくないのかしら?嫉妬?可愛いわね〜!」


「ぅ〜!!」




 ソフィーとリリーがじゃれ合っている光景は姉妹のようで微笑ましい。




「マナト様!」




 バッと音が聞こえる気がするほど凄い勢いでこちらを振り向くソフィー。






「絶対に!また帰ってきてくださいね!」






チュッ








「行ってらっしゃいませ!マナト様!」




 リリーは顔を真っ赤にさせ少し潤んだ瞳で笑ってみせる。




 頭をポンと一度だけ撫でて小さな声で「行ってきます」と言い歩き出す。








「皆様!短い間でしたがありがとうございました!」










 そう締めくくり日本に旅立つ。

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