閑話休題「オーティス-完-」
片割れを失ったショックからは俯いて動かなくなってしまった短髪吸血鬼。
2体1で渡り合っていたのに一人で、それも片腕が動かない状態ではどちらにせよ敵ではないだろう。
相対者としての責任は迅速に、苦しませずに葬ってやる事だ。
「怨むなとは言わねぇ、むしろ怨んでくれ。じゃあな」
短髪吸血鬼は顔を上げ絶望とも怒りともとれない眼差しをこちらに向け祈りのような体制を取った。片手だがそれは確かに祈りだった。
「せめて安らかに眠れ」
兄と同じ貫通弾で弟の血臓を穿いた。
「胸糞わりぃな…」
今まではもう戦闘になってから参戦していた為やらなければやられる、だから罪悪感も何もなく必死生き抜くだけだった。
だから吸血鬼について考えたことは…
葉の隙間からチラリと集団が見える。全部で10人程度のグループだ。
「爺さん!」
「オーティス…何故来たんじゃ」
「はぁ!?爺さんこそどういうつもりで…」
「オーティス!」
普段から怒鳴ってくる爺さんだが、聞いたことが無いような大きな声で怒鳴ってくる
「………なんだよ」
「お前は昔から考えんで突っ走るタイプではあったな、でも何故儂らが何も言わないで置いていったかわからん子でも無いじゃろ……?」
下を向きながら、こちらを見すらしないで爺さんは語る。他の奴らもだ。
「はっ!どうせ巻き込みたく無いとかだろうが!
いつまで子供扱いすんだよ!教えろよ!何も知らなきゃどうしようもねぇだろうが!
少なくとも爺さん、あんたの事は信じてるからよ…」
「……オーティス。世の中には知らないほうがいい事もだな…」
「知った上で知らないフリすりゃ良いだろうが!少なくとも今!俺まで疑われてんだよ!」
爺さんは振り向き教会の人たちと相談を始める。先程は爺さんしか見ていなかったがよく見ると吸血鬼が数人いる。
「…?あ、お前教会の中で…」
燃える教会の中であった吸血鬼が何食わぬ顔いる。
「何でここにいんだよ!お前!」
俺は何も知らないのにこの吸血鬼の方が爺さんのこと知ってるって言うのか!!
「……あぁ、せっかくのチャンスだったのにお前は来てしまったんだな」
吸血鬼の癖にこちらを軽蔑するような視線を向けてくる。タダでさえ今はイライラしているってのによ…!
武器を構える、!
「オーティス!彼は協力者じゃ!敵では無い!」
「はぁ!?お前ら吸血鬼となにしてんだよ!おかしいだろうが!」
まさか本当に吸血鬼と共謀している…?
「……分かった、オーティス。こちらへ来い。ここまで知ってしまったんじゃ、取り敢えずは一度拠点に来てもら…」
トントン、と爺さんの隣にいる吸血鬼が肩を叩き何かを耳打ちする。
「……オーティス。お前一人じゃないな?」
吸血鬼がこちらを睨む。
「いや、一人のはずだが…」
「チッ!つけられてんじゃねぇよ素人が!」
ガラの悪い吸血鬼がそういった瞬間、銃剣が青く光り輝く!!
-僕は優しいからね、身内殺しはしたくないでしょ?任せなよ-
ネメストの声が脳内に響き渡った瞬間、意識が遠のいた。
──────────────────────
「良かったよかった。上手く行ったね?」
「ネメスト、こりゃ一体どういうことだ?」
何もない真っ白な空間にネメストだけが居る。
「オーティス君、君実はとんでもなく強くなってるんだよ?」
「聖別…か?」
「まぁ、それもあるね。あんな吸血鬼数人、今の君が本気になれば数秒じゃないかな?」
ネメストは本気で言っているように見える。冗談じゃなさそうだ。
「……んで、これはどういう状況なんだ」
「さっきも言ったでしょ?君の為だよ。」
「だからそれがどういう事だって… !」
真っ白だった世界が少しづつ灰色になっていく。
「あれ、思ったよりも早かったね?まぁ君を大事に思っているって事だよ。なにせ私の 息子のよ うな ものだ か らね ! 」
段々と世界が薄れていく
「 はぁ!? 俺の 親は 爺さ ん だ け…」
───────────
「ゴホッ……ゴホッ……」
あぁ、夢か?
ったく、爺さんもう年なんだから怒鳴るなって前から言ってんだろ…?
「……オーティス……また………寝坊か………?」
あぁ…?ああ、分かってるよ。朝ね、はいはい。起きますよって…
「まったく……お前というやつは……いつまでも寝おってからに……目を開けんか…」
焦点がようやく合う。
朝からオッサンの弱った顔を見ながら叩き起こされる、最悪だ。せっかくなら元気な顔が良かった…
「ふふふ……オーティス、大きくなったなぁ……立派になったなぁ……」
「お、おいおい。爺さん…そんな最後みたいな…」
動揺して手に持っている"爺さんの腹に突き刺さった剣"を揺らしてしまう。
ボンヤリと気を失っていたときの事が脳裏にフラッシュバックする。
吸血鬼、人間、家族、知り合い
全て関係なく切り伏せ、撃ち殺した瞬間を。
これがネメストの言っていた優しさ……?
「……真面目に生きろとは言わん……教義もじゃ………じゃが、お前が全てを知りたいと言うならワシも覚悟を決めようか……」
爺さんは腹に刺さっている剣を自ら抜きポケットから何かを取り出す。
「オーティス……本当に知りたいんじゃな…?引き返すなら…」
「……ボケちまったかよ、爺さん…」
爺さんは透明な何かの石を腹に埋め込むと呻き始め倒れる。
「爺さん!!!おい!」
苦痛に歪みシワの多い顔が更にシワまみれになっていく。
「 …大丈夫じゃ……!
オーティス、お前がこの先どうするかはお前が決めるんじゃぞ?ワシや誰かに気を使って後悔するんじゃないぞ?
オーティス、口を開けてくれ」
口を開けると爺さんは腹から石を出す。血晶のように見えるものを俺の口に放り込んできた。
「わしの研究成果の1つじゃ。神聖教にも吸血鬼にも知られてはおらん。安心するんじゃな……」
爺さんの血の気が引いていく。それどころかどんどん軽くなっている様な気すらする。
「頑張れとは言わん……気楽に、肩の力を抜いて楽しく生きてくれ…………」
爺さんの焦点が合わなくなっていく。腕も力を失い体中が脱力していく。
おそらく聴力ももう無いだろう。無言で抱きしめる。
「息子の腕の中で死ねるんじゃ……まぁ美女の方が良かったんじゃがな……」
「……クソ親父が……」
「……………」
「………」
「…」
「オーティス様。お迎えに上がり…」
「黙れ。死にたいのか」
「ッ!」
教会からここまで連れてきた男だ。相変わらずいけ好かない笑みを浮かべている。
だが、今は、今だけは少しこのままで…
──────────────────────
結局爺さんに飲まされた石の詳細は分からなかった。
血晶から吸血鬼の個性因子を抜き、余った外殻に人間の情報を入れ記憶を引き継ぐための物であったらしい。
だが、不完全だったのかすべてが引き継がれたわけではなく俺には同じものは作れない。
爺さんは誰にも技術を誰にも伝えてないし記録として残してもいないようでもう同じものは誰にも作れない、オーパーツとなった。
あぁ、そうそう。基地に戻って暴れてやろうと思ったんだがネメストの野郎はもういなかった。
それに爺さんから託された事を考えるとここで暴れるのは良くなかったからな。大人しく従順なフリをしていたらいつの間にか日本行きが決まっちまってよ。
今は一応大司教なんだが、日本じゃ司教として行くらしい。
代替わりやらなんやらで今の大司教が日本から離れたらいずれ日本を任せる、だとか。
立派になっただろ?だから安心して眠ってくれよ。
「じゃあまたな、爺さん」
墓石の前の白い花が静かに揺れた。
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