現状




 リリーは寝てしまった。




 指輪を貰ったあとまたワインを一緒に飲んで語ったが時が立ったせいか故郷の事もあまり覚えてないとのことだった。




 ただ、避難組にいた青い髪の常に寝ている少女には見覚えがある気がすると言っていた。








 そんな子いたか?とも思ったがそういえば同じく避難組の吸血鬼に抱えられた身長ほどある青い髪の少女がいた。故郷が同じなら知り合いの子孫や、あの子自体が吸血鬼ならあり得ない話でもない。








 視界の端に鎌が入りトゥド・センザをメンテナンスしていく。




 とは言っても刃が欠けたりなど一度もした事はない。せいぜい汚れがつく程度だし血の汚れはトゥド・センザが吸収してしまうため手間は少ない。








「そういやさ、なんでお前欠けたりしないんだ?」




-なぜと問われましても私にも分かりません-




「やたら切れ味もいいし、欠けたり曲がったりもしないし、遺物でもないんだろ?何者なんだよ」




-作ったのはエアクラです。さっさと復活させて自分で聞いてください-








 結局エアクラさんが復活しないと話しにならないって事か。トゥド・センザについても何点か気になる点がある。






まず、喋ること。


 当然違和感しかない。だがヴィクトリアさんの武器も喋っていたしまぁそういった物もあるんだろうとまだ納得できる。




次に材質。


 柄や刃の峰に当たる部分は真っ黒な金属だが金属光沢はなくマットな質感だ。


 刃や柄や峰に罅割れの様に青いクリスタルのような結晶素材が使われている。何かの鉱石や宝石の様な綺麗な外観だが強度は並外れている。




 というより破壊する方法が思いつかないレベルだ。当然実験するわけにもいかないが。


 似た素材が使われている武器を知っている。神聖騎士団の使っている神聖礼装だ。




 神聖礼装は白基調に青い結晶を使われている事が多いようだが結晶部分は同じ素材に見える






最後に吸血能力だ。


 これにも謎が多い。吸血鬼からは吸血できるが人間からは出来ない。吸血した血は柄を通して俺に届く。人間からは出来ない。




 だが同じ人間でも神聖力を使う人間からは何故かできるのだ。




 そもそも人間から吸血できず、本来毒である吸血鬼の血を吸血できる意味がない。


 俺以外使えないのだ。それにエアクラさんは「武器が認めたマナト君以外使えない」と言っていたが本当か?トゥド・センザが俺のことをそこまで気に入っている様に思えないのだ。






「はぁ……まぁ考えてもしょうがないか。今はエアクラさん復活する事を第一に考えよう」






 整理しよう、まず必要なのはエアクラさんの血晶だ。




 場所は神聖騎士団のどこか。真相クラスになると雑兵ではおそらく知らないだろう。となると枢機卿以上のカエロサング一族だけだろう。




 カエロサング一族は基本的に教会から出てこないと聞きたので適当な支部を襲撃し捉え尋問するのがいいだろう。






 支部を襲撃し多数の団員と戦い、エアクラさんと対等に戦えるレベルの敵との戦闘は無理だろう。






 となると多数の、それも組織レベルの仲間が必要となるだろう。






 仲間集めと自身の強化が当面の目的で間違いないはずだ。そのために懐かしの日本に帰り暴虐の血族に協力を頼む。




 襲撃に必要な人数などは不明だが暴虐には有識者もいるだろう。








「はぁ…前途多難だな。よく考えれば血族の数も知らないし…」




-頭を悩ませるのはいい事ですが今は取り敢えず睡眠を取るべきではないですか?-




 チラリとベットに目をやるとリリーが寝ている。机に突っ伏したように寝ているのを見かねて俺が運んだのだ。








-………さて、私は寝ます。以降は音など聞こえませんのでお気になさらず-




 カシャン、と小気味良い音を立て刃が畳まれる。俺の周りにはからかってくるやつしかいないのは何故だ?






 幸いにも広いため背中を向けてベットに入る。




 少し動くと手が触れてしまった。起こしてしまったのかリリーももぞもぞし始める。




「……マナト様…?」














────────────────








「マナト様、おはようございます。」




 寝てしまっていたのか気がつくと朝になっていた。リリーが朝食を用意してくれていた。






「ありがとうね………そういえば今日は休みだっけ?」




 向かいにリリーが座り頷く。






「ん、じゃあさ、リリーに予定無ければだけど買い物に付き合ってくれない?これから長くなりそうだから色々用意したくてさ」






「ぜひお願いします!色々ご案内しますよ!」






 リリーは少し驚いたような顔をしたがすぐに快諾してくれた。






 その後食事を済ませるとリリーは着替えてくると言い部屋から出ていった。俺も出かける準備をしお財布の中を確認した所結構な金額があったので買い物の心配はないなと胸を撫で下ろした。






 というのも実は戦闘後死体から金銭だけは抜き取っていたのだ。貴金属類はそのままにしていたが金銭自体は別に形見にもなり得ないから良いだろうと、むしろ迷惑料だすらと思っている。






 そろそろ行くかとドアを開けると私服姿のリリーが立っていた。


 白いワンピースに黄色いカーディガンを羽織った姿は町娘のような可憐さがあった。私服姿を恥ずかしがっているのかモジモジとしている姿がいじらしく可愛い。




「メイド服以外の姿を始めてみたよ。似合ってる、かわいい」








「……ありがとうございます。マナト様はいつもと同じ格好ですね。お出かけ用になにか私服お持ちじゃないんですか?」






「持ってないね…」






「ふふっ、じゃあ今日買いましょっか!私が選んであげますよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る