"存在証明"



     「君の親。エアクラだけじゃないよ」






……は?吸血鬼にしたのはエアクラさんのはずだ。






「待ってくださいよ。そんなわけ無いでしょう」




 【継戦】の力だって受け継いでいる。エアクラ以外に【継戦】の血族がいないのだ、必然的にエアクラさん以外あり得ない。






「不思議に思わなかった?今まで眷属作り失敗してたのに君だけは特別に慣れた」




「なんでそうなったかは僕にも分からない。でもひとつだけ言えるのはもうひとり親がいるって事」




 アスラさんの言い方、知っている言い方だ。




「君も知っている人だよ?」




 異様な雰囲気に飲まれてかアスラさん以外誰も喋れない。










  「火剣ブレンシュ。【暴虐】の王ブレンシュって言ったほうが分かりやすいかな?」








 突如フラッシュバックする。過去の記憶が流れ込んでくる。


 エアクラさんが言っていた。なぜ俺を吸血鬼にしたのか。




 路地裏で倒れていた、と。






 そう。確かにそうだった、!




 






 確か残業続きで疲れて一人で飲みにいった夜。バーで出会った赤髪の女性、!その時に!吸血鬼にされて!!




 体調がおかしくなり倒れた。その後一人の女性、多分エアクラさんだ。に介抱されたんだった。




過去の情景が一瞬だけ浮かぶ。






夜。裏路地。少しだけ雨が降ってきていた。


若草色の髪の少女。「久しぶりだね」。「愛しているよ」。


「死なないで」。「今度は私が救うね」。


首筋に走る痛み。暗転。














     ガチン。






 






 頭の中で歯車が噛み合った。確かに俺は2回吸血鬼にされた。






 体に急激な変化が起こる。血臓が激しく脈動する、全身に過剰な量の血力が巡り体そのものが作り変わっていく。




 血管が耐えきれず破裂するがその場で回復していく。










「セリアン!何が起きている!」




「分からないのだわ!でも今がチャンス…ッ!」






「おいおい、邪魔はさせないよ?せっかくマナト君が覚醒しているんだ。君たちは孵化する鳥を殺しちゃうのかい?」






「いつの間に…!」


 








 赤く染まった視界でアスラさんの戦闘を見る。余裕そうにしてた割には苦戦している。












「あぁぁぁぁ!!!!」


 脳に直接何かが刻まれていく!エアクラさんが言っていた意味が分かった!これが俺!!俺の本質!




 この世界に俺がいる本質!証明!!


 理解した瞬間痛みは消え去り清々しい気持ちに溢れる。






 言葉が自然と口から出て行く。












   "存在証明"「「境界」」






 自分にしか感じられない"線"が世界に引かれていくのを感じる。




 自身の目の前に線が引かれる。




「「ッ! 」」




「何も起きないのだわ…?」


「膨大な力を感じたが…不発なのか……?」






 セリアンと呼ばれた女性は杖を掲げ光球飛ばしてくる。途中にある木々は触れるとジュッ…と音共に消し飛んでいく。






 「無駄だよ。どんな物だって、どんなに強くても"ソコ"は通れない」




 音もなく光球はなにかにぶつかり消失する。カイトさんは興味深そうな顔で一歩後ろに引いていく。




 ヴァレリアスは気合の声と共に突っ込んでくるが同じだ。




「そこには境界があるんだ。定義は"俺の許可した物以外通行禁止"


だから無駄だって言っただろ?」




「ハァァァァァァ!!」




 ヴァレリアスは何度も殴りかかっている。金色の炎が周囲に飛び散り辺りを照らしている。見えない壁には炎が付着すらしない。




「無駄だって言ってるだろ?分からないのか?聞こえないのか?音まで遮断したつもりはないんだけどな」




 トゥド・センザを構え近づく。




「せっかくの静寂だ。少し煩いよ」




 鎌で斬りかかるが避けられる。再度近づこうとしてくるが同じく壁に弾かれる。




「力の差を分からせてやるよ!」




      "存在証明"「「境界」」








 まだ慣れていないせいだろう。狙いが逸れセリアンとヴァレリアスの間に線が引かれる。






 まだ二人は警戒するが何も起きない。当然だ。




 まだ線を引いただけ。"定義"をつけるのだ。






   "存在証明"「「境界断裂」」






 言葉にした瞬間ゴッソリと血力が消費されていくのを感じる。




 だがその効力は絶大なものだった。引いた線を基準に世界がズレていく。


 地面、大気、木々。その全てが等しくズレて地形すら持ち上がっていく。




ゴゴゴゴゴゴゴゴ………




 当然自然環境はただでは済まない。地面深くまで線を引いてしまったがゆえに地殻変動が起こり大地震が発生する。






「ま………まさか………」


「環境すら…変化させたのか……?個人の力で、か!?」






「ハハハハ!マナト君の力は融和だと思ったけどまさか拒絶になるとは!追い詰めすぎたかなぁ!!」




 アスラさんは大笑いしながらバシャン!と黒い液体状になって消えてしまった。






 心地の良い全能感に見が包まれる。自らの存在を世界に刻みつける感覚のなんと心地良いことか!








「アハハ!行け!私はいま気分がいい!逃げろ人間共よ!」






 酩酊感が気分を高揚させる。






 ヴァレリアスはまだ戦いを挑もうとしているがセリアンに引かれ逃げていった。








-大丈夫ですか?あちらの様子が気になるので補給次第連絡を推奨しますが-






 トゥド・センザの声で我に帰る。忘れていたが今回の目的は殲滅ではなかったのだ。急いで戻ることにしよう。

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