真実
神聖騎士団の一行を見つけたときには日がすっかり暮れていた。
「トゥド・センザ、ここ以外には居るか?」
-ここ以外には見当たりませんね……いや、2名ほど村からこちらに向かってきてますね。先程店主が言っていた人間でしょうか-
神聖騎士団が先に潜り込ませていた人間か。薬をバラマキ村を汚染した張本人共か!
神聖騎士団一行は野営をしている。皆テキパキしていて練度は高そうだ。大きな血力を使うと後ほどの戦闘がキツそうだ。これ以外に増援がないとも限らないし見るからに強いであろう人間が二人いる。
で、あればと早速仮面の畏怖を使うことにした。仕込みとしてバレないように血編みを巡らせておく。
森に近いところで食事をしている騎士団員を殺す。悲鳴でバレないように首を直接潰すのだ。爪を伸ばし手刀を差し込めば一撃死の上、血もこぼれず回復できる。
死体はバレないようにテントに放り込む。数度繰り返すと流石に人が減ってきたことに気づく奴が出てくる。ざわめきは伝播していきやがて全体が警戒体制に入るその間際を、瞬間を狙
「ルクス・サクラ!聖なる光よ、私の手に宿ってください。悪を打ち破る力を示しましょう!」
バッとスポットライトでも当たったのかと錯覚するほどの光量が夜の森を照らす。ちょうどいい。みんなに良く見えるように照らし続けるんだな!
「"血編・槍"」
手を下から腕に振り上げると、団員の足や腰を数本の槍が貫き体が持ち上がる。
「あぁぁあぁあ!!!」
あえて殺さない。
わざわざ血編み発動時も必要ないのに大仰な身振りをしたのは演出だ。
「痛いぃい!いぃだいいだぁぁいいぁぁぁぃ!!」
叫び声は毒のように人の心を蝕んでいく。どんな屈強な人間でも知り合いが死の淵の絶叫を聞かされると隙が出来る。
そばには畏怖を放つこの地獄を作り出した張本人だ。どんなに理性は命令に従うことを選択しようとも本能には抗い難い。生物にとっては生存こそが至上目的なのだから。
既に目的は達成した。全員の目線が集まっているのだ。どうせなら楽に殺してやろうと被せていた布を解きトゥド・センザで首を狩ってやる。
トゥド・センザの切れ味のおかげでなんの抵抗もなく首が落ちた。まだ生きていると勘違いしている心臓が鼓動し首からブシュ、と血が吹きこぼれる音と共に緊張の糸が千切れる。
「ぎゃぁーー!殺さないでくれぇ!!!」
「死神だ!死神が来た!」「やめろぉ!見るなぁ!!」「死にたくない!」
良かった。計画通りに崩壊してくれた。ここまで無秩序に動かれると一人残らずとはいかないだろうが殲滅出来るだろう。
我先に逃げようと仲間すら踏んでいくやつには血編みをお見舞いしてやる。今回は一撃で殺す。
狂ってしまって立ち向かってくる奴もいる。赤熱化した剣を振り上げてくるが心が折れてるからか棒を持った子供レベルの剣技だ。
「助けてください!お願いします!足が動かな、助けて!お願い!」
仲間に踏まれ足が折れた奴に近づき楽にしてやる。
光を灯している女の近くにいる黒髪の男が指揮官だろうか。恐怖を煽ってやろうと近くにいる団員の首を狩り放り投げると顔を真っ赤にしてワナワナしている。
「イグニス・アルデンス!聖なる炎よ、我が手に宿れ。悪を焼き尽くす力を示せ!」
男がメリケンサックをはめ拳を打ち鳴らすと風のようなものが吹いた。
「総員!立て直しヴァレリアスさんの前へ整列!」
あれだけ恐怖で半狂乱になっていた団員が次の瞬間ケロッとし隊列を組み直している。強心作用のある技だったのか。失敗した、相性が悪い。
「良くもやってくれたな死神よ、これまでの様に楽に御せると思うなよ!」
単発のヴァレリアスと呼ばれた男が殴りかかってくる。メリケンサックの色は黒くなり金色の炎の紋様が浮き上がっている。
鎌でいなす。見た目ほどの力はないがスピードが早い。
それに団員達が隙を見て切りかかってくる。
まだ地面に残っている血編みを発動し串刺しにする。突然の攻撃にヴァレリアスは一度後退する。
「セリアン。正気に戻ったか?」
「え、えぇ。もう大丈夫なのだわ…こんな吸血鬼、資料になかったわ」
"マナト様!現在退避中ですがもう少し時間が欲しいです。どのくらい稼げますか?…くっ…!"
ミヤコさんのテレパシーがつながる。どうやら正気な人間達が少ないため避難を選んだようだ。時間稼ぎが必要なら会話の邪魔はしないでおこう。
「セリアンの知っている手配書にはあるか?」
「ないのだわ……私の知ってる吸血鬼じゃないわ」
ミヤコさんの方も忙しそうなので返答はしないでおく。
よく見ると団員が減っている。逃げたわけでも
-ジリジリと囲まれてますよ。よく訓練されていますね-
「多少力を使うが仕方ない」
両手に圧縮した血液を作り衝突させる!
「邪魔だ雑魚!向かってくるなら死ね! "血波煌けっぱこう"!」
紅い衝撃波が広がり次々に倒れていく。気を失う程度の威力しか出ないはずだったが想定以上の力が出た。さっき間でたらふく血を吸ったからか…?
「ヴァレリアス、強化法術はかけたのだわ!」
セリアンの声と同時にヴァレリアスが殴りかかってくる先程までと違い受け止めるのが精一杯だった。
女の方は強化できるのか!
ガギ…ギ……と鎌と拳で鍔迫り合いをしていると突然にヴァレリアスの拳から金色の炎が飛び散る!
血力量を上げる無理矢理ヴァレリアスを跳ね除ける。炎が腕に付着し消えず蝕んでくる。
「熱かろう。我らが炎は浄化の炎。吸血鬼の体を燃やし続ける」
手で払ってもなかなか消えない。血の短剣を作り肉ごと削ぎ落とすとセリアンとヴァレリアスは引いた表情をしている。
「なぜそんな表情をする?吸血鬼の回復力なら別に驚く事でもないだろう。吸血鬼の専門家だろ?」
「あなたの様な者は初めてだわ、不浄な者よ。私の浄化も防いでいるようですし何者ですか?」
名乗るわけもない。無駄に相手に情報を与える意味などない。
「好きに呼べ。不浄な者でも死神でもな。
……ただ、お前らのような同族でも薬漬けにして利用するようなクズに不浄と呼ばれる筋合いはないな」
「?なんの事ですの?」
しらばっくれるにしては名演技だ。時間稼ぎが目的だがせっかくだ。殺してしまおう。トゥド・センザを構えると林から人が飛び出て来る。
「まて!死神よ!お前の仲間だろう?動いたら殺すぞ!」
人質を取っているのか誰かの首にナイフを当てている。目を凝らすが…
「……誰だ?」
「酷いじゃないか。僕だよ僕。アスラだよ」
「あぁ!アスラさん!!日本以来ですね!」
神聖騎士団と始めて相対した、エアクラさんと最初に巡った村の警備隊長のアスラさん!!
「どうしてここに!?なんで捕まってるんですか!?」
「一つだけ君に伝えたいことがあってね、ここにいるって聞いたから遊びに来たのさ」
「おい!人質が勝手に喋るなよ!」
「よーーく聞いてね?1回しか言わないからね」
人質にされている筈なのにアスラさんは余裕、というよりそもそも気にしてすらない。捕まってやってるといった態度だ。わざわざここまで何を伝えに来たのだろうか…
「君の親。エアクラだけじゃないよ」
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