ヴァレリアス&セリアン
【神聖騎士団司令室】
「……という訳だ。君たちには部隊を任せるので例の村落の粛清を任せる。言うまでも無いことであるが吸血鬼と関わった村だ。人間諸共すべて粛清対象故に誰も逃してはならない」
大袈裟な法衣を身にまとった初老の男性が膝を付いている男女2名に命令を下す。
「「はっ!我が神に誓い粛清命令を賜りました!」」
「では行け。次回の報告は完了のみでよい」
「かしこまりました」
上位者であろう初老の男性が退出していく。バタンと扉が閉まると膝を付いていた男性が立ち上がり両拳をぶつけ気合を入れる。
長身で筋骨隆々。体には無数の傷がある。短く切り揃えられた髪の毛は上に逆立ち見るものに力強い印象を与える
「セリアン!準備次第旅立つぞ!」
セリアンと呼ばれた女性は少しため息をつきながら立ち上がる。銀色の長髪から覗く青い綺麗な目が開くと悲しそうな表情をしていた。
「……ヴァレリアス。なぜ人は吸血鬼に絆されてしまうのでしょうか」
ヴァレリアスと呼ばれた男性は短い黒髪を掻きながら少し困った表情をしながら考えている。
「昔から考えているがやはり力が無いが故であろうな、吸血鬼は人間より力が強い者が多い。
抗えなければ従うしかあるまい」
「そうなれば行く末は破滅だわ」
「故に我々が救いに行くのではないか?こうしている瞬間も愚かな吸血鬼に人間は酷使されているやもしれん。急ぐぞ!」
「待つのだわ、ヴァレリアス。今回の粛清は枢機卿様が直々に発見された重大な任務ですのよ?情報では大したものはいないとありますわ。でも1人も逃さないで浄化となると準備が必要だと思いません?」
「そういうのは分らんし苦手だ。いつも通りセリアンに任せる。
第二小隊!任務前に訓練をするぞ!付いてこい!」
ヴァレリアスは無骨な銀色のメリケンサックを拳につけ出ていく。
「はぁ……ヴァレリアスは昔からそういうの苦手ですものね。分かりましたわ、お任せなさい」
セリアンは机の上に乗っている資料を読み始める。
「ヴィラジョ。未登録の村落のようだわ。地図を見る限り開拓出来ても人口は50人程度でしょうね。」
未登録のため近隣の歴史から推察をするため本など参考資料をかき集め始める。
「地形は変わってないと想定できるわ。それに昔から目撃情報もあるみたいね。」
地図に小さな青い駒を置いていく。
「吸血鬼は10人入れば多い方でしょうね、それ以上は人口が維持できないでしょう。逃走経路は…」
赤い駒を10つ程ヴィラジョの上に起き青い駒を囲むように置くが頭を抱える。
「森が厄介ね…一般騎士のヒートブレードで火災が起きないように気をつけないといけませんわ」
「それに道中の補給………休憩点……」
セリアンは頭を悩ませ夜が更けて行く………
────────────────
【ヴィラジョ近郊・森】
「セリアン、まだつかないのか」
「ヴァレリアス、何度も聞かないの。今晩はここで夜営して明日早朝に向かえば昼前には到着するわよ」
ガチャガチャと周囲から野営準備の音がする。固形燃料等を燃やしそれぞれが食事の準備をしている。
「明日の配置だが取り囲むわけではなくそれぞれ5人程度を分散させると書いてあるがこれで良いのか?」
ヴァレリアスは地図を片手に唸っている。地図には道になりそうな点や谷など複数箇所に丸が書いてる。
「他の場所は流れの早い川があったり谷だったりで人間は逃げられません。吸血鬼なら上空に飛ぶでしょうからわざわざ下で待ち構える必要はありませんわ。
人選はヴァレリアスのほうが得意でしょ?任せますわよ?」
ふんっと鼻息を鳴らしながらヴァレリアスは拳を掲げる。
「者共!明日が粛清の時だ。各々手入れを忘れないように!」
決して大きくはないがよく通る声で武具の点検を命ずる。
「私も磨いておかなきゃだわ。ね、サクラ」
セリアンは先端に輝く輝石が取り付けられている純白の杖を手に取り布で拭き上げていくがその杖には一切汚れなどない
「セリアン。その武器に話しかける癖は直せとあれほど」
「ヴァレリアス、貴方も知っているでしょう?武器を大切に使い込めばいつか意思を持って特別な力をいただけるって」
ヴァレリアスは豪快に笑いながら答える。
「ガハハ!あれは伝説、おとぎ話であろうよ!聖騎士伝説、幼い頃に読んでもらった絵本であろう?」
「私のサクラは神様から賜ったものよ。きっといつか私の問いかけに返答してくれるのだわ」
うっとりとした顔で杖を撫でている。少し引いたような顔をしているヴァレリアスには気付かないのか知っていて無視しているのかはヴァレリアスには分からなかった。
少なくとも昔から同じやり取りをしている為気付いて無視しているのだろうが。
自分も自分の準備をするか、とヴァレリアスがメリケンサックを取り出したが周囲がざわついている事に気付く。
ヴァレリアスとセリアンに比べれば弱いが我が部隊は精鋭である。力はともかく幾度も死線を潜り抜けてきた同士に限ってこの様な情けない程に動揺するなど…
ヴァレリアスはセリアンに目線を向ける。セリアンは心得た様で杖を掲げる。
「ルクス・サクラ!聖なる光よ、私の手に宿ってください。悪を打ち破る力を示しましょう」
セリアンの持つ聖杖「ルクス・サクラ」から出る聖なる光が周囲を照らす。闇が開け目に入ったのは死神だった。
黒い仮面に漆黒のロングコート。手には黒い鎌。青い刃だけが静かに光っている。
闇を退け吸血鬼を弱体化されるルクス・サクラによる光はまるでそこだけ切り取られたかのように死神には当たらない。いや、死神自信から黒い闇が止めどなく溢れているのだ。
部下たちが悲鳴を上げた気持ちがよくわかる。視認するとまるで心臓を鷲掴みにされ、背中に氷を入れられたかのように身が萎縮する。圧倒的な存在感に気圧される。
呆然としていると部下の足元から血で出来た槍が生え貫く。急所をあえて避けているのか絶命しておらず痛みに叫んでいる。ゆっくり、一歩一歩を噛み締めるように死神が近付き鎌を部下の首に添える。
あれ程半狂乱になっていた部下たちが誰も動かない。
スッ………と音もなく首が狩られる。ブシャ、と首から血が溢れる音が決壊の合図だった。
部隊は烏合の衆と化した。四方八方、この死神から逃げるためであれば仲間でも構わず踏みつけ逃げようとする。
「ぎゃぁーー!殺さないでくれぇ!!!」
「死神だ!死神が来た!」「やめろぉ!見るなぁ!!」「死にたくない!」
瞬く間に一人の死神に半数ほど減らされる。
死神は仮面でわからないが嘲笑うようにこちらに部下の首を投げつけてくる。
舐めやがって!!
ヴァレリアスは武器であるメリケンサックを装備し両拳を恐怖を振り払うかの様にぶつける!
「イグニス・アルデンス!聖なる炎よ、我が手に宿れ。悪を焼き尽くす力を示せ!」
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