不名誉な疑惑




ピピピピピピピピピ……




 目覚ましがなる。朝だ。地下のため日光は入ってこないが時間になると自然と明かりがつくようになっているのか徐々に明かりが灯っていく。




 建物の見た目通り設備にも金がかかっている。コンコン、とドアノックの音がしたためはーい、と返事をすると扉が空いた。




「おはようございます、朝食を用意しましたのでお召し上がりくださいませ。ミヤコ様からお話があるようですので準備が終わり次第こちらのボタンを押してくださいませ」




 メイド服が見えたときにリリーさんかと思ったが今日は違う人だった。


 長い金髪と蒼い瞳の美しい女性。


 リリーは無駄のない動作であったがこのメイドさんの立ち居振る舞いは優雅であり女性らしいきれいな所作であった。




 そういえばリリーは結構酔っていたが大丈夫だっただろうか。




「ありがとうございます。……リリーさんは大丈夫でした?」






「…………通常通り働いております。お召換えなどはご自身になりますのでお願いいたします」




 なにか怖がりながらも怒っている様な、変な人を見るような?軽蔑の視線を含んでいるように感じる。




 初対面で心当たりもない…あ。




「念の為、念の為に伝えときますが、リリーとは何も無いですからね?」




「…言及しておりません。何もなさろうともご貴族様のなさる事には口を出しませんのでご安心ください」




 確実に信じてないだろうな。つか貴族!好き放題やり過ぎだろう!




「信じてもらえない、いや俺が信用に値しないのはしょうがないし怒るつもりもないけどさ。彼女の名誉にかけて信じてほしいんだ」




 メイドさんは下を向きブツブツと逡巡している。


 こちらからは何も言うことがないため無言で居るが気まずい。




「……なるほど。ご貴族様の好みでは無かったと。ご安心ください、使用人はまだいます。ご希望を…




「だから手を出さないって!それにリリーは魅力的だから別にそういう問題じゃないって!」




 必死に弁明する。顔を見ると驚き半分笑い半分といった表情に変化していく。




「聞いてはいましたけど変わった方ですね。




……もちろん良い意味ですよ?申し遅れました、私はメイド長を勤めさせて頂いてます、ソフィーと申します。以後よろしくお願いいたします」






 なるほど、からかわれているとかと思ったが試されていたのだろう。今までの話しぶりだと貴族から口止めされていればリリーは手篭めにされたと言えない。貴族は傍若無人なため探りを入れればすぐに分かる。




「…はぁ……合格といったところですか?まぁ信じてくれるなら良いですけど……


私はマナトです。ご迷惑かけると思いますがこちらこそよろしくお願いします」






「リリーからも聞いていると思いますが…敬語はお辞めになってくださいると助かりますのでよろしければ…」




「そうだったね。よろしく、ソフィー」




 ありがとうございます、とソフィーは言いながら退室していった。




 食事は和食だった。味噌汁がしみる……といっても血力で酔は覚ましているため二日酔いに聞くわけではないが気分的に心地よい。


 着替えなど、準備を済まし言われた通りにボタンを押すとまた別のメイドさんが迎えにき前日にもいった応接室へと案内される。






「おはようございます、マナト様。良く休めましたか?」




 ミヤコさんは相変わらずシミ一つない真っ白な着物を着てソファーに腰掛けている。




「おかげさまで何一つ不自由がない生活をさせていただきました。


あ、朝食和食にしてくださりありがとうございました。久しぶりで懐かしく美味しかったです。」




 ミヤコさんは口元を袖で隠し上品に笑っている。




「それはなによりです。昨晩は運動なされたので重い食事もどうかと思いまして」




 からかうように笑っている。後ろに立っているソファーさんが澄まし顔でいる。が、口元が緩んでいるのを見逃さなかった。




「いやいや!もうご存知ですよね!?」




「昨晩、酔ったリリーを介抱なさっていたときはマナト様も手が早いと思い驚いてしまいました。


冷静に考えればあそこまで酔っている女性にメイド服を綺麗に着させるのはなかなか至難の業。何も無かったのでしょう。」




 ミヤコさんにまであらぬ疑いをかけられていたとは…リリーの部屋まで案外遠く道中いろいろな人に見られていた。噂が広がるまでに時間はいらなかったのだろう。






「……ちなみにですが、我がブラッドレイブンはメンバー同士の恋愛は禁止しておりませんよ」




 冗談はやめてくれ。




「冗談ではありませんよ?"メンバー同士"の恋愛、結婚は許してます」




「……斬新な勧誘方法ですね?営業職向いてますよ、きっと」




 うふふふとミヤコさんはとても上機嫌な顔だ。




「さてさて、余談はここまでにいたしましょう」






 ミヤコさんは真面目な表情になり空気が引き締まった。




「マナト様。依頼をしてもよろしいでしょうか?」

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