リリー
風呂から上がるとちょうどリリーさんが食事を用意していた。
「おまたせしました。食事の用意ができましたが…よろしければ私が髪の毛を乾かしましょうか?」
「いいですよ、恥ずかしい」
ドライヤーのスイッチを入れ乾かす
「………失礼ですがなぜ敬語を?貴族の方ですよね?」
ドライヤーの音がうるさくしっかりと聞き取れない。だがスンも言われた事だ。
「……ごめんなさい。ちゃんと聞こえなかった!」
「…いえ、大丈夫です。他愛の無いことでしたので。
……よろしければ敬語はお辞めになっていただけませんか?所属とされても私が違和感を覚えてしまいますので…」
あぁ、それもスンに言われたなぁ
「…わかったよ!それとなんて呼べばいいかな!」
相変わらずドライヤーの音が煩く少し声を張る。
「リリー。リリーとお呼び捨てになってくださいませ」
髪が乾きドライヤーをしまう。
「ふぅ。わかったよリリー。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。さ、食事の支度が整いました。こちらにおかけくださいませ」
リリーは可憐な顔で微笑んだ。トゥド・センザを端に寄せようとしたが止めた。触ると危険だと説明すると冷や汗をかいていたのが印象に残る。
食事をしている最中も一流ホテルのウェイターの様に近くに侍っている。見られていると緊張するため対面に座って話し相手になってもらうようお願いをした。
グラスに注がれた飲み物兼デザートの血を飲みながら質問をした。
「そういえばリリーはなんでブラッドレイブンに所属しているの?」
リリーも一口血を含み答える。最初は遠慮していたがグラスに注いでしまえばこちらのものだ。困ったような喜んでいるような表情をしていた。
「私はもともと吸血鬼だったんです。両親も吸血鬼でした
特に血が濃いわけでもなく、戦いの技術に優れているわけでもなく。
お金は無いわけではありませんが裕福な訳でもない。ごくごく普通の平凡な家庭でしたよ」
……眷属化以外でも吸血鬼は繁殖できるんだな
「村は大きくはありませんでしたが人間も吸血鬼も仲良く暮らす小さな農村でした。
父は狩りが得意で良く鹿などを狩って人間に売っていました
……血、飲み終えてしまいましたね。マナト様はワイン飲まれますか?」
頷くと棚から手際よくワインを取り出し準備してくれる。
同時に葉巻と灰皿、マッチも用意される。
「あれ、俺煙草吸うって言いましたっけ?」
リリーは準備をしながら顔だけをこちらに向けいたずらに笑う。
「うふふ、マナト様。指と口が寂しそうにしていましたよ?……欲しいものを気付いて言われる前にご用意させて頂くのが一流のメイドですから」
からかうような、でも誇らしげにクスクスと笑っている。
「座っているだけで次々と用意が進んでいく、なんか偉くなった気分になっちゃうな」
葉巻を咥えると火のついたマッチがあてがわれ、煙になり口内を満たす。
「実際マナト様は貴族の方ですよね…?」
「そうだね、血の濃さで言えば貴族……になるんだろうね。まぁ実感はないし、俺が何か偉業を成し遂げたわけじゃないし」
「……そうですか。私としては偉業を成し遂げてもマナト様はそのままな気もしますし、そのままでいてくださると嬉しいです」
ワインを開けグラスに注がれた。テイスティングをし問題ないことを伝える。こちらを伺うリリーに対しもちろんリリーも飲んでくれと身振りで伝える。
「…どこまで話しましたっけ。
…そうでした。父は狩りが得意で、母は吸血鬼なのに料理が得意だったんですよ。
面白いですよね。吸血鬼は血だけでいいのに」
「…想像通りですよ。ある日父が狩りから帰ってこなかった。
人間に、神聖騎士団に殺されたと思っています。でも…遺体は血晶を抜かれたわけでもないようなんですよね。血だけ抜き取られて死んだとか。…神聖騎士団のやることは分からない事が多いです。
母も周囲の静止も聞かずに探しに行って行方不明に……もう、100年も前の事になりました」
吸血鬼と話していると時間感覚がおかしくなる。リリーさんは外見的にはせいぜい20代後半に見えるので10年そこらだと思っていた。
「一人で何をしたらいいか分からず何年か自暴自棄な生活をしていたらお金もなくなって。
仕事をしなければと考えたときにブラッドレイブン様にお声をかけられて今のお仕事をしているんです。
…あの時ブラッドレイブン様が声をかけてくれてなかったら野垂れ死んでいたかもしれませんね」
リリーさんは自虐気味に笑っている。職業柄かしっかりしているイメージがあった。
「新しいボトルお持ちしますね。お待ちくださいませ」
もう完全にリリーさん主導で飲んでいる。新しいボトルを取り出すと何も言わずに新しいグラス2つに注ぎ始めた。馴染んでくれて喜ばしい限りだ
「…そういえばマナト様はどうしてここに残ったんですか?」
所々かい摘んで説明をした。少し長くなってしまったがリリーはちゃんと聞いていてくれた。
「ふーん。なるほど…じゃあ当面はエアクラさん?の復活が目的なんですねー」
大分酔っているんだろう。頬も赤く目もとろんとしている。
「そっかぁ……エアクラさんって恋人なんですかぁ?」
恋人。肌は重ねたが恋人だと言葉にはしてなかった。大人になると告白などは減るように思う。
きっとあのまま年月が立っていれば自然と恋人になっていただろう。節目としていつか俺が告白していたんだろうとも思う。
だが、その時は訪れなかったのだ。
「いや…恋人では、なかったよ、」
「ふーん…ほんとうですかぁー?」
ジト目でこちらを見てくるリリー。ふーん、へー。そっかぁ〜………と言いながらワインをハイペースで開けていく。
「そういえば旅してるんですよね?私よく考えれば村とここしか知らないから外のお話聞きたいですー!」
「俺も吸血鬼になったばかりだけど色んなところ行ったからねー、あ、そうそう。中国なんだけどさぁ……」
その日はリリーと夜遅くまで語り明かし、部屋まで見送り別れた。
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