希望




 復活。




 死んだ人間が生き返る。 




「復活!?出来るんですか!?どんな方法が!!!教えて!!」




 ヴィクトリアさんの肩を掴み問いかける。




「う、うん?てっきり、君、は、復活、の為に…」


-お、おい、坊主!分かった!分かったから揺らすなって!ヴィクトリアがガクガクしてんじゃねえか!-






「何でもします!!ヴィクトリアさん!!教えてください!!」




 ここだ。恐らくここが大きな人生の分岐点だ。ここで諦めるわけにはいかないのだ。すべてが決まる。




 バッと手を放し正座する。土下座をするため手を地面につく。






「ふぅ……いや、別に教えるが……座り込んでどうした……?何か不思議な事が……ああ!ここの地面は遺物の力で特殊だものな!気になるか!」






 土下座は伝わらない様だ。だが………これで…!!






「ありがとうございます!!あ、これ土下座って言いまして……」






-あぁ!あの日本のやつな!本物が見れる機会だったのになぁ!-


「…あぁ!聞いたことがある!だが本当に屈辱的な行為と聞く。マナト殿、まだそれは取っておくんだな。」




 ヴィクトリアさんは手を差し伸べ、立つのを手伝ってくれる。




「さて。情報に齟齬があってはいけない。暴食姫……あー、エアクラ殿の血晶は破壊されてはいないな?とはいえこのような短期間で壊す事などできんと思うが…」






 状況を思い出すと怒りが沸々と湧き上がってくる。




「………はい。奴は血晶を抜き取り観察して懐に入れてました……」




「ふむ。真祖の血晶とは長い時間をかけて溶かす以外破壊方法はないからな」


-"あの"一族でもか?-


「だろうな。今まで目の前で壊されたことはなく持ち帰っていたから確実だろう」






「カエロサング一族ですよね…?ちなみにどの程度猶予は残されてますか?」






「しっ!あまり大きな声で話す内容ではない!」




 ヴィクトリアさんは人差し指を俺の口に当て顔を寄せてくる。




「………ミヤコ殿から聞いたと思うが周囲の吸血鬼が狙われるのだぞ……軽率にその名をだすな…いいね…?」




 こくんと頷くといい子だ。と撫でられる




「……で、復活方法だがまずもって【継戦】はどうやら少し特殊な様だから必ずしも絶対じゃないと心得てほしい」






「もちろんです…違っても恨んだりなんてしませんよ!」




 なんの手掛かりも生き甲斐もない今。これだけが唯一の希望だ。






「血晶に同血族の生き血を流し込むんだ。それも何年も、だ。」






 つまり俺の血を何年か捧げるだけで…?




「そうだ。その間付きっきりである必要はない。というのも血晶状態だと吸収が遅いのでな。なくなったら補充する程度だが莫大な量が必要となるため長い年月がかかるのだ」


-つかよぉ!俺らはてっきりその為に動いてるもんだと思ってたぜ?-






「血晶で復活できるなんて……知ってはいましたが吸血鬼になったばかりで人間の常識が抜けきってませんでした…


それにショックがまだ抜けきってなくて……」






「真祖級の血晶であれば大きな支部だろうから場所は絞れるだろう。だが一人でどうにかなる話ではない。真祖級は壊れにくいとはいえ恐らく持って1年。これ以上はいつ壊れてもおかしくない」




 壊れたらどうなってしまうのか………いや、聞かなくても分かる。本当の死、だ。




 ブレンシュさんの力のインパクトが強すぎて忘れていたが事の発端はブレンシュさんの部下の血晶回収の流れでこうなっていたのだ。ブレンシュさんが焦っていたのもそのためだろう。






 最終目標は決まった。もちろんエアクラさんの復活だ。では目先の目標は?


 




 エアクラさんを復活できる事はわかったがまだエアクラさんの血晶が保管されている場所が分からない。真祖級であれば恐らく大きな拠点だろう。もしかしたら本部と呼べるような場所にある可能性のほうが高い。






 そうなれば当然一人では不可能である。軍隊と呼べるような戦力が必要となる。忍び込むとしても少数精鋭。失敗出来ない事を考えると陽動も必要となるためやはり人数は必要だ。




「………申し訳ないが協力は出来ないんだ。だが支援は惜しまない。情報を提供したりなど困ったら頼ってくれたまえ」




 会話の流れからして当然協力してくれると思っていた。だがよく考えれば神聖騎士団と真っ向勝負をするのだ。一緒に死んでくれ、と言っているのと変わらないのだ。




「期待していたのですが…理由をお伺いしても?」






「私の旅の目的を言っていなかったな。知識や遺物の収集をしている………だがそれは手段だ。私は【叡智】の血族だが今は血族から抜けて独り身。私の夢は当たり前に吸血鬼と人間が共存することなんだ」




 共存。ヴィラジュなどでは出来ていたが神聖騎士団によって崩壊した。目的が共存であれば…




「共存の邪魔になっているのは神聖騎士団ではないですか?共存の為に神聖騎士団は滅ぼしたほうがいい。それなら協力できると思うのですが…」




 少しいい方が極端になってしまった気がするが本心だ。だが目の前のヴィクトリアさんは少し悲しそうな顔をした。




「それも一理あるけどね。でもそれは君の視点からなんだよ。」


-まぁそんな目にあったんだ。坊主が恨むのも無理はねぇし非難しねぇよ。けどな、逆だってあるんだぜ?-




「まぁ、そういうことだ。吸血鬼が親の前で子を吸い殺す、なんて事だってあるんだ。……人間、吸血鬼。こんな大きな分類で考えることは愚かだが、私の夢はそんな愚かな事なんだ。笑ってくれても構わないよ」




 そういうヴィクトリアさんは何度も話何度も笑い飛ばされたのだろう。少し諦めたような、自虐的な笑みを浮かべている。






 人間だって吸血鬼だっていい人も悪い人もいる。そういうことだ。人による、その一言で片付く。


 だが共存するに場合相手への印象は極端に映る。人によると言っても偏見はなかなか無くならない。




 結局は堂々巡りなのだ。






「笑わないです。いや、笑えないですよ。エアクラさんも同じ様に共存できると言ってました。俺だって当然のように共存できると思ってた。




……何も知らなかっただけかも知れないですけどね、はは……いや今もですね……」






 カン……キンッ………と周囲の吸血鬼たちが修行している音だけが響く。俺とヴィクトリアさんの会話が途切れ沈黙が流れた。

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